ツツガムシ病とは:冬季でも気をつけたい人獣共通感染症
野山にいるダニが感染源となる感染症(人獣共通感染症)のうち、ツツガムシ病は国内で年に数百件の報告事例がある珍しくない感染症だが、死者も出ているように注意しなければならない感染症でもある。ツツガムシ病とはどんな病気なのだろうか。
ダニ媒介感染症とは
先日、ツツガムシ病により、千葉県の記録にある限り県内で初めての死者(70代、男性)が報告された。船橋市によると、男性は千葉県南部で昨年12月上旬、草刈り作業をした後、発熱などの症状が出て敗血症で死亡し、検査結果から直接の死因がツツガムシ病とわかったという。
マダニなどダニ類による感染症には、日本紅斑熱、ダニ媒介性脳炎、マダニ媒介SFTS(重症熱性血小板減少症候群、Sever fever with thrombocytopenia syndrome)、ボレリア症などがある。原因となる病原性微生物は、リケッチア(ツツガムシ病、日本紅斑熱など)、スピロヘータ(ライム病)などの細菌、フレボウイルス(マダニ媒介SFTS)、フラビウイルス(ダニ媒介性脳炎など)、ナイロウイルス(クリミア・コンゴ出血熱)などのウイルスがある。
ツツガムシ病は、ツツガムシというダニの一種が媒介し、リケッチアという細菌(オリエンティア・ツツガムシ)によって発症する。ツツガムシ病がツツガムシというダニの一種が原因とわかったのは1899年のことで、ツツガムシからリケッチアを分離特定できたのは1930年のことだ(※1)。
ツツガムシ病とは
ツツガムシの幼虫に刺されることで発症するツツガムシ病は、山形県の最上川や秋田県の雄物川、新潟県の信濃川や阿賀野川などの流域の河川敷や野山、あるいは北陸から東北地方で発生する風土病として知られていた。しかし、戦後に別の種類の新型ツツガムシが現れ、北海道など一部を除く全国で見られる感染病だ(※2)。
よく「つつがなくお過ごしください」などというが、この「つつが」は災難や厄災、病気のことで(『広辞苑』)、秋田県の医師でツツガムシ研究者の田中啓助がダニの一種のツツガムシによる感染症と指摘してツツガムシ病(恙虫病)とした(※3)。
現在でも全国で年間数百人の感染者が発症して死者も出ており、2019年5月には青森県で80代の女性が亡くなり、2021年12月と2022年11月には九州の熊本県でも2人の患者が報告されている。ヒトヒト感染はない。
また、同じリケッチアによる感染症の日本紅斑熱は、日本紅斑熱リケッチアという細菌を持つマダニにかまれると感染する。潜伏期間は2〜8日。高熱や発疹が現れ、重症化して死に至ることもある。日本紅斑熱は年々増加傾向にあり、感染地域も広がっているが、これは海外から新たな細菌が入ってきたことが主な原因と考えられている。
早期の治療が重要
ツツガムシ病の潜伏期は5日から14日とされ、頭痛、食欲不振、倦怠感、発熱(リンパ節など)、筋肉痛などが出て次第に症状が悪化する。ツツガムシによる刺し口(黒色痂皮)があることが特徴だが、刺された部位を発見しにくく、診断が難しい病気でもある。
ツツガムシ病の治療には、抗菌薬が有効とされ、治療開始後に軽快することが多い。一方、診断と治療が遅れると重症化し、死亡することもあるので、ダニに噛まれた場合はできるだけ早期に医療機関を受診することが重要だ(※4)。
また、ツツガムシやマダニなどのダニは肌寒くなる冬も活動する。実際、ツツガムシ病の発生件数では、秋口から春までの寒い時期に増えることもある。
ダニは節足動物だから寒くなると出てこないと油断せず、散歩や登山、ゴルフ、草刈りなど屋外で活動したり作業する場合、肌の露出を少なくしてダニに刺されないようにしたい。屋外から帰ってきたらダニに刺されていないか確認し、衣類を洗濯して入浴することにも注意したい。
※1-1:K Tanaka, "Ueber meine japanische Kedani-Krankheit" Cent fur Bakteriol Parasiten und Infekt, Vol.42, 329, 1906
※1-2:Naosuke Hayashi, "Etiology of Tstutsugamushi Disease" The Journal of Parasitology, Vol.7, No.2, 1920
※1-3:M. Nagayo, et al., "On the virus of Tsutsugamushi disease and its demonstration by a new method" the Japanese Journal of Experimental Medicine, Vol.20, 556–566, 1930
※2:小川基彦ら、「わが国のツツガムシ病の発生状況─臨床所見─」、感染症誌、75:359-364、2001
※3:須藤恒久、「本邦における最近の恙虫病の疫学及びその臨床像と病原診断体制の現況について」、ウイルス、第36巻、第1号、55-70、1986
※4:田居克規、岩崎博道、「リケッチア感染症の診断と治療〜つつが虫病と日本紅斑熱を中心に〜」、日本化学療法学会雑誌、第66巻、第6号、2018