オートバイのあれこれ『引き算の美学。』
全国1,000万人のバイク好きたちへ送るこのコーナー。
今日は『引き算の美学。』をテーマにお送りします。
日本のバイク市場が最も華やいだ1970年代から80年代には、個性豊かなオートバイがいくつも現れてきました。
その中には「今の時代にそのまま持ってきても、そこそこ人気が出るんじゃない?」と思うオートバイがいくつかあります。
ヤマハが1987年(昭和62年)に発売した『SDR』も、私がそんなふうに思うバイクのうちの一つです。
原付クラスのバイクと言われても違和感の無いひじょうにスリム&コンパクトなボディ、飾り気を排したシンプル&ベーシックな車体構成には、昨今流行りの“ミニマリスト”や“断捨離”といった思想に通ずるものを感じますね。
実のところSDRのこうした特徴は、SDRが生まれた80年代のレーサーレプリカブームへ反旗を翻すためのものでした。
つまり、「先進装備」や「ハイスペック」といった足し算的発想ではなく、「なるべく素で勝負する」という引き算的発想でSDRは作られたのです。
ピークパワー34psの2ストローク単気筒エンジンと、それに見合った“ほどほどの”車体設計は、オートバイという乗り物が元来持つ機動力によって走る楽しさを引き出すためのレシピでした。
引き算発想で作られたSDRは、案の定当時の足し算発想のレプリカブーム下で歓迎されることはなく、わずか3年ほどで生産終了となってしまいます。
簡単に言うと、SDRは現役時代には不発で終わりました。
しかし、今改めて見ると、ゴチャゴチャした物が一切無いディテール、ロードモデルとしてはかなり軽い車体(乾燥重量105kg)、中間加速を楽しめるよう味つけされた2ストエンジン、そしてシンプルでありつつも適度に個性を放つスタイリングデザインなどは、とても魅力的に思えます。
ツーリングの途中で出会うタイトなワインディングルートなどでは、その軽快な走りを思う存分楽しめることでしょう。
現代は開発技術が発達し、オートバイにもいろいろな装備が備え付けられるようになりました。
そんな今だからこそ、“バイクの素(す)”を極めたような存在であるSDRが、俄然カッコよく見えてくるのです。