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日産・ホンダが協業交渉入り 三菱自動車含む「三社連合」誕生なるかがカギ

井上久男経済ジャーナリスト
日産の内田誠社長(左から2人目)とホンダの三部敏宏社長(同3人目)

 日産自動車とホンダは15日、協業開始に向けた覚書を交わした。今後の交渉の中で、EV事業でのソフトウエアや電池の相互補完などについて話し合う。

 両社が協業に向けて話し合うのには、もっと大きな「絵」があるからだ。それは、三菱自動車を含めた「三社連合」の誕生だ。協業交渉入りは、その実現に向けた第一ステップと見るべきだろう。2016年の資本提携以来、日産は三菱自動車株を34%保有する。その一部をホンダに売却することはこれからの重要テーマになる。

EVとハイブリッドは制御方式が違う

EVは「ソフトウエア・デファンド・ビークル=SDV(ソフトウエアで定義される車)」と言われ、パソコンのようにあらゆる機能を車載OS(基本ソフト)が統括する仕組みに変わっている。たとえば、画像認識、運転補助システム、回生ブレーキ、電池制御、充電システムなど最新機能が一つのOS上で成り立つようになった。

 これまでのハイブリッド車やガソリン車もソフトウエアの良し悪しがクルマの性能に影響したが、エンジンやブレーキなど機能ごとに「ECU」と呼ばれるコンピューターが制御する分散型だった。その点がEVとハイブリッド車との大きな違いだ。

 さらにEVの時代は、無線技術で車載OSをアップデイトすることで、ハードは古くなっても中身は常に更新されるようになる。こうしたことを踏まえ、一部の自動車メーカーは、ハードとソフトの開発を分離することも検討している。

「非トヨタグループ」の誕生

 クルマのソフト化が推進されると、開発投資回収のためにはパソコンやスマートフォン産業のように規模の利益が重要になる。このため、自動車メーカーはさらなる台数拡大を目論んでいる。トヨタ自動車は、スズキ、マツダ、スバルに出資しており、軽自動車の商用EVや車載OSなどプロジェクトごとに連携し、規模のメリットを得ようとしている。

 資本関係で見ると、日本の乗用車メーカーは、広義のトヨタグループと、日産・三菱連合、ホンダの3グループに分かれている。日産とホンダが組み、さらに日産が三菱自動車株をホンダに譲渡すれば、「新三社連合」が誕生することになり、これは「非トヨタグループ」の誕生を意味する。

 資金力や開発力などを鑑みればトヨタグループは、自動車業界の競争がこれからさらに激しくなっても生き残ることはできるだろう。だが、日産やホンダ果たして生き残ることができるのかについては、両社の経営者自身が危機感を持っている。

21年にホンダ社長に就任した三部敏宏氏は就任会見で「アライアンスに躊躇しない」と語った。それ以前は単独での生き残りを強調することが多かったホンダは明らかに方針を変えた。

自動車部品再編も誘発

 日産の立場はホンダ以上に厳しい。18年の「ゴーン事件」後、本業では過剰設備の解消などリストラに追われ、さらには社外取締役を巻き込んだ内紛が起こっていたため、次世代を見据えた攻めの経営ができていなかった。ホンダとの協業により、その遅れを少しでも取り返したいとの思惑もあるのだろう。

 日産とホンダの連携は、部品産業を含めた自動車産業全体の再編も誘発しそうだ。たとえば、電子部品やEVの心臓部であるトラクションモーターなどを手掛ける日立アステモは現在、ホンダと日立製作所が合弁で経営している。日産とホンダの協業が進めば、日産も日立アステモに出資する可能性が高まる。いずれ日立製作所はアステモの経営から引き、日産とホンダの2社が経営を主導すると見られる。

 また、日産は傘下に子会社で変速機や同じくトラクションモーターを手掛けるジヤトコを抱えている。今後、日立アステモとジヤトコとの連携も視野に入ってくるだろう。自動車メーカー同様に部品産業でも、これからEVや自動運転などに必要となる莫大な開発投資を回収するためには規模の利益が重要になるという視点は欠かせない。そうした意味でも、日産とホンダが組むメリットがある。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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