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若者に人気の「ライブ配信」なぜハマるのか 依存や投げ銭のトラブルにも注意を

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:アフロ)

最近すっかり人気となった「ライブ配信」。有名人に限らず、一般の人も配信者(ライバー)としてPCやスマホからリアルタイムで映像と音声を配信し、視聴者と交流できるところが魅力となっています。いわゆる投げ銭機能も充実しており、中には月に数百万から数千万円を稼ぐライバーもいます。代表的なサービス(アプリ)としてはPococha、17Live、ツイキャス、SHOWROOMなどが挙げられますが、新しいものも続々とリリースされている状況です。

一方でライブ配信にのめり込みすぎることで、現実の活動や対人関係に支障が生じてもやめられなくなるといった依存状態に陥ったり、過度の投げ銭を行ったりなど問題となるケースが増えてきているようです。

ライブ配信への依存を巡る状況

筆者が行うネット・ゲーム依存のカウンセリングには、ライブ配信に特化した相談はまだ少ない状況です。しかし、ゲーム依存やインターネット依存の本人が使用するインターネットコンテンツの一つとして、ライブ配信が含まれていることは多くあります。

海外ではゲームに特化した配信サイトであるTwichを中心に、ライブ配信への依存について研究した文献が見られるようになりました(1)(2)。また、ライブ配信における投げ銭のトラブルが相次いでいます。中国では8歳の子どもがゲームのライブ配信者へ投げ銭をするために、家族が貯めていた9万元(日本円で約163万円)を勝手に使ってしまったという事例が報告されています(3)。日本でも、国民生活センターにおいて、女子中学生が父親のクレジットカードを使いライブ配信で1回約1万円の投げ銭を何度も行い、数カ月で100万円以上の請求がきたという事例を紹介し、注意喚起をしています(4)。

ライブ配信サービスに関するアンケート調査の結果によると(3)、ライブ配信視聴時の行動状況を年代別に尋ねたところ、コメント投稿、無料アイテム提供は若年層ほど実施しており、ライブ配信視聴者のうち10代ではコメント投稿を56.9%、無料アイテム提供を25.3%が実施していました。また、有料アイテムを配信者に提供している割合は、すべての年代のうち10代が最も多く、13.7%が有料アイテムを提供していることがわかっています。

消費者庁 第31回インターネット消費者取引連絡会資料をもとに筆者が作成 
消費者庁 第31回インターネット消費者取引連絡会資料をもとに筆者が作成 

若者のライブ配信の利用者が増えていく中で、今後ものめり込み過ぎて金銭的な問題や依存状態から抜け出せなくなる事例も増えていくことが懸念されます。

ライブ配信にハマるのは欲求が満たされるから

ライブ配信にハマるのはなぜなのでしょうか。これまでのSNSや動画配信とは何が異なるか理解できない人もいるかもしれません。

マス・コミュニケーションの研究分野において提唱されている「利用と満足」理論によると、以下の5つの欲求のいずれかが、ライブ配信を視聴することによって満たされると説明されています(5)。

① 認知的欲求

知識を得たいという欲求のことです。例えば、ゲーマーがレベルを上げる方法や敵を倒す方法を調べるためにゲーム配信を見る場合があげられます。

②感情的欲求

自分の感情を満たしたいという欲求のことです。ライバーのコメントに面白さを感じることもあれば、eスポーツの試合を見て興奮を感じることもあります。このようなときに感情的欲求が満たされると考えられます。

③社会化の欲求

ライブ配信を本当に魅力的なものにしているのは社会的な要素だと言われています。配信プラットフォームには視聴者がライバーや他の視聴者と対話できる機能が組み込まれており、視聴者が他者や社会と繋がっている感覚を得られます。コロナ禍で視聴者数が増加しているのも、この要素が影響していそうです。

④現実から逃避したいという欲求

これは自分のストレスを解消するために現実から逃避したいという欲求を指します。ライブ配信によって、視聴者はライバーと同じ体験を共有することで、その世界に没入する感覚が得られ、現実から逃避することもできるのです。

⑤自尊心の欲求

視聴者は配信を通して、自分の地位を確認し、安心を得ているかもしれません。投げ銭機能によって、ライバーからコメントを取り上げてもらったり、ランキング上位に入ることで、自尊心が満たされることが考えられます。

心理学の分野でも、ゲーム配信プラットフォームの依存的使用には、情報収集の目的と逃避の目的が関連するということが報告されています(1)。また、ライブ配信サービス全般について、その利用動機と依存的使用との関連を調査した研究では、情報を収集する目的や自分を知ってもらうためといった動機は依存的使用との関連が見られなかった一方、他者と交流する目的、逃避する目的、覗き見の目的といった動機が依存と関連していることがわかっています(6)。

適度な距離を保つために心がけること

ライブ配信の視聴は、単なる動画の視聴とは異なり、ライバーとリアルタイムでやり取りができます。投げ銭をすれば、推しのライバーからコメントが返され、強い優越感や承認された感覚を得られるかもしれません。ゲーム配信の場合は、他者のゲームプレイをリアルタイムで見ることで、自分でゲームをプレイするよりも手軽にゲームの世界への没入感を得られます。このようにライブ配信はゲームや動画とはまた異なる魅力がありそうです。一方で、ハマりすぎて睡眠時間や他の活動の時間を削っても配信を見続けたり、小遣いの範囲を超えて投げ銭を行ったり、現実の人間関係を疎かにしてしまう可能性もあります。

適度な距離をとりながらライブ配信を楽しむには、まず自分自身がどのような目的で利用しているかを上記を参考にしながら客観的に振り返ってみるとヒントが見えてくるかもしれません。例えば、ライブ配信で誰かから認めてもらえているという感覚を得られていて、それによってライブ配信にのめり込んでいたとしたら、現実の生活でも他者との繋がりを感じられる活動をできる範囲からやってみるということも考えてみてほしいと思います。また、なんとなく見ちゃうというときは、ライブ配信に費やす時間やどの時間帯に見るかを具体的に計画を立ててみるのも有効です。

もし現実から逃避するためにライブ配信にハマっていたとしても、ハマっていること自体を否定する必要はありません。ライブ配信を見ることが現実の苦しさや不安から自分を癒してくれる手段になっているとも言えるのです。依存かもしれないと気づいたときや、現実の問題に悩んでいる場合には、1人で抱えずに信頼できる人や相談機関に早めに相談してください。

保護者の方々については、まずお子さんがどのようなサービスを利用しているかを把握するようにしてください。動画視聴をしているように見えて、ライブ配信を視聴している場合もあります。配信を見ることを過度に心配する必要はありませんが、投げ銭機能については注意し、保護者のほうでクレジットカードやキャリア決済の暗証番号の管理を行うことが大切です。

〈引用・参考文献〉

(1) Chen, C. & Chang, S. (2019). Moderating effects of information-oriented versus escapism-oriented motivations on the relationship between psychological well-being and problematic use of video game live-streaming services. Journal of Behavioral Addictions, 8(3), 564-573.

(2) LJ Cabeza-Ramírez., GA Muñoz-Fernández. & L Santos-Roldán. (2021). Video game streaming in young people and teenagers: Uptake, user groups, dangers, and opportunities. 9(2), 192.

(3) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 (2018). ライブ配信サービス(投げ銭等)の動向整理 消費者庁 第31回インターネット消費者取引連絡会 資料1 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/policy_coordination/internet_committee/pdf/internet_committee_190117_0002.pdf

(4) 独立行政法人 国民生活センター (2019). 子どもがライブ配信サービスで投げ銭!? https://www.kokusen.go.jp/mimamori/kmj_mailmag/kmj-support150.html

(5) Sjöblom, M. & Hamari, J. (2017). Why do people watch others play video games? An empirical study on the motivations of Twitch users. Computers in Human Behavior, 75, 985-996.

(6) Bányai, F. et al. (2017). Problematic social media use: Results from a large-scale nationally representative adolescent sample. PLoS ONE. 12(1), e0169839.

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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