3月末に大量倒産?~中小企業経営者や金融機関関係者が恐れる新型肺炎倒産
・新型肺炎(コロナウィルス)前から中小企業の経営は悪化
2019年10月から12月の中小企業の景況は、中小企業基盤整備機構の調査(第158回 中小企業景況調査)では、業況判断DIは、マイナス21.1で4期連続で低下。製造業では、マイナス22.4で6期連続の低下。小売業、卸売業など非製造業でもマイナス20.6と3期連続の低下。
日本政策投資金融公庫の同期の調査(全国中小企業動向調査結果)でも、業況判断DIは、小企業で前期からマイナス幅が拡大しマイナス29.2。中小企業でも、前期からマイナス幅が拡大しマイナス14.3。
中小企業の経営状況は、米中貿易問題、日韓問題、さらに暖冬による消費の低迷など、製造業、非製造業ともに、景況が悪化していた。
・「3月末が恐ろしい」
関西地方の金融機関の職員は、「このままの状況が続けば、資金繰りに窮する中小企業が続出する。3月末が恐ろしい」と言う。新型肺炎の影響は、日増しに大きくなりつつある。
「自動車関連は、昨年から景況が悪くなっていたところに、今回の新型肺炎でメーカーの生産停止や減産が起きており、急速に経営が厳しくなっている」と、中部地方の中小企業経営者は危機感をあらわにする。
日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)が発表した2019年12月の新車販売台数は、前年同月比11%減の34万4,875台と消費税増税の反動もあって、大幅な減少となった。2019年の新車販売台総数も1.5%減の519万5,216台だったが、「団塊の世代が高齢化し、自動車免許を返納する動きもある。また、若者の購入も減っている。カーシェアリングの普及など、今後、国内の自動車市場は縮小することは間違いないだろう」と中国地方の自動車販売店の経営者は、そう指摘する。
こうした国内市場の縮小傾向が進行する一方で、米中貿易問題の複雑化で海外市場も低迷しつつあったところに、新型肺炎問題が発生し、「中国市場への販売も停止だし、生産拠点の休止や物流網の混乱などから、サプライチェーンが寸断されている。見通しが立たない状況で、下請けへの発注も見直しがかかっている。資金力の弱い中小企業にとって、この混乱が数か月続くようであれば、経営困難に陥るところが続出する」と中部地方の機械金属関連の中小企業経営者は懸念する。
・シンガポールでも素早い対応
中小企業が経営難に直面しつつあるのは、日本だけではない。シンガポールでは、政府や民間企業が足並みを揃えて中小企業支援に乗り出している。
2月21日にシンガポールに本社を置くユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)が、中小企業のキャッシュフロー確保のために約2400億円を割り当てると発表している。UOB以外の金融機関も、中小企業の融資のリスケジュールやサプライチェーン維持のための低利融資などの実施を次々に表明している。さらに大手不動産会社ら3社で約4億円を拠出し、中小企業支援基金を立ち上げ、中小企業の流動性資金の不足に対応し、低金利融資を行うと表明している。
また、中小企業の在宅勤務を支援するために、通信会社の一つであるスターハブ社がリモート・ワーク・システムを9月まで無料で中小企業に提供することを明らかにしている。遠隔勤務(テレワーク・リモートワーク)は、シンガポール政府が新型肺炎対策として重視しており、それに対応したものだ。シンガポール政府は、新型肺炎患者が出た職場では、そのほかの社員への在宅勤務を求めている。さらに、2月14日に医療機関に対して肺炎の症状を示した患者に対して、5日間の医療休暇を取ることを求めている。シンガポールでは、医療機関が医療休暇が必要だとする証明書を発行し、それを職場に提出すると企業側は有給休暇を与える必要がある。通信会社のシステムの無料提供は、資金力が弱い中小企業にとって、在宅勤務を促進する働きがあるだろう。
・日本でも一層の支援策を
日本でも中小企業の資金繰り支援のために、政府は日本政策金融公庫に緊急貸し付け・保証枠として6000億円を確保するなど、金融機関や地方自治体とも連携して、新型肝炎に関する中小企業への経営相談窓口や緊急融資などを行っているが、シンガポールのように資金面だけではない官民連携した一層の支援が必要な状態になりつつある。
「宴会の自粛などが始まっている。外食も控える傾向が出ており、売上に影響しつつある。バイキング方式を取りやめたり、箸を割りばしにするなど自主的に対応しているが、テレビを見ても、それぞれ言っていることがバラバラで、個人商店だと正確な情報がなかなか入ってこない」と都内の飲食店の経営者は嘆く。
「感染が広がっている中で、出張や営業など、どの程度、行うのか。社員に感染者が出れば、全社的に休業することになるのだろうか」と中部地方の製造業の中小企業経営者は不安だと言う。
話を聞いた中小企業経営者の多くが、情報不足を訴えている。「シンガポールや台湾に比較して危機感がまだ低いのではないか。大企業と違って、中小企業は情報収集力も低いし、人員も少ない。専門家のきちんとした情報を提供してもらいたい。シンガポール政府などの正しい情報をきちんと伝えようという姿勢に今回、感心した」と中小商社の経営者は海外メディアからの情報収集に努めていると言う。
・暖かくなれば収まるという楽観論ではなく
「テナントから賃貸料の一時的な引き下げを要望された。中国経済の混乱は、そう簡単には収まらないのではないか。暖かくなれば収まるという楽観論ではなく、今回の悪影響が長期化するという考えで対応すべきだ」と関西地方の不動産管理会社の経営者は言う。
一方、「中国からの材料や部品の調達ができないため、国内生産に切り替えられないかと大手企業から問い合わせがあるが、すでに大量生産の設備はないし、中国で製造していた価格と近くでなどと無茶な注文で、とても引き受けられない」と関西地方の金属加工業の中小企業経営者は話す。「設備投資をしたところで、中国の状況が戻れば、無くなる訳で、そうしたことに振り回されるのはごめんだ」とも言う。
「数年前から、中国での生産に依存し過ぎているのではないかと心配していた大手企業の担当者もいた。今回の騒ぎが終息すれば、大手は中国以外の国への生産拠点の分散を本格化するのではないだろうか」関西地方の自治体職員は、そう指摘する。
「この混乱の中で、インドネシアやベトナムの現地企業から機械の見積もり依頼が相次いでいる。新型肺炎が終息すれば、日本企業が生産拠点をこうした国々に移すのではないかとの見込みで、先手を打っての動きもあるようだ」と話す設備機器メーカーの経営者もいる。新型肺炎が契機となり、国際的なサプライチェーンが大きく変化し、そのことが産業構造にも大きく影響する可能性もある。「先を見据えて、大胆に行動するアジアの企業経営者から学ぶことは大きい」とも指摘する。
・産官金が連携して中小企業支援の強化を
新型肺炎の感染者数は、依然として増加傾向にある。中国経済の混乱だけではなく、東南アジア諸国にも広がっている。その混乱の中には、日本も含まれている。この状態が続けば、大量の中小企業の倒産が引き起こされる危険性が高い。暖かくなった頃には新型肺炎が終息すると願いたいが、経済活動が元に戻るまでには数か月程度はかかるだろう。それまでに多くの中小企業が失われることは、将来の日本経済の再生に大きな支障を生む。
従業員の安全確保のために遠隔勤務(テレワーク)を導入したいと考える中小企業経営者も多いが、そもそもIT活用が遅れている問題が大きい。中小企業では、6割弱の会社がITを使っていることになっているが、そのうち3分の2が給与、経理業務の内部管理業務向けに導入しているだけだ。遠隔勤務(テレワーク)を行うために必要な調達、販売、受発注管理などの部分でIT活用を行っている中小企業は、活用企業のうちの3分の1程度でしかない。(※1)今回の新型肺炎対策としてだけではなく、災害時の事業継続のためにも、また国際競争力を高めるために、IT活用は急がねばならない。
中小企業経営者の不安は非常に高まっている。産業界、政府、地方自治体、金融機関などが一体となって、正確な情報の収集と提供、大胆な遠隔勤務(テレワーク)の導入前倒し、流動性資金の提供、事業用のローンや貸付金のリスケジュール、従業員の雇用維持などに取り組むべきだ。数か月後、杞憂だったとなったならば、それはそれで良い。最悪の事態を想定した、素早い対応が求められている。
※1全国中小企業取引振興協会「中小企業・小規模事業者の経営課題に関するアンケート調査」2016。
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