東大推薦入試は劣化にあらず~意外に多いぞ、激ムズ推薦・AO入試
東大ネタでよく記事を書いてご飯を食べている石渡です、こんばんは。
テーマとは全く無関係の写真シリーズ、今回は2013年エコプロダクツでブースを出していた空き缶から作った折鶴の大群です。
多様な学生を示しているような写真と思いません?思わない?あ、そう…
さて、今回のテーマは東大・推薦入試です。
東大が推薦入試を初めて実施
昨日(1月29日)、東京大は2016年度入試から推薦入試を導入すると発表しました。
推薦入試ではありますが、センター試験の受験が必須かつ得点率80%以上。学部ごとに出願条件を変えていますが、
「成績が学校の上位5%以内」(法学部)、「探究学習の卓越した実績・能力」(教育学部)、「商品レベルのソフトウエア開発経験など、自然科学で卓越した能力」(理学部)
など、相当なハードル。
マスコミ各社の報道を見ると、
などレベルの高さを強調する記事が多数。
一方、ネットでは
東大が推薦入試なんてがっかり
卒業生で導入賛成者は、本当にいるのか?
東大のレベルが下がるんじゃないか
推薦入試の基準高すぎ。結局、一般入試と大差なし
など、賛否両論。
やはり、というか、東大の持つ強いブランドイメージ、それから、推薦入試の持つネガティブなイメージに、異様に高いハードルが合わさって話題となっているようです。
多様な学生を取る意味ではアリな推薦入試
私は今回の東大推薦入試、悪くないと考えます。
多様な学生を確保する、という点では面白い入試方式ですし、センター試験800点以上など学力が担保されているので、東大の教育が劣化する、ということもないでしょう。
そもそも、異様に難しい推薦・AO入試、東大が初めてというわけではありません。
国公立大や私立大の難関校などでは一般入試並み、もしくはそれ以上に難しい推薦・AO入試がすでに実施されています。
講義受けてレポート提出3回繰り返し~九州大
九州大学の21世紀プログラム課程は、2001年に設置された各学部横断の教育プログラムです。
専門性の高いゼネラリスト養成を理念として掲げ、毎年25人前後の生徒が合格し、便宜上どこかの学部に学籍を置くが、それは自動的に振り分けられています。
この21世紀プログラム課程、入学するにはAO入試しかありません。
※他に2年次編入もあり
1次は書類(評定平均値は特になし)、2次は講義とレポート提出、小論文に面接です。
こう書くと、なんだ簡単そうだ、と思うかもしれません。思った方は次の詳細をどうぞ。
●選考初日
講義・レポート(講義50分受講後、レポートを作成・提出)×3回
●選考2日目
討論(前日受講の講義テーマ3本すべて/時間配分は受験生に一任)
小論文・面接(270分/うち20分は面接)
選考はなんと2日間がかりです。しかも講義テーマはかなり高度なもの。
2001年度選抜
「きたない」って、どういうことだろう?/転換期の日本の原子力政策 /経験は直感による判断と論理による判断
2002年度選抜
歴史の見方――島原の乱/「行為」とは何か?/振り子の糸の長さを変化させて周期を測定する実験
2003年度選抜
現代社会における責任倫理 /〈異文化〉としての過去/福利厚生・体育施設によるキャンパスライフの創造
2004年度選抜
地図を通して見た〈世界〉/科学研究活動を考える:特に、「観察する」とはどういうことか/生態変数(脈拍数)の変動性を科学する
2005年度選抜
考古学とはどのような学問か /『イギリス人』とは誰か?/Symmetry in Fantasy
2006年度選抜
国民国家はこれからも必要だろうか?/歴史を書き換える:ソ連史の場合/左と右の化学から考える環境問題
2007年度選抜
何に権利を付与するのか/生命(いのち)は誰のものか/個体差を科学する
2008年度選抜
大学の社会的機能の変化 /住民の視点から:From the native's point of view /薬と遺伝子
2009年度選抜
イエズス会から見た16世紀のにほん /原子力損害賠償法を見直すべきか/作物増収の戦略における植物の機能
2010年度選抜
読むことの意義 /いまどきの権力を考える/南極の地球科学と地球環境変動
2011年度選抜
日本における死因究明制度 /おとぎ話とジェンダー/学ぶことと働くこと
これ、受験する方も大変ですが、選考する大学教員も大変です。九州大が21世紀プログラムを本気で維持発展させていこうとする意気込みが感じられます。
一般入試より高度?東京工業大AO入試
東京工業大のAO入試も東大推薦入試、九州大21世紀プログラムといい勝負ができる激ムズ入試です。
1次はセンター試験(5教科7科目)。2次は筆記試験と面接。
この筆記試験が曲者。
たとえば2014年度の工学部6類の筆記問題はニューヨークタイムズの記事を読ませたうえでの回答。
面接では志望理由や得意なこと、などの定番質問のほか、
インフラの維持管理には難しい課題が多いと言われていますが、その課題と解決策について
地球環境問題が言われていますが、どのような問題・課題がありますか、またその解決策について
など、専門家でも即答できないような質問をぶつけてきます。
工学部6類以外でも専門性だけでなく読解能力などが相当問われる試験となっています。
日本最長の入試? 首都大学東京 ゼミナール入試
先ほどの九州大・21世紀プログラムは選考が2日がかりの長丁場ですが、さらに長いのが[ http://www.tmu.ac.jp/extra/download.html?d=assets/files/download/entrance/H26_ZEMISEIMEIANNAI.pdf 首都大学東京のゼミナール入試]。
なんと3か月もかかります。
実施学部は都市教養学部理工学系生命科学コース。
希望者はまず、前期ゼミナール(講義)に応募。6月に講義を3回受講します。
続いて7月にサマーセッション(実験)が2日。
さらに9月、後期ゼミナール(演習)として4日。
それぞれ、半日以上かかります。
しかも、前期ゼミナールは100人、サマーセッションが60人、後期ゼミナールが20人とどんどん減っていきます。
後期ゼミナールまで全部受講してようやくゼミナール入試の出願資格が得られます。
英語ができなきゃ門前払い~法政大グローバル教養学部
私立大では慶応SFCなどが有名ですが、他に法政大学のグローバル教養学部の自己推薦入試をご紹介します。
同学部は2008年開学で定員は50人。
同じ法政大には国際文化学部という似たような学部があり、こちらの定員は240人。
それに比べれば相当な少人数の学部です。こちらの自己推薦入試、中身はともかく、出願条件に注目。出願条件として英語能力を挙げているのですが、
その英語能力とはTOEIC820点以上、実用英語検定1級か準1級など
かなりの難関です。
激ムズ推薦入試で多様化傾向続く
推薦・AO入試と言えば、簡単に入れそう、というイメージが定着しています。
そうした記事・コメント発表をしてきたのはおまえだろ、というツッコミはさておくとして(さておくのか)。
上記でご紹介したような激ムズ推薦入試は今後も増えていくものと思われます。
国公立大や難関私立大からすれば多様な学生を確保したいでしょうし、と言って、意欲のみを重視した簡略な推薦・AO入試では学力が担保できません。
一芸だけで合格できるような推薦・AO入試は過去に実施していた大学もありました。
しかし、国公立大・難関私立大では結局のところ、姿を消していき増した。学力が担保されていないため勉強についていけない、他の学生に悪影響、などが主な理由です。
その点、国公立大であればセンター試験を課す方式での推薦・AO入試、私立大であれば法政大のような出願条件が厳しいか問題自体が難しい推薦・AO入試であればどうでしょうか。
大学側からすれば、多様な学生確保と学力担保、両方の目的を果たせます。
受かりやすい受験生・高校は?
一方、こうした激ムズ推薦・AO入試に向いている受験生・高校はどんなところでしょうか?
受験指導に長けた進学校、特に私立ではもともと、推薦・AO入試を敬遠しています。
合格基準があいまいで落ちた場合、そのショックを一般入試までひきずってしまい受験にかえって悪影響となるのが理由です。
それから、先に合格が決まってしまう推薦・AO入試の生徒はどうしてもゆるんでしまいますし、そうした姿勢はやはり一般入試組に悪影響。
ということを考えると、進学校の上位層はどう考えても一般入試狙いのままでしょう。
一方、進学校と言われているものの、地域では2~4番手あたりの高校であればどうでしょうか。
一般入試では突破できなくても、推薦・AO入試ならあわよくば、という可能性があります。
それから、進学校でも成績が下位に沈んでいる生徒であればいくら学校がストップをかけても受験するでしょう。
進学校の成績下位層は基本的な学力は悪くないうえに、特定科目・分野が好き、マニアレベルまで行っていて他の勉強をろくにしていない、など、いい意味での変わり者が多数。
東大推薦入試やその他の激ムズ推薦・AO入試が求める人材(多様=変わり者、学力が担保されている)に合致しています。
ただ、高校や進学塾・予備校がどこまで対策できるか、というとちょっと微妙なところ。
九州大の講義テーマや東京工業大の入試問題を読んでいただければお分かりになると思いますが、普段から関連テーマによほど関心が高いとか、そもそも論で幅広い教養に読解力がないと太刀打ちできません。
受験生からすれば入試方式が多様化することは機会が増える反面、楽に入れるわけでないよ、ということで一つ。
※進路・教育関連の記事については以下の記事もどうぞ