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グレタを追放したいノルウェー極右政党

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
企業の前で座り込み建物を封鎖するグレタさん。これも違法行為だ 筆者撮影

ノルウェーの先住民サーミ人との連帯を示すために、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが草の根団体「フライデーズ・フォー・フューチャー」の12人と共にオスロにやってきた。サーミ人のトナカイ放牧地であるフォーセン地域に風力発電所を建設したことで、「サーミ人の人権侵害をしている」ノルウェー政府に抗議するためだ。

3日間の滞在中は現地の若者とともに、違法行為である「市民的不服従」を決行。ノルウェー省庁前で鎖で自分たちを縛りあって建物を封鎖したり、ノルウェー王宮前広場に座り込んだりした。現地の警察官にも担ぎ出されて省庁前から強制撤去されるなど、彼女たちの行動は「違法行為」となる。

これに反応したのがノルウェーの極右政党「進歩党」だ。同党の移民政策のスポークスマンであるアーラン・ヴィボルグさんは、「法律に違反するすべての活動家を追放し、再入国禁止の対象にする」ことを提案した。「言論の自由は歓迎するが、外国人がノルウェーの法律を破り、当局の仕事を妨害するなら、国外退去させるべきだ」というわけだ。

しかし、グレタさんのノルウェー人弁護士は、「市民的不服従を理由に入国している活動家を追放することは重大かつ違法。スウェーデン人はEU市民であり、追放するのであれば、社会の基本的価値観に『深刻な脅威』を与えなければなりません。活動家の何人かはノルウェーのサーミ人と同じ先住民族であり、人権条約で特に強く保護されています」と反論した。同党のグレタ追放提案はノルウェー現地メディアでも注目を浴びた。

ノルウェーでの抗議活動にはデンマーク・グリーンランドなどからも先住民イヌイット人などが参加している。

進歩党はもともと先住民サーミ人には冷酷な政策を持つ政党だ。「サーミ議会の廃止」は同党の党政策でもあり、サーミ人の権利や文化を重要視していない。サーミ人がノルウェーでヘイト対象となる原因の一部は進歩党の言動にもあると筆者は感じている。「北欧の極右」は「移民全般的に冷たい」イメージがあるかもしれないが、基本的には「イスラム教徒」を最も軽視している。白人至上主義の傾向が強い政党のために「北欧の白人」に対して批判的な言論を展開するのは珍しいが、今回はグレタさんとあって小言が言いたくなったようだ。進歩党は環境・気候政策にも関心は高くなく、「地球温暖化は人間活動のせいではない」と信じている者もいる。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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