Yahoo!ニュース

日産自動車の内田誠社長 ルノー、三菱自動車との「3社アライアンスを次のステップに」

井上久男経済ジャーナリスト
インタビューに答える日産自動車の内田誠社長兼CEO(筆者撮影)

 日産自動車が2期連続の巨額赤字から脱して、2022年3月期は2155億円の当期純利益を計上、3年ぶりの黒字となった。本業のもうけ具合を示す営業利益率は2・9%とまだ低く、回復途上だが、水面下からは浮上した形だ。

 カルロス・ゴーン氏は17年、日産、仏ルノー、三菱自動車の3社連合で22年に計1400万台を売り、世界1位の自動車連合になることを目指した。しかし、これが裏目となり、台数至上主義に陥った結果、1台当たりの利益を無視する値引き販売に向かった。新興国中心に生産能力も過剰となった。

 こうした「ゴーン経営」の晩年の負の遺産を解消するために事業構造改革「Nissan NEXT」を展開。スペインやインドネシアの工場を閉鎖したり、グローバルで12500人を削減したりして巨額の構造改革費用を特別損失で計上したことが赤字に転落した主要因だった。

ウクライナ危機の影響でルノーが日産株売却の可能性

 ようやくその「傷」も癒えかけ、販売面では値引きで台数を稼ぐのではなく、商品のバリューを売る質的改善により、収益性を改善させた。収益源である北米地区での営業利益が22年3月期は前年同期比約7倍の3307億円となった。

 業績の回復を受けて日産は攻めの姿勢に転じ、次世代車でゲームチェンジャーとなる全固体電池の実用化を加速させる方針を示し、競合他社に先駆け、軽自動車のEVも市場投入する。

 一方で、ウクライナ危機という新たなリスクが日産の経営にも大きな影響を与える局面に突入。ロシア事業の比率が高かった筆頭株主のルノーがロシアから撤退することで大きな方針転換を迫られているのだ。ルノーはキャッシュを得るために保有する日産株を売却する可能性が出ている。これにより、23年間におよぶ日産とルノーのアライアンスの形に変化が出てくるかもしれない。

 そこで、19年12月に就任した内田誠社長兼CEOに過去3年間の日産を振り返ってもらい、かつ今後の展望を聞いた。

22年度は正念場

Q:構造改革が計画通りに進んでいる原因はどこにあるか。

内田:ゴーン氏は台数至上主義の経営をしたが、西川前CEOの時代に安易に値引き販売をしないバリューを追う経営に変わり、今はそれを加速させている。たとえば、米国ではレンタカー向けの比率や固定費も下げたことで、収益性が大きく回復した。

 こうした取り組みが徐々に成果を表すことで現場には自信が生まれたが、やっと競争のスタートラインに立てたに過ぎない。今の業績には満足していない。まだまだ伸びる潜在能力が日産にはあると思っている。

 構造改革を実行し、成果に結びつけるうえで大事な点は、経営トップがやり切る覚悟を持ち、強い意志で臨むことだと私自身が学んだ。経営トップに覚悟があれば、それが現場の社員に伝わり、現場からはイノベーティブな発想がどんどん出てくる。経営トップが改革への強い意志を持ち続けることで、経営と現場は一体になれる。

 日産は、プロセスや仕組みを作るのは得意だが、それを腹決めして機能させていくのは苦手だという悪い企業文化があった。こうした風土を変えるためにもトップが変革に対する強い意志を持ち、ぶれないことが重要だ。22年度は企業文化をさらによい方向にもっていくための正念場だと感じている。

脱グローバリゼーションなど外部環境の複雑化

Q:日産がこれから成長軌道に乗っていくための課題は何か。

内田:Nissan NEXTの達成年度が23年度であり、まずはそれを計画通りきっちりやっていくが、日産がどんな会社になりたいか、その方向性を示したのが昨年11月に発表した「Nissan Ambition 2030」。そこでは全固体電池を28年に市場投入することなどを明記した。

 いまは、それを具体的な計画に落とし込み、新しい中期経営計画として可視化する局面にある。しかるべきタイミングで対外的にも公表する。ここでも重要なのがトップダウンとボトムアップの融合だ。

 数年前に比べて、ウクライナ危機や米中対立など市場に対する外的要因の変化は大きい。その様相は「Deglobalization(ディグローバリゼーション=脱グローバリゼーション)」と言っても過言ではない。

 また自動車業界では電動化が加速しているとは言っても、世界市場を地域ごとにみていくと、電動化のスピードやその内容は違っており、そこにきめ細かく対応していかないといけない。加えて資源高による原材料費の高騰といった企業の収益を圧迫する要因も出てきた。

一言でいうならば、自動車産業の置かれた環境は「複雑化」している。そうした局面では、社内外も含めて様々な人の意見を聞くことと、それを踏まえて経営トップが自分の考えを伝え続けることが大事になると考えている。何度も何度も言い続けないと、組織内には浸透しない。要はトップの「聞く力」と、「発信力」が大事だ。

軽EV投入 国内は市場元年

Q:三菱自動車と共同開発した軽EVの「日産サクラ」のオフライン式が5月20日に三菱水島製作所であった。軽EVにかける思いは。

内田:静粛性やパワーなどクルマの機能としては問題なくすべてに対応できていると考えており、アリアの兄弟分という位置付けだ。日本市場は22年がEV市場元年と見ており、軽分野に本格的なEVを発売することは、顧客の選択肢を増やすためにも良いことだと感じている。軽EVでは、自動車メーカーが顧客と社会に必要だと思われる存在であり続けるために、ライフスタイルに合致した売り方を発展させていきたい。

日産と三菱自動車が共同開発したEVのオフライン式に臨む内田社長と加藤隆雄三菱社長(右) 三菱水島製作所で(筆者撮影)
日産と三菱自動車が共同開発したEVのオフライン式に臨む内田社長と加藤隆雄三菱社長(右) 三菱水島製作所で(筆者撮影)

3社アライアンスの今後は選択肢が様々

Q:日産とルノーの資本関係のリバランスなどについては検討しているか。また、ルノーが設立するEV新会社に日産も参加するか。

内田:3社のアライアンスは、個社が成長するための土台であるということが大前提にある。私は日産の、加藤隆雄CEOは三菱自動車の個社を成長させていくことに責任がある。

 考慮すべき重要な点は、我々は、他社と競争していかなくてはならないということ。アライアンスを次のステップに進化させ、それをどうメンバー各社の成長につなげていくか、この考え方がすべて。そうした考えのもと、今後論議を活発化させていこうとしている。アライアンスを強固にしていくための選択肢はさまざまだ。リバランスありきではない。

 ルノーのEV新会社は、欧州市場に軸足を置くルノーにとっては動きの早い欧州のEVシフトに対応し、成長していくために意味がある。投資家目線でも、成長分野にどのように資金を投入し、収益を上げていくのかが明確になりやすいので、株式市場では評価されるだろう。

 ルノーのEV新会社設立に日産も参加するかについては、日産にどういったメリットがあるのか、日産の成長にどうつながるのか、慎重に議論していく。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

井上久男の最近の記事