埼スタで誓ったロシアW杯。原口元気と槙野智章がかなえる夢
■槙野のメッセージでドイツに送り出された原口
サッカー日本代表は6月19日、ロシアW杯グループリーグ初戦のコロンビア戦を迎える。日本にとっては6大会連続6度目のW杯。代表メンバー23人にとっては、それぞれの胸に刻まれた思いを携えてピッチを踏みしめる瞬間だ。
そんな中、“4年前の誓い”を成就させようとするコンビがいる。DF槙野智章(浦和レッズ)とMF原口元気(ハノーファー)だ。2人は2012年1月から2014年6月までの2年半の間、浦和でともにプレーした間柄である。
■敵将は奇しくも西野朗氏
2人がともに赤いユニフォームを着て最後にプレーしたのは、2014年6月1日、ホーム埼玉スタジアムで行われたナビスコカップの名古屋グランパス戦。敵将は奇しくも現日本代表監督である西野朗氏だった。
原口はその1週間前の5月25日に、ブンデスリーガのヘルタ・ベルリンへ完全移籍することが決まっていた。
名古屋との試合を5-2の勝利で終えると、槙野はユニフォームを脱ぎ、下に着ていたメッセージ入りのシャツで原口を送り出した。
シャツには『浦和→ドイツ=ロシアW杯 バイバイ泣き虫ゲンキ!! 元気!!』と書かれていた。兄貴分からの激励に、原口は感無量の面持ちを見せた。
■闘志をピッチにはっきりと投影できる選手
小学生の頃から“怪童”として知られていた原口は、中1から浦和ジュニアユースに所属。ユースに上がって2年が過ぎた2009年1月に17歳で浦和とプロ契約を結んだ。
20歳だった2011年10月7日の国際親善試合・ベトナム戦で代表デビュー。アルベルト・ザッケローニ監督の期待は大きかった。だが、何度も招集されながら、インパクトのある結果を示すことができず、2014年ブラジルW杯には選出されなかった。その前の2012年にはロンドン五輪の代表入りも逃していた。
ヘルタ・ベルリンへの完全移籍が決まったときの記者会見。移籍を決断した理由にはW杯のメンバー選考から漏れたことも理由なのかと聞かれると「それもあります」と認めながら、「もっと上に行きたい、うまくなりたいという気持ちを抑えられなかったということです」と語った。
浦和時代から原口は、闘志をピッチに投影できるプレーヤーだった。ただ、若さ故のムラがあり、ときには独りよがりのプレーになってしまうこともあった。
ドイツに行ってからの原口は大きく変身した。カウンセリングを受けてメンタルトレーニングをし、フィジカル面では走りの個人トレーニングを行い、運動量とスプリント力を身につけた。成果はロシアW杯アジア予選で存分に発揮された。W杯予選4試合連続得点は日本代表では歴代最多だ。
■31歳…出れば歴代で最も遅い代表デビューとなる槙野
「浦和のファンはもちろん、いろんな方々が、やんちゃだった昔の元気を知っていますからね。今、こうして日の丸を背負って戦う男になったのは、彼自身が変われた証拠。ただ、4年前はメッセージで元気を送り出した形になったけど、ロシアW杯は僕も出たい大会でした。今回はここまで来ていますから、もちろん一緒に試合に出たいです」
そう語る槙野が代表デビューを果たしたのは、原口よりも約1年半早い2010年1月のイエメン戦だった。岡田武史元監督が指揮を執ったこの試合のメンバーは若手で構成。槙野はキャプテンマークを巻いてプレーした。特別なケースの試合だったが、それにしてもフル代表のデビュー戦でゲームキャプテンをやったというのはまれなケースであり、期待の大きさに疑いの余地はない。
けれども、槙野はそこから伸び悩みを見せた。2010年南アフリカW杯では予備登録止まり。2014年ブラジルW杯にかけては断続的に招集を受けたが、突き抜けることができなかった。
「この8年間は非常に苦しい時間を過ごしてきました。どうしたら最後に自分の名前が呼ばれるのか、日の丸を背負って世界で戦えるのか。そのことに対して時間を割いて毎日努力を続けてきました」
槙野が大きく開花したのは、2015年3月にバヒド・ハリルホジッチ前監督が就任してからだ。指揮官の求める「デュエル」の面で成長を見せた槙野は、いつしかハリルジャパンのレギュラー格となっていった。4月に監督交代があった後も西野朗監督に評価され、DFラインの主軸である吉田麻也の相棒としての地位を築きつつある。
ロシアW杯で出番が訪れたならば、31歳1カ月でのW杯デビュー。これは日本代表史上最も遅いW杯初舞台となる。
■右サイドハーフ・原口、センターバック・槙野
日本はコロンビアに対して4-2-3-1のフォーメーションで臨むことが予想される。原口は右サイドハーフ、槙野はセンターバックの一角で、ともに先発する可能性がある。
「僕は気持ちの面で一発勝負の試合にぐっと入っていくことは得意だと思っている」と原口は胸を張る。槙野は「初戦はより泥臭く、難しい試合になると思うので、そこで勝ち点を取るゲームをすることが大事だ」と力を込める。
3万3837人が見つめた埼玉スタジアムでの誓いから4年。高い目標を持ち続けてきた2人が、ロシアW杯で夢をかなえ、日本の力になる。