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料理評論家・土井善晴氏が十文字学園女子大学副学長に就任~教育広報担当者が知ると得する話・21

石渡嶺司大学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

◆土井善晴氏、副学長に就任

2024年11月1日、十文字学園女子大学(埼玉県新座市)は同日付で料理評論家・土井善晴氏が副学長に就任したことを発表した。

土井氏は「おかずのクッキング」(テレビ朝日)「きょうの料理」(NHK)などに長年出演するなど、料理評論家として有名である。2022年には文化庁長官表彰を受けた。

十文字学園女子大学のプレスリリースによると、もともと特別招聘教授だった。

副学長で「人を良く」担当とのこと。その理由については、プレスリリース全文を読んでいただく方が早い。

「食という字は人を良くすると書く」という説が広く知られています。正しくは、食の字は食器に盛った食物(皀)に、蓋(亼)をした様子を示し、食物や食事を表すようです。しかし、食には確かに、からだと心を健やかに、人と人の和をつよめ、「人を良く」する働きがあります。

 担当の「人を良く」から、土井教授の専門の「食」を連想する人は多いと思います。一方、本学は、「身をきたへ 心きたへて 世の中に 立ちてかひある 人と生きなむ」を建学の精神として謳っています。

世の中に立ちて甲斐(かい)(交(か)ひ(い):人々との交流・社会貢献)あるは、社会の一員として「人を良く」生きることの尊さを示しています。

土井教授の教育・研究対象は「食」のなかでもとくに「家庭料理」です。つまり食の原点となる無償の料理。料理が人間らしさをつくるのです。自然と人間の物質代謝を媒介する料理は、家族という最小単位の社会で育まれ、現代の文明社会ともまっすぐつながります。

土井教授の料理から人間を考える「家庭料理」に関する豊かな知見また人と人の和の中で磨いてきた「人を良く」の力を副学長として生かして下さるよう願っています。学生・教職員そして組織体・人間関係における「人を良く」に幅広く活躍し、次世代の人材を教え育みまた本学の「総合知」向上に貢献してもらうことを期待しています。

※十文字学園女子大学プレスリリースより

◆中堅以下の私大は使えるものは何でも使うべき

十文字学園女子大学は3学部を擁する中堅の女子大である。栄養系については人間生活学部に3学科(健康栄養、食物栄養、食品開発)を擁する。

ただ、近年は女子大離れに加えて、栄養系学部の乱立と不人気化などもあって苦戦している。2024年の入学者数は515人で定員割れだった。現在の状況が続けばかなり危うい、と言っていいだろう。

土井氏の副学長就任については賛否両論あるようだが、私は賛成だ。

というか、中堅ないし中堅以下の私大は「立っているものは親でも使え」のごとく、少しでも縁ある著名人は副学長でも学部長補佐でも何でもいいので、どんどん登用するべきである。

何もしなければ、中堅ないし中堅以下の私大はどんどん埋没して廃校に追い込まれるだけだ。

それに、十文字学園女子大学のようにきちんと教育を展開できているところであればなおさらだ。何もアピールできなければ「教育はしっかりしているのに」と愚痴をこぼしたところで学生は集まらない。

それならば、広告塔云々という批判があったとしても、縁ある著名人を適当なポストに起用した方がいい。それにより、話題作りができる。

土井氏の場合、料理評論家として母親世代の知名度は抜群に高い。その土井氏が副学長にいて、栄養系の3学科(または他の学部・学科)に適度にかかわっている、ということであれば、学生獲得には間違いなくプラスである。

むしろ、特別招聘教授であり、しかも授業まで持っていたそうだ。それならば、なぜもっと早く副学長ポストに就けなかったのか、実にもったいない。

土井氏本人が固辞していたのであればともかく、だ。そうでなければ、特別招聘教授からすぐに副学長にしておけば、定員割れは多少なりとも食い止められたことであろう。

◆著作多数の有名人を一般教員扱い

こうした著名人を教員ないし幹部ポストに招聘する際、間違いなく出てくるのが「どこまで実務を担当するのか」「学外の仕事はどうするのか」だ。

私は一度だけ、某私大の非常勤講師就任を打診されたことがある。結局、話が流れた。そのときに「テレビやネット記事で大学について好き勝手言っている人間が大学教員になれた義理はないよな」と考えて以降、話が来ても断るようにしている。

そのくせ、とある人物(A氏としよう)についてはほぼ接点がなかったにもかかわらず、「この人が大学教員にならないのはもったいない」と考えて、あれこれ運動をした。

別にこのA氏に借りがあるわけでもなく、教員就任によってコンサル料をもらう、という約束をしたわけでもない。勝手連的なボランティアである。

付言すると、A氏はあるテーマで著作多数であり、テレビ出演も多い(これ以上は本人を特定されないためにあえて伏せる)。

このA氏に最初に声をかけたのは地方私大だった。

ところがこの地方私大は「大学教員になったらテレビ出演は基本NG」「教員として授業だけでなく雑務もきちんとやってほしい」との条件を付けた。

要するに、教員の主流ルートと同じ扱いをしたわけだ。

A氏は「テレビ出演をOKしてくれるなら」と前向きだった。

私の運動はこのA氏に地方私大を断念させるところから始まった。

A氏ほどの知名度や著作、テレビ出演があれば、それこそ、土井氏のように副学長なり、あるいは学部長補佐なり、適当なポストに就けた方がこの地方私大は得したはずだ。

それを一般教員と同じ扱いにする、という時点でA氏を軽んじている。

「あなたがその地方に骨を埋める、あるいは、その地方の首長選を狙う、ということであれば、地方私大の教員就任もいいでしょう。しかし、今のようなメディア出演はほぼ無理になりますよ」

「あなたは野球で言えばメジャーリーガーなんです。いくら、日本のプロ野球で実績がないからと言って、独立リーグや少年野球チームに入りますか?メジャーリーガーにふさわしい待遇を持ってくるチーム、もとい、大学は絶対にあるし、その話を待つべきです」

A氏は私以外にアドバイスを求めたが、私のアドバイスとほぼ同内容だった。

結果、A氏はこの地方私大を断り、首都圏の名門大非常勤講師となる。その後、別の伝統校の教授となった。

A氏にとっても、その伝統校にとっても、双方プラスだった、と私は見ている。

◆以下、有料公開部分となります。

◆経営幹部だけでなく教員側の割り切りも必要

◆栄養系の学部なら次に狙うべき著名人

◆他の候補は

※無料公開部分2600字・有料公開部分の文字数2200字/合計4800字

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大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2025年6月に『採用のバカヤロー!』を刊行予定。

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