Yahoo!ニュース

7人制ラグビー、企業の意識改革と環境づくりを

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

2016年リオデジャネイロ五輪で正式競技となった7人制ラグビーの強化はなかなか難しい。とくに国内リーグが充実している男子。7人制と15人制は似て非なるものである。だから7人制に特化した選手育成・強化がいいに決まっている。そのためには企業の『意識改革』と『環境づくり』が必要なのだ。

23日、日本ラグビー協会の7人制ワールドカップ(W杯=6月下旬、モスクワ)に向けた強化プランが示された。岩渕健輔ゼネラルマネジャーは「2013年度は男女とも選手を固定して、年間を通し、平日も使うようなカタチで強化していくことを考えています」という。ここで課題となるのが、7人制と15人制との選手のすみ分けである。身体能力などに長けた選手の場合、7人制代表に選ぶことができるかどうかだろう。

日本代表の瀬川智広ヘッドコーチは本音を漏らす。「この1年間、いろんな葛藤がありました。なかなか選手を呼べなかった部分もあります」と。例えば、招集したい選手がトップリーグのチームの主軸の場合、7人制の合宿や試合を優先させるのはやはり、難しい。なぜかといえば、15人制ラグビーをするために企業に入社したり、チームとプロ契約をしたりしているからである。

ついでにいえば、15人制ラグビーの2015年W杯と、リオ五輪の7人制の五輪出場権予選が同じ年となる見通しとなっているため、代表選手が両方を兼ねることは事実上、不可能といっていい。それぞれ特化して、育成強化するしかあるまい。もちろん、日本協会もセブンズアカデミーやシニアアカデミーを実施するなどして、発掘・育成や強化の努力はしている。合宿や遠征など、7人制代表のためのトレーニングに費やす時間も格段にアップしている。

瀬川HCは言う。「若い選手が7人制代表で活躍して、さらに成長して15人制代表で選ばれて、また(7人制代表に)戻ってくるサイクルができればいいのかな、と思います。16年(リオ五輪)に向けては、若い選手を早めに引き上げて実力を確かめ、セブンズのスペシャリストを数多くつくっていきたい」と。7人制に特化した練習をどれだけ積めるか、7人制のスペシャリストを何人作れるかが、チーム力上昇のカギを握る。

それでは別個に選手を選び、育成・強化していくためには、どうすればいいのか。まずは協会主導でトップリーグチームの協力をあおぎ、7人制向きの選手をなんとか代表チームに派遣してもらうことだろう。これは所属チーム側の事情、指導陣の意識改革にかかっている。チームに戦力的なダメージがあっても、「選手をオリンピックに出場させてあげたい」「日本の五輪出場のため」「日本ラグビーの人気復活のため」と考えてくれるかどうかだろう。

また中長期的には「環境づくり」が大事である。現状では、社会人の男子7人制の選手の受け皿が少ない。これをつくる。女子のように、企業や大学に男子7人制のチームをつくってもらうのである。もしも7人制の社会人チームのリーグ戦ができれば、強化は飛躍的に進むだろう。あるいは7人制をやることを前提に企業とプロ契約を結ぶことがあってもいいかもしれない。

リオ五輪までもう3年しかない。時間は限られている。7人制ラグビーの日本代表がリオ五輪で活躍することが、どれだけラグビー人気復活の起爆剤となりうるか。もっと想像してほしいのである。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビー)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

松瀬学の最近の記事