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北欧生まれの「魔法の段ボール」 日本の展示会に革命をもたらすのか

井上久男経済ジャーナリスト
「リボード」と呼ばれる強化段ボールでできた机(筆者撮影)

欧州では利用量が年間15%の伸び

 展示会の設営コストを大きく下げそうな「魔法の素材」がある。日本国内ではほとんど知られていない「リボード」だ。北欧の間伐材からできた100%紙素材の強化段ボールのことで、段ボールを何重にも重ねて圧縮する。一見、板のようだ。

 スウェーデンの「リボードテクノロジー」社が製造、販売しており、欧州では利用量が年間に15%ずつ伸びているという。アパレル大手のH&Mや、アディダスなどの企業が店舗の展示用什器に活用していることが追い風の要因の一つとなっている。

 国内では最近、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が、2020年に打ち上げ予定の「H3ロケット」の模型を、この「リボード」を使用して作ったことで注目された。紙素材なので、円錐形に加工しやすいことからロケットの模型に用いられた。

重さはベニヤ材の5分の1

 ほかにも、百貨店での展示の陳列台や、家具の材料としても徐々に使われ始めている。また、テレビ局では、番組が変わるごとにスタジオのセットを模様替えしているが、そのセット向けにも適しているのではないか、といった見方もある。

 軽くて扱いやすいことが「リボード」の特徴。重さはベニヤ材の5分の1程度で、紙なので曲げたり、切ったりの加工が素早くでき、複雑な形状のものも対応可能だという。紙なので完成時の反りも少ない。軽量なので、展示の際に高いところへ設置したり、吊り下げたりする場合でも作業しやすい。

 そして、一度組み立てたものを平面に戻すことも可能なので、持ち運びが便利で繰り返し使用することができる。再利用しない場合は、再生紙原料としてリサイクル可能なので、産業廃棄物削減の一助となる。

工場で加工されている「リボード」。印刷もしやすいことからデザイン重視の展示には向いているという(井上撮影)
工場で加工されている「リボード」。印刷もしやすいことからデザイン重視の展示には向いているという(井上撮影)

モーターショーやスタジオ用に最適か

 肝心の強度は、「リボード」で作った40センチ×20センチの板の上に12キログラムの物を置いてもへこまない。設計を工夫すれば、クルマも載せることができるので、モーターショーの展示用資材としても利用可能という。

 単価は、1・6メートル×2・2メートルのもので2万円~4万円程度。素材だけのコストを見ればベニヤ材より高いが、製作期間の短縮、輸送や設営・廃棄コストの低減効果を重ねれば、「リボード」を使った方が総コストは安く収まる傾向にある。コストとは別に、急いで展示ブースを作り、展示後に急いで撤収しなければならないケースには有利だという。

広告代理店の発注構造も壁?

 クロスを張る必要もなく、紙なので大型印刷機を使ってデザイナーが作成したデータをパソコンから印刷機に移し、瞬時に印刷してしまう。いいとこずくめの「リボード」だが、課題は、紙でできているので、水と火に弱いこと。ただ、火災(消防)対策については、防災シールを張ることで対応できる。

「リボード」が日本ではまだ無名なのは、輸入代理店が日本製図器工業(大阪市)しかないことが影響している。アジアでもこの1社だけだという。展示会を請け負う広告代理店などの業界構造も影響している可能性がある。「代理店には、いわゆるお抱えの大工、印刷、表具屋といった工務店関係者がいるので、こうした業者に仕事を出さなければならず、『リボード』を使えば、業者の仕事が減ってしまうことが普及を阻害している一つの要因」と見る関係者もいる。

 

カワグチマックの挑戦

 加えて、「エコ素材」や「環境に良い」だけでは採用に至らないという日本の環境意識の低さも、欧州のように普及が急拡大しない一因と見られる。

「リボード」を扱って展示ブースなどを作ることができる業者は国内では3社程度。そのうちの1社が尼崎市に本社がある段ボール製品製造・販売のカワグチマックだ。社員115人、売上高12億円の中小企業だ。社長の川口徹氏(55)は、大手都市銀行を経て父が創業した同社を継いだ。

 

バレンタインデーのイベント用にも

 環境にもよく、使い勝手もいい「リボード」はいずれ普及すると見込んで、川口社長は2014年から新規事業として強化してきた。当初は担当の社員が3人程度で片手間にやるイメージだったが、百貨店向けなどに徐々に仕事が増えたため、人員を増やした。チェコレートメーカーがバレンタインデーの際にイベントで使う展示関係の什器類の注文も来るようになった。テレビ局や自動車会社向けなどの営業も強化したい考えだ。

 現在はディスプレイ事業部を設立、担当社員を20人にまで増やした。19年1月には需要が多い地区への営業を強化するために関東事業所を設立した。「リボード」単品を納入するだけではなく、出展企業のニーズを聞き取り、展示ブース全体をデザインして組み立てる。展示会場での設営も請け負う。そのためにデザイナーも抱えている。

 川口社長によると、3メートル×3メートル=9平方メートルの展示ブースならデザインから完成まで1日で対応できるという。180平方メートルのブースならば1週間以内に完成させるという。価格はデザインや仕様にもよって大きな幅があるが、ほとんどの企業で10万円~150万円の範囲に収まっているそうだ。

 今後は大工や表具屋などの人手不足も予想されるうえ、企業はコスト管理に厳しくなっている。この「リボード」が日本でも脚光を浴びる可能性が高まっている。

  

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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