なでしこジャパン入りを目指す「なでしこチャレンジキャンプ」。女子W杯の“秘密兵器”は現れるか(1)
【23枠をめぐる戦い】
1月28日から31日まで、「なでしこチャレンジ」のトレーニングキャンプが静岡県のJ-STEPで行われた。なでしこチャレンジは、なでしこジャパン(日本女子代表)で即戦力になれる選手の発掘を目的としたキャンプで、いわゆる「なでしこジャパン予備軍」。高倉麻子監督を筆頭に、A代表と同じコーチングスタッフが戦力発掘に目を光らせる。
今回は4日間のチャレンジキャンプの後に5日間のなでしこジャパンの合宿が同じJ-STEPで予定されており、選出されたメンバーはなでしこチャレンジが23名、なでしこジャパンが28名の計51名。海外組を除き、ここから6月のフランス女子W杯に出場するメンバー23名が選ばれることが濃厚だ。
「(今回のチャレンジキャンプから)6月のW杯に間に合う(メンバーが出る)かどうかハッキリとは言えないですが、結構ハッパをかけましたし、随所に光るプレーが見られました。技術的なことや体、メンタル面などがちょっとずつ上乗せされれば『化けるかもしれない』と感じる選手が多くいました。(W杯にいく23名は)今回の50人前後が大枠ですが、その中からW杯で秘密兵器になる選手が出てくればいいなと思います」(高倉監督)
メンバーは昨年、アジアカップとアジア競技大会でタイトルを獲得した選手たちが軸になるだろうが、12月の時点で、「メンバーがどのぐらい決まっているか」という質問に対し、高倉監督は「80%」と答えている。
つまり、18名前後はほぼ固まっているが、5名前後は入れ替わる余地があるということだ。アジアで2つのタイトルを獲った選手たちに共通するのは、高いテクニックと優れた判断力。加えて、この2年半、世界とアジアで厳しい戦いを重ねてきた経験値や、その中で培ってきた戦術眼もある。その選手たちを中心としたチームの骨格はほぼ出来上がっている。
今後、W杯という舞台を想定した時に必要なのは、チームの戦い方に「プラスα」をもたらすことのできる選手だろう。
高倉監督は12月上旬のチャレンジキャンプから、DF大賀理紗子 、DF北村菜々美 、MF松原有沙 、FW池尻茉由 、FW小林里歌子の5名を今回のなでしこジャパンのキャンプに初選出した。その5人に共通することとは何か。
「本番で即戦力として使える選手を考えた時に、体のサイズであったり、力強さやスピードは絶対に必要です。体の大きな選手がフルパワーできた時に、耐えうるものがないと使いにくい。そういうものが今のなでしこに欲しいと思って5人を選びました」(高倉監督)
5人は所属チームのレギュラーで、高さやキック力、スピードなど、それぞれの長所を生かし、昨シーズンのリーグでインパクトを残した。その上で、昨年12月のチャレンジキャンプでアピールに成功した。
チャレンジキャンプは代表を目指す選手たちにとっての登竜門だが、同時に、なでしこジャパンへの「復帰」を目指す場でもある。今回は23名中9名が、高倉ジャパンに招集されたことがある選手だった。
その中には、昨年、アジアカップとアジア競技大会の2つのタイトルに主力として貢献したMF隅田凜の名前もあった。下部組織も含めて11年間プレーしてきた日テレ・ベレーザ(ベレーザ)には、控え選手も含めて代表の中心選手が揃っており、ピッチに立つための競争も非常に激しい。そんな中で、隅田は今年、同じ1部のマイナビベガルタ仙台レディースに移籍した。その決断には、強い覚悟が感じられた。
「ベレーザは周りの選手がみんな上手いので、自分はどちらかというと合わせる方でした。仙台では自分がゲームを作っていくぐらいの力をつけたいです。6月のW杯の前に代表に食い込んで行きたいので、それまでにどれだけアピールできるかが重要だと思います」(隅田)
代表は2月にアメリカ遠征、4月に欧州遠征を予定しており、その間の3月にはなでしこリーグが開幕する。6月のW杯へのメンバー入りを目指し、競争は過熱するだろう。選手たちが力を尽くして繰り広げるドラマを、しっかりと目に焼き付けたい。
【紅白戦で光った好プレー】
この時期はオフシーズン明けで各チームの始動日が異なり、選手たちのコンディションにばらつきがあった。そのため、トレーニングは負荷が低いメニューを中心に行い、判断やパスの「スピード」と「質」へのこだわりが強調されていた。
「ある程度はできている。もっとこだわらないと上(なでしこジャパン)には行けないよ!」
合宿中、コーチ陣からはA代表を意識させるような声が度々飛んでいた。
3日目に予定されていた藤枝明誠高校(男子)との練習試合は15分×3本の紅白戦に変更になり、この紅白戦が合宿のハイライトとなった。
即席チームで行われる試合のポイントは、コンビネーションが不安定な中でいかに持ち味をアピールし、良いプレーを見せることができるかーー。それは必然的に、セレクションやトライアウトのような雰囲気になる。
そんな中、攻撃面で光ったのがFW増矢理花とDF宮川麻都だ。増矢は隅田と同じく、昨年のアジア2冠のメンバーだ。宮川はベレーザのレギュラークラスで、前線とGK以外の全ポジションをこなせるユーティリティプレーヤー。2人とも体の使い方や足下のテクニックが上手く、相手によってプレーを変えられるため、その個人戦術でコンビネーションの未熟さを補いつつ、サイドハーフとサイドバックの縦の関係で良い崩しを見せていた。
また、守備では2度目のチャレンジキャンプへの参加となったDF土光真代とDF西川彩華の2人が安定感を見せた。土光はベレーザのセンターバックとして、昨年のシーズン3冠に貢献。球際の落ち着いた対応と正確なフィードで攻撃の起点になった。
西川はボランチとセンターバックの両方でプレーすることができ、167cmの長身を生かした対人の強さと、正確で知的なフィードが印象に残った。所属のジェフユナイテッド市原・千葉レディースで昨シーズン、ポジショニングとフィードの質を磨いたことでプレーに落ち着きが生まれ、シーズン終了後には西川自身が成長の手応えを口にしていた。紅白戦でFW京川舞の先制点をおぜん立てした縦パスは、試合前の「準備」が功を奏したとも言える。
「自分の長所であるロングフィードをどのポジションでもアピールできるように、試合が始まる前に、FWの選手に『ボールを持ったら必ず前を見るので、裏も狙って欲しい』と伝えるようにしています。今日は(ゴールした京川)舞さんにそのことを伝えていたので、その形で得点につながって嬉しかったです」(西川)
一方、ボランチで落ち着いたプレーを見せていたのが、浦和レッズレディースのMF栗島朱里だ。
チャレンジキャンプには初招集だが、「選ばれたことにびっくりしましたけど、『チャンスだ!』と思いました」という言葉通り、堅実なプレーをアピール。156cmと小柄だが、ポジショニングが良く、テクニックがあり体も強いのでボールを奪われない。本人曰く、立ち位置などは「無意識で」調整しているそうだが、身体に染み付いたその臨機応変さが周囲の選手を輝かせていた。
A代表に通じるこのチャレンジキャンプに参加したことがきっかけで、意識が変わる選手もいる。そして、彼女たちの中には4年後、8年後の女子W杯を狙える年齢の選手も少なくない。
今年、女子W杯の後には、国内での親善試合やE-1選手権(韓国)が予定されており、来年は東京五輪だ。それまでに、新たな秘密兵器となる選手が現れることを楽しみにしたい。
なでしこジャパンに比べて大人しさは否めないが、胸に人一倍の強い思いを秘めた選手たちの、伸びしろの大きさを感じたキャンプだった。
【選手コメント】に続く