核廃絶、ノルウェー政府と平和賞受賞ICANの公的補助金騒動
2017年、ノルウェー首都にあるオスロ市庁舎で、ノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)。
今年もICANへ公的補助金を振り分けるかどうかで、ノルウェー政府は揺れた。
ノルウェー政府は、NGO団体などにも公的助成金を出している。毎年、翌年の国家予算案が発表されると、国民の税金がどのように使われるかは大きな注目の的となる。
高い税金とオイルマネーで豊かな財政ではあるが、国民数が520万人と顧客数が限られるため、各市場や団体らを存続させるためには、「公的助成金はもらえて当たり前」というカルチャーが、ノルウェーでは日本以上に強い。
「私たちは政府を批判するが、幅広い層の人の意見を反映した社会・民主主義のために、補助金はもらえて当然」という空気がある。報道機関も公的補助金制度なしでは存在が難しい。
一方で、現在の保守派・右派ブロック政権は、左派的な政治活動の傾向が強く、政府を批判してばかりの平和活動団体の支援には、左派ブロックよりも消極的だ。
政府予算の交渉のカードとなる平和活動団体ら
ノルウェーにも支部を置くICANと核戦争防止国際医師会議、ノルウェー団体「核兵器反対」などの複数の平和活動も公的補助金をもらっているが、右派政権の各政党同士の「交渉のカード」として使われる傾向がある。
連立政権は4政党で構成される。大政党2党(保守派・進歩党)は補助中止派、小政党2党(自由党・キリスト教民主党)は補助続行派だ。
予算案の交渉で有利な立場をとるために、大政党2党は補助中止と予算案を一度発表。補助カット対象の団体らはメディアやSNSで猛反対。その後の各党の交渉で、小政党2党には平和活動団体の補助続行を約束する代わりに、ほかの政策で妥協してもらう。この流れであれば、平和活動団体側に小政党2党の活躍ぶりをPRすることも可能。
10月に来年度の予算案が発表された時も、政府は一度これらの団体への補助を打ち切ることを発表。しかし各党の話し合いで、補助は続行に。今年も同じことが繰り返された。
ICANノルウェーへの補助支援を続けるように、交渉のテーブルで奮闘したのは、キリスト教民主党だった。
政府の予算案に振り回されるICAN
ICANノルウェーは2015年に補助金を全カットされたことがあり、その時は人員数の三分の二を減らす事態に追い込まれた。
昨年はICANが平和賞を受賞したため、「『平和の国』ノルウェーの政府が、ノーベル平和賞受賞者への補助金カット!」と、現地ではこれまでよりも大きく報道された。
今年、同団体が、最終的にどれほどの補助金を受け取るかはまだ確定していない。昨年と同額の200万ノルウェークローネ(およそ2650万円)か、それよりも少し低いくらいの額になるだろうと想定されている。
NATO加盟国ノルウェーの立場
政府が右派でも左派でも、ノルウェーはNATO加盟国であるため、核廃絶運動には必ずしも常に積極的とはいえない。現在のNATO事務総長ストルテンベルグ氏は、ノルウェーの元首相・元労働党党首(中道左派)でもある(昔は核反対と叫んでいても、責任ある立場に立つほど、意見をころりと変えるノルウェー政治家は多い)。
ノルウェーでの核兵器議論が今でも長く続いているのは、ICANなどの平和活動団体らがメディアやSNSなどで情報拡散をしたり、議論を始める機関となっているからだ。
一方で、政府や外務省にとっては、批判ばかりしてくる機関が常に補助金対象候補として優先したいかというと、そうでもない。
ICANノルウェー「補助金なしでは活動続行は難しい」
ICANノルウェーのコーディネーターであり、核戦争防止国際医師会議ノルウェーの代表であるマーリ・セイルシャール氏は取材でこう語る。
「私たちの活動を来年も続けていくためには、補助金は必要不可欠」。
「ノーベル平和賞を受賞してから、核兵器のことを議論する際に、真剣に相手をしてもらえるようになった。知名度も上がったことで、面会もしてもらいやすくなり、報道でも取り上げてもらえるようになった。それでも、まだまだ核兵器についての議論への関心は限られていると感じている」。
「ノルウェー政府は核兵器禁止条約への著名を拒んでいる。野党の左派でさえも、条約への姿勢は曖昧だ。ノルウェーが条約に著名するように、私たちはこれからも彼らに働きかけていく」と、今後も積極的に活動していくと意気込んだ。
Photo&Text: Asaki Abumi