木枯らし1号とパセリ
きょう(4日)夕方、近畿地方で「木枯らし1号」が吹きました。今夜は東京でも、北風が強まりそうです。晩秋から初冬にかけて吹く強い北よりの風を木枯らしといい、木を吹き枯らすという意味があります。昔から季節風の吹き出しを木枯らしと呼んでいましたが、いつの頃からか、気象台の発表する「木枯らし1号」に注目が集まるようになりました。
「木枯らし1号」の歴史
「木枯らし1号」のルーツを探ると、1960年代までさかのぼります。当時の天気図日記には、木枯らし一番、木枯らしNo.1、初木枯らし、木枯らしの日などさまざまで、きまりはなかったようです。その後、元気象庁天気相談所所長・元NHK気象キャスターの宮沢清冶さんが1973年に書かれた「木枯らしの季節」というエッセイのなかで、「木枯らし1号」の条件を述べています。
1.気圧配置が西高東低の冬型となること
2.風向が北から西北西の間になって、最大風速が10メートル以上となること
3.風が吹き出した翌日の最高気温が2~3度低くなること
4.10月早々は12月に入ってからの吹き出しは季節感からして採用しない
現在は、3番の気温の条件がなくなったものの、当時とほとんど変わらない条件で「木枯らし1号」が発表されています。ただ、昨今の温暖化のせいか、「木枯らし1号」の吹く時期は少しずつ遅くなっているようです。
「木枯らし1号」の発表は東京と大阪だけ
しかし、宮沢清冶さんのエッセイを読んでも、「木枯らし1号」の発表がなぜ、東京と大阪だけなのかは分かりません。季節感が乏しい大都会に冬の訪れを告げるためなのでしょうか。
試みとして、札幌と福岡の「木枯らし1号」を調べてみました。最近10年間では平均して、札幌が10月15日、福岡は11月10日でした。福岡は「木枯らし1号」の判断が容易だった一方で、札幌は判断に迷いました。10月になると日に日に秋が深まり、10月下旬には紅葉と初雪がほぼ同時にやってきます。東京のように、ゆっくりと秋が過ぎるわけではないようです。札幌の人は木枯らしをいつ頃感じるのでしょう。
ふと、向田邦子さんのエッセイを思い出しました。世の中にはサンドイッチの横についているパセリを食べる人と食べない人がいる。つまり、ものごとに無頓着な人とそうでない人がいて、
「木枯らし1号」をあれこれ思う私は、さしずめパセリを食べない人でしょう。季節感は人それぞれに思えばいいことだと、向田さんに言われたような気がしました。
【参考文献】
天気図日記1956年~1965年(財団法人日本気象協会創立15周年記念)
宮沢清冶,1973:木枯らしの季節,月刊気象,日本気象協会
向田邦子,1983:パセリ,無名仮名人名簿,文春文庫