知的財産権侵害上等のSHEINにユニクロがついに訴訟提起
「ユニクロ、模倣商品の販売で”SHEIN”を提訴」というニュースがありました。株式会社ファーストリテイリング(以下、ユニクロ)が、大人気商品「ラウンドミニショルダーバッグ」の模倣品を販売されたことで、2023年12月28日、SHEIN(シーイン)を東京地裁に提訴したというお話です。
ご存知の方も多いと思いますが、SHEINは中国発のファストファッション通販企業であり、世界的に急成長しており、米国では上場申請もしています。上場申請中の企業である割には知的財産権に対する意識が低く、頻繁に知的財産権に関する訴訟を提起されています。高級アクセサリメーカーのクロムハーツに商標権侵害で訴えられた件について昨年に記事を書いていますが、その時に調べたところでは、米国では、月5件くらいのペースで様々な企業や個人から訴訟を提起されています。
今回のケースですが、ユニクロのプレスリリースから判断する限り、不正競争防止法に基づく訴えであること、販売停止と損害賠償金支払いが請求されているようであり、意匠権と商標権は関係なそうです。
ユニクロは自社商品の意匠登録を何件か行っていますが「ラウンドミニショルダーバッグ」に相当する意匠登録はありません。半月型のバッグの形態自体は昔からあるものなので、外形での意匠登録は困難と判断されたか、あるいは、ひょっとすると出願して拒絶になったのかもしれません(意匠は拒絶になると出願内容が公開されずに終わりますので当事者以外には出願があったことすら知り得ません)。
商標権については商品の形態そのものを立体商標登録するのは相当ハードルが高いので、これもまた登録は困難です。ちなみに、著作権については、日用品の形状が著作物とされることはまずないですし、ましてや比較的一般的な形状の商品である今回のケースでは関係ありません。
一方、不正競争防止法は登録なしで権利行使できます。よく出てくるのは2条1項1号と2号です。1号の場合は、商品等表示(商品の外観を包含する概念です)の周知性と消費者の誤認混同のおそれを立証しないといけません。2号の場合は商品等表示の著名性(「周知」よりもさらに有名)を立証しなければいけないので、たとえば、ルイ・ヴィトンのモノグラム、任天堂のマリオのようにほとんどの人が知っているレベルである必要があります。
今回は、商品のデッドコピーに対応できる不正競争防止法の規定に2条1項3号(商品形態模倣行為)が主張されているものと思われます。ユニクロの「ラウンドミニショルダーバッグ」と問題にされたSHEINのバッグは、ある鞄職人さんのYouTube動画によれば内部も含めて「まったく同じ」であるそうです。このような場合には2条1項3号が適用可能です(類似では使用できません)。
しかし、2条1項3号は、日本で最初に発売されてから3年経過すると適用できません。「ラウンドミニショルダーバッグ」は2020年12月に販売開始されているそうなので、これから販売を差し止めることはできず、過去の販売行為に対する損害賠償請求権があるだけとなります。しかし、そうなると、上記のプレスリリースにおける販売停止が請求されている点とつじつまが合いません。
おそらく、2条1項1号と2条1項3号の両方が主張されているのだと思います。「ラウンドミニショルダーバッグ」はかなり有名なので2条1項1号で求められる周知性の条件についてはクリアー可能だと思います。あるいは、もし2020年の販売売開始以降にデザインの変更があり、SHEINの商品が変更後のデザインを摸倣したものであるならば、現時点でも3年の期間は過ぎていないことから、2条1項3号による販売差し止めの請求は可能です。このあたりは訴状を見てみないと何とも言えません。
SHEIN側としては、「ユニクロのバッグは商品の機能を確保するために不可欠な形態」である等の反論を行うことになると思いますが、個人的には、やり得を許さないような判決が出ることを期待します。