サラリーマンボクサーが世界初挑戦 「これまでと違う阿部麗也が出てくる」と感じるワケ
楽しみな世界タイトル戦のゴングが間近に迫っている。元WBOアジアパシフィックフェザー級王者・阿部麗也(KG大和)が3月2日、ニューヨーク州ベローナのターニングストーン・カジノでIBF世界フェザー級王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)に挑む。
30歳の阿部はここまで25勝(10KO)3敗1分。前戦では端正なアウトボクシングで元2階級制覇王者キコ・マルチネス(スペイン)を下しており、世界初挑戦での戴冠への希望は膨らむ。 普段はプレス工業株式会社で勤務するサラリーマンボクサーとしても知られるサウスポーは、ESPN+で生配信される興行でどんなボクシングを見せてくれるのか。
決戦直前の2月29日、阿部とKG大和ジムの片渕剛太会長にじっくりと話を聞いた。そこでの2人の言葉と、右目の手術に関する事実を知れば、阿部の戴冠に対する期待感は嫌が応にも高まってくる。
打倒ロペスに必要なのは“臨機応変なボクシング”
――アメリカでは試合直前にショウアップされたイベントが行われるのが通例ですが、ファイトウィークの印象は?
阿部麗也(以下、RA) : 初めてなので、こういう感じなんだなと。特に会見開始はメディアとか周りが少しずつ集まり始めて、ぞろぞろっと選手が壇上に上がり、アメリカ的にラフな感じでしたよね。
――日本の興行はもっときっちりしていて、格式ばっている感じです。
RA : そうそう、そうなんですよ。日本は控室があって、呼ばれたら行くという流れですよね。
――こういった直前イベントに日本のボクサーは戸惑うこともありますが、阿部選手は大丈夫そうに見えます。
RA : 全然、自分は問題ないです。もっといろいろ振り回される想定でいましたし、むしろずっとホテルにいる時間が長いので、その方が苦痛です(笑)。ボクシングジムも手配してもらっていたので、ホテルとジムを行き来していました。調整は日本と変わらずにいい感じでやれていますし、問題なく順調に仕上がっています。
――初めてフェイスオフをした際の王者ロペスの印象は?
RA : 実はジムのロードマシンでたまたま隣同士で走っていたんですけど、最初はそれがロペスだって気付かなかったんです。面と向かって会ったのは、やはり会見の時が最初。小さいな、という印象ですね。あとはナイスガイだなと。すっきりしている感じの選手なので、いい試合になるんじゃないですか。
――フェイスオフの途中で目線を下げたように見えましたが、その意図は?
RA : 相手の目を見ようと思ったんです。だけど、目が反射して見えねえなと(笑)。自分もサングラス、向こうもサングラスだったので、見えなかったわけです(笑)
――なるほど(笑)。事前にロペスの映像はどれくらい見たのでしょう?
RA : 直近の1、2試合、ジョエト・ゴンサレス(アメリカ)戦とマイケル・コンラン(英国)戦をメインに見ました。ただ、型にはまらないボクサーなんで、こう来るだろうという固定概念はあまり持たないようにします。イメージは持っていますけど、対策を立てるというより、リングに上がった時にどれだけ対応できるか。攻撃力がすごかったら、それに対応して足を使うなり、ブロックするなり、打ち終わりを狙うなり。意外とプレッシャーがそうでもなければ、自分でプレッシャーをかけながら攻め込むかもしれません。引き出しは増えているなというのは実感しているので、それをリングの上で出せるかどうかですね。
――相手の出方はどうあれ、自分のボクシングをするのが大事ということでしょうか。
RA : そうですね。キコマル(マルチネス)戦の経験も生きてくるとは思いますが、相手と対峙して、自分がどう感じるかで攻め方は変えようと考えています。足を使って問題なくいけるのであれば、もちろん足を使い、自分の距離の中で打ち込み、いいパンチを当ててというのが理想です。一方で、近くで打ち合う場面も出てくるかもしれません。臨機応変にやっていきます。
カット癖さえなくなれば鮮烈KOも可能?
――完全アウェイとは言えなくても、敵地に近い環境であることは間違いないと思います。ヤマを作りたい、KOしたいという意識は強いですか?
RA : 勝ちに徹するボクシングをします。ただ、もちろん相手が効いたり、弱みを見せたら、そこでいきたいなとは思っています。
片渕剛太会長 : 実はここ数戦、阿部はずっと右目の同じ箇所をカットしているんです。過去3戦連続ですね。その3試合ともポイントはリードしていたから、アウトボクシングして勝てと指示した上での判定勝利でした。だから相手は阿部がそういうタイプなんだろうと考えていると思うんですけど、実際に攻撃したら結構、パワーはありますよ。今回、その右目を手術して、いい状態で臨めます。だから違う阿部麗也が出てくるかもしれないですね。それを向こうはまったく知らないと思うので、びっくりする場面があるんじゃないかなと私は考えています。
――ずっと同じ箇所をカットしていたんですね。
RA : 練習でも2回くらい切ったりして、もう癖になっていたんです。今回、少し試合と試合の間が開いたんで、手術しました。一回切ってから中をクリーニングして、中と外で二重に縫って、おかげで不安要素はなくなりました。練習中もテープは貼っていますけど、前と全然違いますね。
片渕剛太会長 : 前は傷が半開きというか、いつでも切れますよっていう感じだったのが、手術のおかげでそれがなくなりました。この手術のために試合間隔を開けたんです。手術できたのが昨年6月で、「(ロペス戦は)9月くらいにどうだ」って言われたんですけど、ドクターは「手術後3ヶ月ではギリギリだ」と。だから「10月以降ならやります」と答えたら、向こうは「じゃあ1戦(ジョエト・ゴンサレス戦)挟んでいいか」って。「ああ、どうぞ!」と答えたんです(笑)。今のところ、思惑通りにきていますね。
――そういう意味では、久々にベストで臨める試合が楽しみなのでは?
RA : そうですね。アメリカではコンディション調整の最後のところはどうなるかなというのはありましたが、いつも以上にのんびりできています。普段は仕事しているじゃないですか。それが今回は、朝起きて、走って、ホテルでゆっくりして、穏やかな日常を過ごしています。良くも悪くも大雑把な性格なので、ベッドが違うとか、枕がどうとか、食事が何だとか、寒いとか暑いとか、あまりそういうことを気にしたことがないんです。試合前こうじゃなきゃというルーティンとか、これをしなければ不安というのもないです。そういう意味では自分は海外でやることでマイナス点はないと思います。
片渕剛太会長 : 実際に調子はいつもよりいいですよ。ミットを受けていても、パンチのキレは日に日によくなっていました。体重調整は楽ではないので、仕事をしながら体重を落とすとなると、だいたい最後の方に(調子が)落ちてくるんです。今回のように尻上がりに上がっていくというのはあまりなかったことですよね。
――期待できそうですね。阿部選手の試合はESPN+で全米配信される興行のセミファイナルで、オンディマンドの視聴者も含めたらかなりの数のファンが見ると思います。アメリカのファンにここを見て欲しいという部分はありますか?
RA : 今回の試合で光るのはフットワークでしょうね。ロペスは小さい分、前には出てくるので、フットワーク、カウンターはたぶん光ると思っています。だから阿部さんの左が炸裂して、KOしちゃうんじゃないですか(笑)
インタビュー後編「いずれ井上尚弥の標的に?大一番に辿り着いた阿部麗也 世界初挑戦直前インタビュー」に続く