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シリアのアル=カーイダはフリーメイソンのイドリブ・ロッジだったのか?

青山弘之東京外国語大学 教授
Enabbaladi、2020年8月7日

シャーム解放機構はフリーメイソンと関係があるのか?

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者が、フリーメイソンのロゴがプリントされたTシャツを着た男性と並んでいる写真がSNSを通じて拡散され、話題となった。

火付け役となったのは、反体制系サイトのAll4syriaを運営し、「和平のためのシリアキリスト教会」の会長としても活動を行うアイマン・アブドゥンヌール氏。

同氏は8月7日、ツイッターに以下のように投稿した。

シャーム解放機構が公開したこの写真には、ジャウラーニーの前にいる人物が来ているシャツにフリーメイソンのワシントン・ロッジのロゴがはっきりと見て取れる?

この人物はこのTシャツをどこで入手したのかという疑問が残る? 例えばイドリブ・ロッジのメンバーなのだろうか?

Grand lodge District LOGO appears on Jolani Escort T-shirt

反体制系サイトのEldorarによると、話題となった写真は、8月6日にジャウラーニー指導者がハマー県のハルファーヤー市を訪問した際に撮影されたもの。

アブドゥンヌール氏の投稿に対して、SNS上では、この男性がシャーム解放機構の関係者ではないか、ジャウラーニー指導者の護衛ではないかといった憶測が飛び交った。

シャーム解放機構が釈明

騒ぎを受けて、シャーム解放機構のメディア・コミュニケーションの責任者だというタキーッディーン・ウマル氏が報道声明を出し、次のように釈明した。

シャツを着ている人物は民間人で、ジャーラーニー氏が視察したキャンプにいた一人である…。この人物との間に何らの組織的なつながりもない。

こうした衣服は、人権団体や支援団体がシリア国内の要支援者に配給したもので、ほとんどの人は、こうした服に書かれているメッセージやマークが何であるかを分かっていない。

Jesr Press、2020年8月7日
Jesr Press、2020年8月7日

シャツを来ていた本人もビデオ・メッセージを発表

フリーメイソンのロゴがプリントされているシャツを着ていた男性本人のビデオ・メッセージも「自由北部人」を名乗るツイッターのアカウントを通じて発表された。

ズィヤード・ジャールードを名乗るこの男性は、ハマー県ハルファーヤー市の出身だと明らかにしたうえで、「シャーム解放機構を含むいかなる組織にも加わっていない一市民だ」と述べた。

また、フリーメイソンのロゴについては「読めないし、書けない」などとしたうえで、ビデオ・カメラの前でTシャツを焼却した。

なお、ビデオを公開した「自由北部人」は、「シリア革命」に加わるムジャーヒドで作家の「アブー・ムハンマド・シャマーリー」なる人物のアカウント。

アイコンとして使用している旗は、シャーム解放機構に支配地域の自治を依託されているシリア救国内閣が「国旗」として使用している旗を模したもの。

Syria TV、2018年11月12日
Syria TV、2018年11月12日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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