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文科省収賄事件の谷口被告、学校英語教育への参入構想

寺沢拓敬言語社会学者

昨夜(8月27日)のNHKクローズアップ現代は、文科省贈収賄事件の特集だった。

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4171/index.html

NHKクローズアップ現代ウェブサイトより
NHKクローズアップ現代ウェブサイトより

焦点のひとつは、東京医科大学・臼井正彦被告と文科省・佐野太被告を仲介した医療コンサルタント会社の元役員・谷口浩司被告(収賄ほう助の罪で起訴)。

谷口被告により提供された25時間にも及ぶ録音データも放映された。圧巻というしかなかった。白井被告・佐野被告を含む関係者が酒席で談笑しながら、自身の罪を「自供」している生々しい様子が収められていた。

私の専門領域(外国語教育政策)に関して、ひとつだけ見逃せない指摘があった。

それは、谷口被告が、文科省とのコネをバネに、学校英語教育にも参入しようという構想をもっていたという話である。この事実はまだ報道されていなかったように記憶しているのでNHKのスクープだろう。

具体的には、谷口被告は、フィリピン・セブ島に英語教育の拠点をつくり、日本の学校にオンラインで英会話レッスンを提供する事業を構想していたそうである。

蛇足ながら、佐野被告の息子のセブ島留学をめぐるスキャンダルがここでつながる。

当然ながら、谷口氏は、学校英語事業に関して言えばずぶの素人であり、それどころか教育事業そのものについても、実績ゼロだった。その点でビジネス上の蓄積はないに等しい。新規事業をスタートするために、莫大な投資が必要であることを意味している。

そういうコストを補って余りある「甘い汁」が、学校英語事業に存在していることを今回のスクープは意味している。

ここ数年で英語教育改革の波が押し寄せる。2020年度から小学校での英語教科化が正式にスタートする。2021年には、民間の英語試験を利用した大学入試がスタートする。

従来、他の省庁(例、国土交通省・厚生労働省)に比べ、「甘い汁」が圧倒的に少ないと言われていた文科省にも、民間業者を惹き付ける教育改革「特需」が始まっている。

とくに、2021年に予定されている大学英語入試改革、つまり民間試験の導入は、拙速というほかない。民間試験利用にあたって多くの懸念が出されているが、それについての対応策があまりにも少ないため、明示的に賛成している学者は私が知る限りゼロである。

推進側は、反対派の懸念に正面から何一つ答えていない。「民間試験利用ありき」で走り出していて、「よりよい入試改革はどのようなものか」を議論することを避けているようにも見える。

英語教育「特需」との兼ね合いから、一度走り出したら止まりたくても止まれないという、なかなか黒い事情があるのかもしれない。

なお、この入試改革(および英語教育「特需」問題)について詳しくは以下の文献を参照してほしい。

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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