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【政策会議日記10】配偶者控除見直しの真の狙いは(税制調査会)

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
世帯で見た配偶者控除と基礎控除の関係

4月14日に、私も一委員として出席した政府税制調査会第6回総会が開催されました。

第6回総会は、今後の議論の皮切りということで、税制調査会に基礎問題小委員会を設置することを承認するのが主で、30分間で終わりました。本格的な議論の場は、今後基礎問題小委員会に移ります。ただ、皮切りとして、事務局から所得税制の現状についての説明がありました。この説明資料の中に、今後の議論の核心となる資料が入っていた、と見ることができます。

目下、安倍内閣で取り組まれている成長戦略において、女性の社会進出の促進が挙げられています。女性の社会進出をめぐっては、所得税制における配偶者控除がそれを阻害していると、以前から指摘されていました。かつては顕著だった「103万円の壁」はその象徴です。夫がフルタイムで働いているが、妻がパートタイムで働こうとして年収が103万円を超えると、妻が配偶者控除を通じて受けている所得税での恩恵が急になくなり夫婦の所得税負担が急増するため、103万円を超えて働くことをためらう、というのが「103万円の壁」でした。

第6回総会の配付資料(5ページ)に図解されているように、配偶者特別控除が見直されたため、いまでは「103万円の壁」は顕著ではなくなりましたが、配偶者控除があるために「専業主婦」が税制面で優遇されていて、女性の社会進出を阻害しているという指摘は続いています。配偶者控除(配偶者特別控除も含む)は、妻が141万円以上稼ぐと適用されなくなります。配偶者控除(配偶者特別控除も含む)の恩恵を受けているのは、妻が141万円以下しか稼いでいない場合です。これが、前述の指摘の根拠の1つとなっています。

配偶者控除見直しの焦点は

では、配偶者控除を廃止する、という議論になるのでしょうか?

配偶者控除をいきなりなくすとなると、逆に「専業主婦」世帯が増税になります。また、世帯収入が同じなのに、片稼ぎ世帯と共稼ぎ世帯で、税負担の差を拡大させてしまいます。どういうことかというと、所得税は累進課税されているので、1人で多く稼ぐと高い税率が適用されます。例えば、1人で1000万円稼ぐ世帯と、2人で500万円ずつ計1000万円稼ぐ世帯とでは、同じ世帯収入でも、1人で1000万円稼ぐ世帯の方がより高い税率が適用されるので所得税負担が多いのが現状です。そこで、配偶者控除がなくなると、2人で500万円ずつ稼ぐ世帯は税負担が変わらないのに対し、1人で1000万円稼ぐ世帯はさらに多く所得税を課されることになります。配偶者控除を完全になくすと、別の意味で不公平が生じます。

その背景にあるのはどういうことでしょうか。次の図がすべてを表しています。

世帯で見た配偶者控除と基礎控除の関係
世帯で見た配偶者控除と基礎控除の関係

出典:税制調査会第6回総会「財務省説明資料(配偶者控除)」(7ページ)を一部改編

共稼ぎ世帯では、課税が個人単位であるため、夫婦それぞれが所得税制において基礎控除を受けることができます。しかし、この図で配偶者控除(配偶者特別控除も含む:水色部分)を全廃したらどうでしょうか。配偶者の給与収入(横軸)が65万円以下の世帯だと、単純に配偶者控除がなくなりその分だけ所得税が増税になるわけです。

夫婦とも所得税を課税される世帯なら夫婦それぞれが基礎控除を受け、夫婦のうち1人だけが稼ぐ世帯にも夫婦2人分の控除を与える、ということにすれば、控除については公平に与えることになります。つまり、片稼ぎであれ共稼ぎであれ、夫婦2人分の人的控除が受けられることにすればよい、ということです。

ところが、事務局の説明によると、上の図で「2重の控除」と記されている部分(緑色の点線で囲んだ部分)が、現行制度ではそうはなっていない部分となります。配偶者特別控除があるために、配偶者の給与収入(横軸)が65万円以上141万円以下のところで、夫婦2人で受けられる控除の額が手厚くなっているのが現状です。緑色の点線で囲んだ部分の控除をなくすことで、夫婦2人で稼ぐ世帯も夫婦のうち1人で稼ぐ世帯でも、どちらも夫婦2人分の人的控除を与えることが実現します。

配偶者控除の見直し論議は、どう展開するか予断を許さないところはありますが、今後の議論の焦点は、事務局の説明を踏まえると、まさにこの「2重の控除」をなくし、夫婦2人で稼ぐ世帯も夫婦のうち1人で稼ぐ世帯でも、どちらも夫婦2人分の人的控除を与える、という形での公平化が実現できるかどうか、であると言えます。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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