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マンションにも登場した「木造」。その利点と、当面は解消できない残念な点とは

櫻井幸雄住宅評論家
建設中の一戸建て住宅のようだが、これはマンションの建設中室内である。筆者撮影

 7月の上旬、東京都稲城市で、「日本最大級の木造マンション」の建設現場がマスコミに公開された。

 鉄筋コンクリート造が当たり前のマンションを木でつくってしまおうという試みである。開発したのは、三井ホーム。一戸建てのハウスメーカーがその技術を生かして、5階建て51戸のマンションを建設。完成する前、建物の構造がよくわかるタイミングで、内部を公開したものである。

 近年、木と鉄筋コンクリートを組み合わせた木造ハイブリッドマンションが登場しているが、こちらは純粋な「木造」である。

 木造で5階建ての集合住宅をつくることは簡単ではない。建築基準法や消防法の厳しい規制をクリアしなければ、建設は許可されない。簡単には建設できないことを考えれば、おそらく「日本初の木造マンション」であるはず。が、日本のどこかで3階建て程度の木造マンションが実現しているかもしれない。「日本で一番大きな木造マンションである」かどうかも、実証できない。

 いろいろなことを証明できないので、「日本最大級の木造マンション」という、控えめな表現となった。

 しかし、「日本初で、日本最大の木造マンション」であることは、まず間違いないだろう。

 実際、建設業界、不動産業界からの注目度は非常に高く、今年“最高レベル”の注目マンションでもある。

木造の中層マンションを日本に普及させるために

 そのマンション名は、「MOCXION」(モクシオン)。木造のマンシオンを表している。日本語表記はモクションでもよかった気がするが、商標登録の問題があるのかもしれない。

 「MOCXION」は、「国土交通省 令和2年サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されたプロジェクトだ。

 わかりやすく言えば、木造による中層マンションを日本に普及させるため、実験的につくられたマンションである。それも、75年から90年の耐久性を確保し、省エネ等級は最高レベルに。性能の高さを求めながら、壁は従来よりも薄く、工期を短縮し、国産木材の活用も促進する……木材を使って、高性能で安価なマンションを広めてゆこうとしているわけだ。

 この動きはアメリカやカナダで先行しており、場所によっては6階建てまでの集合住宅の多くが木造でつくられるようになっている。

 日本では、木造のオフィスビルの建設も進んでいるが、これは鉄筋コンクリートや鉄骨の代わりに木材で柱・梁をつくるもの。柱と梁で建物を支えるラーメン構造を木造で実現するもので、建設費は鉄筋コンクリート造より高くなる短所がある。

 これに対し、「MOCXION」は、これまで一戸建てのツーバイフォー工法で培った技術を活用し、柱と梁で建物を支えるラーメン構造ではなく、パネルで建物を支える壁式構造を採用。大空間をつくらなければならないオフィスビルと異なり、マンションでは、空間を小分けするので、一戸建ての建設技術を採用しやすいわけだ。

 その結果、「MOCXION」は鉄筋コンクリート造よりも安い費用と短い工期で建設できるマンションとなっている。

木造マンションには脱炭素、林業活性化の効用も

 「MOCXION」を開発したのは、三井ホームだ。

 三井不動産グループにおいて、マンション開発ならば三井不動産レジデンシャルとなるのだが、一戸建ての建設技術を活用した集合住宅なので、三井ホームの開発となった。

 その建物は、1階部分を鉄筋コンクリート造とし、その上に4層の木造部分を積み重ねた5階建て。大部分を木造にすることで総重量が軽くなり、くい打ちをせず、直接基礎で建設しやすい。くい打ちをしなければ、それだけでも建設費は大幅に安くなる。

 パネルで建物を支える壁式構造には、一戸建てのツーバイフォー住宅で培った建設技術を活用。工場で正確にカットされた木材を使い、パネルまで工場生産されるので、建設現場での作業は容易になる。1フロアが約1週間で組み上がるという。鉄筋コンクリート造では1フロアに1ヶ月かかるとされているから、驚くべき早さだ。

 この工期短縮も工事費用を削減する。

 さらに、マンションを木でつくり、長期間利用すれば、脱炭素に貢献できる。輸入材とともに国産の木材を利用できるため、日本の林業を活性化させる効果も期待できる。

 木でマンションをつくる意義は大きいわけだ。

 ただし、国産材の利用を増やすためには、解決しなければならない問題点もある。

 たとえば、首都圏の近くで木材を調達できても、高い精度の製材が可能な工場を求めると、丸太を一度北海道まで運ばなければならない……今はまだ、そのような問題もあるという。

木の温もりを肌で感じることは……

 「MOCXION」はツーバイフォー住宅の技術を活用しているが、強度を出すため、構造躯体となる部分には、ツーバイフォー材(断面が2インチ4インチの木材)よりも大きなツーバイシックス材(断面が2インチ6インチの木材)が使用される。ツーバイシックスでパネルをつくり、一部、ツーバイシックス木材を重ねた部分を設けて強度を出している(下の写真参照)。

建物を支える壁には、ツーバイシックスの木材でパネルをつくり、一部にツーバイシックスの木材をまとめた部分もある(写真の左手側に2カ所)。筆者撮影
建物を支える壁には、ツーバイシックスの木材でパネルをつくり、一部にツーバイシックスの木材をまとめた部分もある(写真の左手側に2カ所)。筆者撮影

 ツーバイシックスでつくられた外壁を構造むき出しの状態でみると、かなり分厚い。6インチは15センチ強あるので、外装材や内装材を加えると、壁の厚さは20センチ以上になるだろう。それでも、技術革新で従来の半分の厚さになっているという。木造で鉄筋コンクリートと同様の強度を出そうとすれば、これまではとんでもなく分厚い壁になったわけだ。

 「MOCXION」には、革新的技術がいくつも採用され、断熱性能や地震に対する強さ、遮音性、可変性などが高められている。

 ツーバイフォー工法を活用したマンションといっても窓は大きいし、バルコニーも設けられる。床の遮音対策も十分に施される。

 結構な点ばかりのようだが、取材して、残念に思う点もあった。

 たとえば、木の温もりに触れる暮らしが実現するかというと、そうはいかないのである。

 今回の構造見学では床も天井も、壁も木ばかりだった。しかし、集合住宅では、この後、耐火性能を高めるため、床、壁、天井はすべて石膏ボードで覆われてしまう。

マンションの共用廊下部分。ここも、オール木造。しかし、表面に石膏ボードの内装材が張られてしまい、木目の美しい木部分は隠されてしまう……。(NLT材とは、ツーバイフォー材を釘接合したパネル材)筆者撮影
マンションの共用廊下部分。ここも、オール木造。しかし、表面に石膏ボードの内装材が張られてしまい、木目の美しい木部分は隠されてしまう……。(NLT材とは、ツーバイフォー材を釘接合したパネル材)筆者撮影

 住戸内だけでなく、共用廊下も共用階段も、木の部分は隠れてしまう。その結果、木の香りは、多少はするかもしれないが、多くは封じ込められてしまう。せっかく木造の家に住みながら、それはないでしょう、との思いが生じてしまう。

 その点、一部の外国では、耐火性能を高めた木材をむき出しで使用することが認められている。日本でも徐々に法令等の整備も進んでいるので、1日も早く集合住宅の内装表面に木材を使用できるようになってほしいところだ。

残念ながら、木造マンションは分譲されない

 「MOCXION」には、一般の人の関心も高く、建設現場の外囲いに掲げられた「木造マンション」を示す看板だけで「このマンション、買いたい」という問い合わせが来ているという。

工事現場の囲いに掲げられた看板。木造マンションであることが分かる写真もあり、興味が募る。筆者撮影
工事現場の囲いに掲げられた看板。木造マンションであることが分かる写真もあり、興味が募る。筆者撮影

 が、残念ながら、この木造マンションは購入できない。

 実証を行わなければならない部分が多いため、「日本で最大級の木造マンション」は、まずは賃貸で運用される予定になっているのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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