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42歳の誕生日を迎える福藤豊 ホーム開幕戦後、2026年五輪最終予選を語る 五輪には「近づいている」

沢田聡子ライター
筆者撮影

日本のアイスホッケー選手で唯一NHL出場経験を持つ福藤豊は、今日42歳の誕生日を迎えた。

福藤は、8月29~9月1日にデンマーク・オールボーで行われた2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪最終予選に、日本代表のバックアップGKとして出場。好セーブを連発して日本のゴールを守り続けたGK成澤優太(レッドイーグルス北海道)とは同部屋で、失点についての話を聞くなど精神的なサポートもしたという。格上である三か国との戦いとなった最終予選で、日本は白星を挙げることが出来ず五輪出場はならなかったが、勇敢に戦い抜く姿勢をみせた。(第1戦 ノルウェー4―日本2 第2戦 デンマーク3―日本2 第3戦 イギリス3―日本2)

そして、9月7日からアジアリーグアイスホッケー2024-25シーズンが開幕した。福藤が所属するH.C.栃木日光アイスバックスは、昨季優勝チームであるHLアニャンアイスホッケークラブ(韓国)とのアウェー戦でシーズンを開始。一勝一敗とまずまずの滑り出しをみせ、翌週のホーム開幕戦を迎えた。

9月14日、アイスバックスは、日光霧降アイスアリーナに詰めかけた1520人の観衆の前で、昨季準優勝チームのイーグルスを相手に熱いゲームを展開した。第2ピリオド4分17秒、DF佐々木祐希が先制ゴール。直後に同点弾を許したものの、9分13秒、パワープレー(数的優位)のチャンスを生かし、FW磯谷奏汰の得点で勝ち越す。だが、勝利まで3分を切った第3ピリオド17分13秒に同点に追いつかれ、延長戦でも決着はつかずPS戦に突入。イーグルスGK成澤とバックスGK福藤がそれぞれのゴールを守ったPS戦をバックスが制し、ホーム初戦で価値ある白星を挙げた。

マンオブザマッチに選ばれた福藤は、試合後のリンクでファンに挨拶した後、会見に臨んだ。

「開幕戦が敗戦になってしまって、自分の勝ち星がない状態だったので。ホーム開幕戦ということもあって、いつも以上に高い集中力を持って、65分守れたんじゃないかなと思います。でも(第3ピリオドまでに勝利した場合に得られる)勝ち点3を取るチャンスがありながら、失点して追いつかれてしまった。そういった部分では、もう少し修正しなければいけない。優勝を目指すチームがレギュラーシーズンを戦っていくには、浮き沈みのない安定したシーズンにしなければいけないと思うので。修正点を修正して、また明日に臨みたいと思います」

「責任感というか、そういったものはすごく考えたので、非常に気合いの入った試合でしたね。たくさんのお客さんも観に来てくれていましたし、いい試合だったと思います」と振り返った福藤に、今季を迎える心境についての質問があった。

「僕自身今月の17日に42歳になりますけど、やっぱりこの年齢になると、先のことをすごく考えてしまって。もちろんそんなに長くもないですし、いつまでアイスホッケーを続けられるかも分からないので、一戦一戦、大事に戦いたい。それがやはり最後の結果につながると信じて、頑張るだけだと思います。後は自分を信じて、チームメイトを信じて、このままいい勢いを持って戦っていきたい」

「自身24年目のシーズンで、アイスバックスではもう10年。(アイスバックスの在籍年数が)一番長い選手になってしまいましたけど、でもまだまだ高いパフォーマンスをキープ出来ていると思いますし。それに満足することなく、出来る限り上を目指して頑張りたい」

アイスバックスは、今季設立25周年を迎える。

「節目で結果をしっかり出すということが、いい話題にもなりますし、アイスバックスにとってすごく大事なことだと思うので。しっかりとその気持ちを持ちながら、戦っていきたい」

会見後、福藤は個別取材に応じてくれた。

――ホーム開幕戦、盛り上がってとてもいい試合になりましたが、ご自分が貢献出来た手応えはありましたか

「ありましたね、はい。高い集中力を持って、最後まで勝つチャンスを与えられたと思うので、僕の仕事は出来たかなと思います」

――会見で、藤澤悌史監督も「今日(のキープレーヤー)は福藤ですね」と言っていました

「ありがたいですね(笑)。でもやっぱり開幕戦は負けてしまったので、そこの責任はすごく感じていましたし、非常に気持ちの入った試合になりました」

――長い試合の最初から最後まで高い集中力を保っていて衰えを感じさせませんが、プレーの質を保つ努力はしていますか

「やはりゲームの読みについては多く経験している部分ではあるので、しっかり自分の中に埋め込まれているというか。特に意識しなくても、高い集中力は保てるのかなとは思います。オフから開幕に向けて、シーズンを戦い抜くためにトレーニングしてきたので、後は自分がやってきたことを信じて戦い抜くだけかなと」

――日本代表ゴーリー同士の対決になりましたね

「(成澤選手がゴールを守る対イーグルス戦は)いつも、特別な試合になります。やっぱり、相手の成澤選手もそうだと思うんですけれども、負けたくない対戦相手でもあるので。そこは意識していないと言えば嘘になります」

――2026年五輪最終予選に話を移します。どの試合もあと一歩で勝利、でもそのあと一歩が大きいのかもしれないとも感じましたが、いかがでしょうか

「そうですね、そのあと一歩がまだまだ届かない部分なのかなとは思いました。ゲームプラン通り最後まで戦えたとは思うのですが、パックの支配率も圧倒的に相手の方が上でしたし。いい試合は出来たと思うのですが、やはりそこで勝つことがいかに大事かということに対して、選手自身の理解が深まった大会だったと思います。でも最後まで戦い抜いた選手たち、成澤選手に対してもすごく尊敬するというか、誇りに思う大会になったのかなと」

――福藤さんとしては、2014年ソチ、2018年平昌、2022年北京、今回の2026年ミラノ・コルティナダンペッツォと、4回目になる五輪予選だったと思います。オリンピックへの距離は近づいているという感触ですか

「近づいていると思います、はい。今大会ですごく感じました。『日本代表で結果を出すんだ』という思いを持った選手が集まっている、多くなってきたなと感じます。選手の頑張りでここまで来られていると思うので、周りがそれに応えてほしいなとすごく強く思いますね。このままで終わらせたくないですし。

僕自身はもう年齢を考えると今回が最後の予選だったかもしれないですけど、すごく可能性を感じました。『今後のアイスホッケー界の未来が楽しみになる選手たちが集まったな』というのは非常に強く思いました」

「海外組が勢いや知識、刺激を日本代表に持ち帰ってきて、それがチーム全体につながって。後は本当に、日本代表に対する思いが強い選手が増えましたね」

――「日本代表が強くなることでアイスホッケーが盛り上がる」という意識があるということですか

「あると思います。それは、みんな話していますし。やっぱり僕たち、今回(2026年五輪最終予選に)いったメンバーもそうですけど、『自分たちの手で何かを変えるためにつかみ取らなくてはいけない』というのが共通した意識だったので、すごくいいチームでした」

――女子日本代表が五輪に出場したことによる好影響を見たこともあるのでしょうか

「それもあると思いますね。僕たちは何も達成出来ていない、その先を見たことがない。女子の結果を外から見るだけだったので、自分たちがその景色を見るためには、自分たちでつかみ取らなくてはいけない。そこは誰も言い訳していないですし、今回の結果はしっかりみんな受け止めて、今後に向かって頑張ってくれると思います」

――2014-15シーズンにはデンマークのトップリーグチーム、エスビャー・エナジーに在籍しましたが、当時を思い出すようなこともありましたか

「10年ぶりぐらいだったので…ただ、昔一緒に戦ったチームメイトがデンマークチームに二人いて。まだ僕がいた時はジュニアの選手だったのですが、それを見てすごく嬉しかったです。向こうもちゃんと覚えていてくれて、試合後にちょっと話しましたけど。そういうのを見ると僕が年を取ったなとも思いますし、嬉しい気持ちでしたね」

――以前から1シーズン1シーズンを大切にして臨まれていると思いますが、先程記者会見でのお話を聞いていて、そういう気持ちが強くなっているのではないかと感じました

「まあ、やっぱり、そこからは逃げられないですからね。いつか終わりが来るというのも分かっていますし。ただアイスホッケーが大好きで、まだまだ試合をすることに対しての熱量、情熱は持ち続けているので。出来る限りのことをして、頑張りたいなと思います」

――今日のプレーを見ていると、衰えを感じませんでした。ご本人も感じていないのではないかと思いましたが、いかがですか

「あまり感じていないですね。『何処かが落ちたな』みたいなことは、正直感じていないです。年々、氷上では無駄なことが削ぎ落とされて。その分、年齢を重ねるとやっぱり、食事の工夫や体のケアなど、試合から離れた時にやることが多くなるのですが、その作業とも上手く付き合えているので、まだまだ進化出来るという感じです」

好敵手とゴールを守り合い、ホームの大声援の中で勝利を勝ち取った福藤豊。飽くなき向上心を持つレジェンドは、大好きなアイスホッケーに向き合い続ける。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。2022年北京五輪を現地取材。

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