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「加熱式タバコ」からも毒性物質「ギ酸」が。東海大学の研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 紙巻きタバコと同様に加熱式タバコを吸っても健康に害があるが、新たな毒性物質が検出された。東海大学の研究グループは、国内で販売されている4種類の加熱式タバコを調べ、毒性の強いギ酸を検出したことを発表した。

ギ酸って何?

 ギ酸(Formic acid)は、17世紀に発見された赤アリ(Formica rufa)から名付けられた水溶性のカルボン酸(-COOHを持つ有機酸)だ。刺激臭のある無色の液体で、繊維・皮革、ゴム、化学、製薬などの産業で染料や各種材料の中間体などとして使用される。

 動物実験ではギ酸の大量投与で死亡がみられ、ヒトでも触れた部位に強い刺激をおよぼし、水疱、頭痛、嘔吐、下痢などを生じる。また、発がん性は確認されていないものの、ギ酸はヒトの体内に蓄積し、目や皮膚、呼吸器などへ障害を引き起こすことが知られている。

 このギ酸、もともと葉タバコにも含まれているが、栽培した葉タバコに散布することでさらに多量が混入したり、喫煙時に燃焼する過程で吸入したりする(※1)。こうしたことから、加熱式タバコを含むタバコの喫煙でギ酸を吸入することによる呼吸器への悪影響や受動喫煙の害などが懸念されている(※2)。

 そこで、東海大学の研究グループは、国内で販売されている4種類の加熱式タバコのデバイスとタバコスティック(レギュラーとメントール、加熱温度=摂氏40度から最大摂氏350度)を使い、ギ酸の放出レベルをイオン・クロマトグラフィーで分析し、その結果を学術誌へ発表した(※3)。

職場での限度量を大幅に上回るギ酸

 その結果、メントールよりレギュラーで、また加熱温度が高いほどギ酸の量が増えた(1リットル当たり0.0027±0.0031mg〜0.27±0.055mg)ことがわかったという。さらに、ギ酸はガス状ではなく、粒径の大きい粒子状のまま吸入され、その場合の吸入量は各国の公的機関が定める職場での曝露限度量(米国国立労働安全衛生研究所など。1立方メートル当たり9mg=1リットル当たり0.009mg)を大幅に上回っていたという。

 同研究グループは、加熱式タバコに紙巻きタバコよりも特に多く含まれるプロピレングリコールやグリセロールが熱分解によって変化し、ギ酸の生成に影響をおよぼしている危険性を指摘し、加熱式タバコのアイコスに含まれるメタノール(※4)は体内でギ酸に代謝されると述べている。

 また、加熱温度が高い加熱式タバコでギ酸の放出量が多くなるが、ニコチン摂取量が低く好まれないことから市場から低温加熱の製品が撤退することが予想され、喫煙者に対して高温加熱タイプの加熱式タバコに注意をうながしている。

 ただ、この研究にはタバコ産業(日本たばこ産業)と関係する団体から資金が提供されていることに注意が必要だ。

 いずれにせよ、紙巻きタバコに限らず、加熱式タバコからもギ酸が検出されている。

 ギ酸の蒸気を吸入すると鼻や口の粘膜を強く刺激し、炎症を引き起こし、ギ酸のエアロゾルを吸入すると呼吸器の障害を引き起こす危険性がある。低温にせよ高温にせよ、加熱式タバコを含め、なるべく早くタバコをやめたほうがいい。

※1-1:Hirohiko Sakuma, et al., "A Method for the Rapid Determination of Formic and Acetic Acids in Tobacco" Agricultural and Biological Chemistry, Vol.43(11), 2405-2406, 1979

※1-2:Lin Yun, et al., "Study on the hydrolysis of starch and protein in tobacco leaves by formic acid for improving the quality of tobacco formic acid for improving the quality of tobacco" Food and Machinaery, Vol.36, Issue7, 28, July, 2020

※2-1:Gurjot Kaur, et al., "Mechanisms of toxicity and biomarkers of flavoring and flavor enhancing chemicals in emerging tobacco and non-tobacco products" Toxicology Letters, Vol.288, 143-155, 15, May, 2018

※2-2:Xinbo Lu, et al., "A Comprehensive Study on the Acidic Compounds in Gas and Particle Phases of Mainstream Cigarette Smoke" processes, Vol.11(6), 1694, 1, June, 2023

※3:Masaki Kawaguchi, Yoshika Sekine, "Formate Emission in the Mainstream Aerosols of Heated Tobacco Products Distributed in Japan" atmosphere, Vol.15(9), 1045, 29, August, 2024

※4:Mark C. Bentley, et al., "Comprehensive chemical characterization of the aerosol generated by a heated tobacco product by untargeted screeing" Analytical and Bioanalytical Chemstry, Vol.412, 2675-2685, 18, February, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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