Yahoo!ニュース

新たな表現を追求する“りくりゅう”「恥を捨てよう」ピュアな向上心でさらなる成長を目指す

沢田聡子ライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

今季の “りくりゅう”は、笑顔を封印して滑る。

グランプリ(以下GP)シリーズ第1戦スケートアメリカ・ペアで、三浦璃来&木原龍一が優勝した。滑る幸せをふりまくような笑顔がトレードマークだった二人だが、今季はクールな表現を追求している。

昨季までの数シーズン、三浦&木原は、師事するブルーノ・マルコットコーチの家族であるジュリー・マルコット氏が振り付けたプログラムを滑ってきた。ジュリー氏の振付は二人のさわやかな魅力を世界に印象づけてきたが、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪プレシーズンとなる今季、三浦&木原は表現面での挑戦をしている。ショートプログラムの振付をシェイ=リーン・ボーン氏、フリーの振付をマリー=フランス・デュブレイユ氏に依頼したのだ。

ショートの曲は、ザ・ローリング・ストーンズ『Paint It Black(黒くぬれ!)』のアレンジバージョン。不穏な雰囲気が漂う旋律と黒い衣装をまとう二人の疾走感があいまって、独特の迫力を醸し出す。

首位に立ったショート後の記者会見で、初めて組むシェイ=リーン・ボーン氏からはどんなアドバイスがあったのか問われると、木原は「曲の雰囲気が少しミステリアスな感じになっているので」と説明した。

「『そういった雰囲気を、しっかり滑りでも表現できるように』と言われたような気がします」(木原)

フリーの曲は、ベンジャミン・クレメンタインが歌う『adios』。ネイサン・チェンが2018年平昌五輪シーズンにショートで使用し、強烈な印象を残した『Nemesis』も、ベンジャミン・クレメンタインの曲だ。恋に破れた男性の恨みを歌う『Nemesis』ほどではないといえ、「さようなら」というタイトルである『adios』にも、重さが漂う。

三浦と木原が『adios』で表現するのは、近づいたり離れたりする男女関係だという。振付を担当したマリー=フランス・デュブレイユ氏は、現在世界のアイスダンスを牽引するアイス・アカデミー・オブ・モントリオールを拠点としている。この『adios』にもアイスダンスでみられるようなリフトや二人のたたみかける動きが組み込まれ、洗練されたプログラムに仕上がっている。

フリー後の記者会見では、アイス・アカデミー・オブ・モントリオールでアイスダンサーと一緒に練習した際、学んだことについて質問があった。

「二週間モントリオールで練習させていただいたんですけど、陸上で、鏡の前でダンスするんですよ。それが本当に初めての経験だったので、新しい私たちのスタイルに今後取り入れていきたいなというふうに思っています」(三浦)

「世界トップレベルのアイスダンサーの方と一緒に練習させていただいて、踊りもすべてハイレベルで。自分たちのレベルがものすごく低いことを感じて『恥ずかしがっていたら、駄目だ』って。『とにかく、下手くそでもいいから表現することをやろう』というふうに話したのを、僕はすごく覚えています。『恥を捨てよう』と言っていました」(木原)

その時の思いがよみがえってきたように熱く語る木原の言葉を、傍らの三浦もうなずきながら聞いていた。モントリオールで得た学びを語る三浦と木原の真っ直ぐな眼差しには、表現の幅を広げたいという強い意志が感じられた。

三浦&木原は、一昨季は世界選手権を含む主要国際大会をすべて制する「年間グランドスラム」を達成し、怪我で出遅れた昨季も世界選手権で銀メダルを獲得した。世界トップレベルのペアである二人だが、まるでシニアに上がったばかりの新人のように真摯な姿勢で競技に取り組み続けている。ピュアな向上心を持ち続ける“りくりゅう”の新たな魅力がシーズンを通して増していく様子を、楽しみに見守りたい。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。2022年北京五輪を現地取材。

沢田聡子の最近の記事