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追記訂正:北朝鮮ミサイル実験失敗の可能性

JSF軍事/生き物ライター
海上保安庁の船舶向け緊急情報のキャプチャー画像

 4月13日朝、北朝鮮は日本海に向けて弾道ミサイル1発を発射しました。韓国軍の観測によると平壌の周辺から東の日本海に向けて発射されています。

  • 午前7時22分ミサイル発射(自衛隊の観測、韓国軍は7時23分と発表)
  • 午前7時25分ミサイル発射報告(防衛省、ミサイル関連情報
  • 午前7時29分ミサイル警報・EEZ船舶(海上保安庁、緊急情報
  • 午前7時55分ミサイル警報・領土領海(Jアラート)
  • 午前7時56分ミサイル警報・領土領海(エムネット)
  • 午前8時00分ミサイル落下予想時刻:北海道南西部の陸地に落下する可能性
  • 午前8時16分ミサイル警報撤回(エムネット)
  • 午前8時19分ミサイル落下推定情報(海上保安庁) ※既に落下済みと報告

北朝鮮ミサイルがレーダーから消失、爆発四散の可能性

 韓国軍の観測によると北朝鮮ミサイルの水平移動距離は1000km・最大到達高度3000km未満と、高度についてははっきり断定していません。自衛隊と韓国軍の観測では高く打ち上げるロフテッド軌道での発射と報告されています。

韓国軍の観測数値

  • 水平移動距離1000km
  • 最大到達高度3000km未満 ※正確な数字を出していない

自衛隊の報告「レーダーから消失した」

 また自衛隊の観測報告の注目点は「距離と高度の報告が無い」「実際の着弾時間が発表されていない(事前の可能性の推測時間のみで最終確認が無い)」「レーダーから消失した」としている点です。

Jアラート発出の経緯を巡っては「北海道に落下する可能性のあるミサイルを探知したところ、探知の直後、レーダーから消失していた」と述べた。

出典:Jアラート発出判断は適切、レーダーから消失=北朝鮮ミサイルで官房長官:Reuters

 今回の北朝鮮ミサイルは高く打ち上げるロフテッド軌道での発射で、変則機動は行っていません。弾道ミサイルが高く打ち上がった宇宙空間で大きな軌道変更は出来ませんし、打ち上がり方や速度などから衛星軌道に乗せることも不可能です。急角度で降下してから大気圏内で滑空に入ることも困難でしょう。

 目標が高高度で突然消失した理由で考えられる可能性は、レーダーが探知失敗したか、ミサイルが爆発四散して物理的に消滅したかです。しかし日本・韓国・アメリカの3カ国の軍隊が複数のレーダーで監視しています。高く打ち上がったロフテッド軌道の弾道ミサイルという丸見えの状態の目標を、これら複数のレーダーが全て探知に失敗したという事態は非常に考え難いでしょう。すると目標が飛行途中で爆発四散した可能性が残ります。

 ただし日本政府の松野博一官房長官は北朝鮮ミサイルが爆発した可能性についての記者質問に対して調査中としています。仮に日本側の説明が正しい場合、韓国軍が観測した北朝鮮ミサイルの水平移動距離は1000km・最大到達高度3000km未満とは投棄されたロケットの下の段である可能性が有り、上の段が更に上昇中に爆発・消失したとすれば辻褄は合います。しかしこれはまだ確認されたわけではありません。

参考:北朝鮮ICBM発射失敗か(2022年11月3日)

 なお北朝鮮ミサイルの発射試験失敗でJアラートが空振りになった例は昨年にもありました。この時は韓国軍の推定で、北朝鮮ミサイルは液体燃料2段式の2段目にトラブルがあったというものでした。

4月14日追記訂正:4月13日のミサイル発射は実験失敗ではなく、加速中の上昇角度変更と時間遅延分離始動を実施した特殊な飛び方

過去の北朝鮮ミサイルのロフテッド発射

  • 中距離弾道ミサイル「火星12」:約30分間飛行・最大高度2000km
  • 長距離弾道ミサイル「火星14」:39~47分間飛行・最大高度2800~3700km
  • 長距離弾道ミサイル「火星15」:53~67分間飛行・最大高度4500~6200km
  • 長距離弾道ミサイル「火星17」:67~69分間飛行・最大高度6000~6300km

※水平移動距離はいずれも約1000km。これは北朝鮮自身がロフテッド軌道での発射について周辺国に配慮した実験用の打ち方と説明しており、過去のロフテッド軌道での発射では日本海に着水するように調整していたため。

 過去の北朝鮮ミサイルのロフテッド発射と比べると、今回の発射は韓国軍の観測の高度3000km未満が事実ならば、2017年7月4日発射時のICBM「火星14」が近い飛び方に該当します。しかし火星14は姿を見せなくなってから何年も経過しており、移動発射機は火星15用の車軸を一つ増やしたものに全て改造されたのではないかと推測されています。火星14は開発試験で終了し実戦用ICBMは火星15に切り替わったとするなら、今回のミサイルは未知の新型の可能性が有ります。

 なお2017年7月4日発射時のICBM「火星14」のロフテッド発射(約40分間飛行)を最小エネルギー軌道(最も遠くへ飛ぶ打ち方)で発射したと仮定すると、推定最大飛距離は8000km級になります。IRBM「火星12」のロフテッド発射(約30分間飛行)を同様に仮定すると推定最大飛距離は5000km級です。

ICBMは液体燃料なら2段式、固体燃料なら3段式

  • 液体燃料1段式:IRBM(火星12)
  • 液体燃料2段式:ICBM(火星14、火星15、火星17)
  • 固体燃料3段式:ICBM(新型:推定)

 一般的にICBM(大陸間弾道ミサイル)は主推進ロケットが液体燃料ならば2段式、固体燃料ならば3段式です。IRBM(中距離弾道ミサイル)は液体燃料ならば1段式ないし2段式、固体燃料ならば2段式です。この傾向は北朝鮮に限らず世界各国とも大体このようになっています。

 今回の北朝鮮ミサイル発射で韓国軍は新型の固体燃料ICBMの可能性を疑っているのは、おそらくですが飛び方が2段式ではなく3段式の切り離しの加速の動きの違いをレーダーが捉えていた可能性が有ります。ただしそのような詳しい理由の説明の発表はまだありません。

 なお噴射炎を見れば液体燃料ロケットか固体燃料ロケットかは直ぐ判別できますが、間近で見ないと分からないので、これは北朝鮮自身が映像を公開しないと分かりません。ただし実験が成功していなかった場合は映像を公開しない場合や、加工した画像を公開することも有り得ます。

※固体燃料ロケットのコンポジット系の場合は助燃材のアルミ粉の燃焼で白煙を大量に吐く。

※液体燃料ロケットの四酸化二窒素/ヒドラジン系の場合は点火時に赤褐色の毒々しい煙を吐き、噴射炎は透き通るような色。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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