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菓子業界のミライ④北海道コンフェクトグループ 北海道のリソースを活用し、アジアで強いブランドをつくる

笹木理恵フードライター
北海道を代表する企業として、新体制で経営強化を目指す ※画像提供/COC

きのとやグループが、新生「北海道コンフェクトグループ」に

前回の「菓子業界のミライ③」では、北海道・札幌のお菓子ブランド「きのとや」のグループ企業である「ユートピアアグリカルチャー(以下、UA社)」を紹介したが、その「きのとやグループ」が、10月3日、各事業社の持株会社となる「北海道コンフェクトグループ」を設立したと発表した。グループの代表取締役 には、UA社の代表を務める長沼真太郎氏が、会長には、きのとや創業者である長沼昭夫氏が就任している。

そもそも「きのとや」グループは、1983年札幌に創業した「洋菓子きのとや」 を運営するきのとや、新ブランドや商品の企画・開発を行うCOC、洋菓子の製造・販売を行うKコンフェクト、そしてUA社の4社から構成されていた。昨今は、冬季限定お菓子「SNOWS(スノー)」といったブランド開発のほか、UA社の牧場経営など、グループ全体の業務領域や生産規模が急速に拡大していることもあり、グループ経営管理を一元化し、経営の強化を図ることにしたという。

北海道を代表するお土産菓子のブランドを作る

世界観のあるデザインも人気の「SNOWS」 ※画像提供/COC
世界観のあるデザインも人気の「SNOWS」 ※画像提供/COC

同グループの成長に弾みをつけたのが、COCが2021年1月に立ち上げた新ブランド「SNOWS(スノー)」だ。冬季限定のブランドで、北海道で作られる冬の風味豊かで濃厚な放牧牛乳を使用した新食感の生チョコレートサンドクッキー「スノーサンド」や、生クリームを生チョコレートで包んだ生トリュフチョコレート「スノーボール」などをラインナップしている。

真太郎さんによると「スノー」は、「きのとやの『札幌農学校』に並ぶ、北海道のおみやげ菓子のブランドを作りたいと開発した商品」だという。企画がスタートした2019年当初は土産店として道内での出店を検討していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、北海道の観光客も激減。北海道に来れなくても現地の世界観を楽しんでもらえるようにと、オンライン販売および道外へのポップアップショップの出店に切り替えた。発売初年度は、オンラインストアのほか北海道と東京・神奈川で販売し、2ヶ月で合計約50万枚以上を販売。2022年度冬季は、販売エリアを大阪・神戸にも拡大し、各地で2時間待ちの行列になるなど、さらなる反響を得た。3度目の冬となる今年以降は量産体制を整え、積極的に道外へも展開し、より多くの人が世界観を体験できるような取り組みを考えているという。

100年以上の歴史をもつ老舗ブランドがグループに参画

千秋庵製菓は、「ノースマン」(写真)や「山親爺」など、数々の看板商品をもつ ※画像提供/千秋庵製菓
千秋庵製菓は、「ノースマン」(写真)や「山親爺」など、数々の看板商品をもつ ※画像提供/千秋庵製菓

「北海道コンフェクトグループ」には既存の4社に加え、札幌で創業100年以上の歴史をもつ老舗製菓企業 「千秋庵製菓」がグループ入りを果たしている。同社は、2022年1月にきのとやグループのCOCと 業務提携を発表していたが、COCが株式の過半を取得したことで、正式にグループ企業となった。いわばライバル企業ともいえる道内の製菓ブランドとの提携に至った背景について真太郎さんは、次のように話す。

「競合他社が次々と新しいブランドを出すようになり、10年前と比較してお菓子のブランドをヒットさせるのが非常に難しくなっています。お客様も(情報過多でどれを買えばいいか)よくわからなくなっている。そうした時代のなかで、よりしっかりと、お客様に維持されるブランドをつくるためには、伝統的な企業と取り組むのが一番いいのではという判断です。千秋庵製菓さんは、きのとやなんかより全然知名度があって、積み重ねてきたレシピやヒット商品が信じられないほどたくさんある。現代のお客様に 刺さるであろう商品もたくさんお持ちなので、そういう商品をしっかりと出していくことには世の中的にも意味があるし、ワクワクする仕事ができると思っています」。

看板商品「ノースマン」を、生菓子としてリブランディング

「ノースマン」に北海道産の生乳から作られる生クリームをたっぷりと加えた「生ノースマン」(4個入り980 円) ※画像提供/千秋庵製菓
「ノースマン」に北海道産の生乳から作られる生クリームをたっぷりと加えた「生ノースマン」(4個入り980 円) ※画像提供/千秋庵製菓

千秋庵製菓との協働として取り組んだのが、看板商品「ノースマン」のリブランディング。「ノースマン」は、昭和49(1974)年より発売している千秋庵製菓の看板商品。従来はパイ生地であんを包んだ焼き菓子だが、若い世代にも好まれるように、生クリームを注入した「生菓子」としてアレンジ。10月5日、札幌大丸店に専門店をオープンさせる。

「弊社の強みの一つである、デザインやマーケティングの力を使って過去のヒット商品をリバイバルさせたり、新しいブランドを一緒に立ち上げたり、今後の取り組みにも大きな手ごたえを感じています。とはいえ東京ではまだ(千秋庵製菓を)知らない人も多いので、まずは北海道内でしっかりとした活動をしたいなと思っています」。

スイーツは、日本を代表するコンテンツに

「北海道」は、海外展開においても強いキーワードだ ※画像提供/COC
「北海道」は、海外展開においても強いキーワードだ ※画像提供/COC

BAKE、そしてきのとやで数々のヒット商品を生み出してきた真太郎さんは、スイーツの未来について「いままで以上にポテンシャルがある」と言い切る。ひとつには、コロナ以降に普及した「オンラインショッピングでの可能性」があり、さらにスイーツが「北海道が生き残るためのコンテンツ」になりうるからだという。

「今後、日本はフランスやイタリアのモデル、つまり観光と食の2つの産業が生命線となると思う。海外のお客様から見たら、日本のお菓子は世界一と言ってもよく、コンクールでも日本が圧倒的な力を持っています。インバウンドは今後間違いなく復活するでしょうし、円安の状況下では、ものすごく美味しいお菓子を、コストパフォーマンスよく海外に流通させられます」。

かつては、労働力の安い海外に日本の技術者を呼んで製造を行っていたようなケースが、日本国内で製造して輸出することになれば、より品質の高いお菓子を世界へ届けることができるというわけだ。「だからこそ我々は、北海道でしっかりと原材料からこだわったお菓子を発信して、アジアで支持されるようなブランドに成長させたいと考えています」。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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