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教員の「定額働かせ放題」は目に余る、と労働基準監督署も判断したらしい

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:2F_komado/イメージマート)

 三重大学(三重県津市)が附属の小中学校、特別支援学校、幼稚園の管理職を除く教員約90人に残業代を支払っていなかったとして、津労働基準監督署から是正勧告を受けていた。

|90人分の未払い残業代が数億円なら、全国の教員ではいくら?

 三重大学が国立大学法人に移行した2004年4月以降、残業代の未払いが続いていた。国立大学法人は労働基準法(労基法)によって残業代を支払う義務があるのだが、それを履行していなかったのだ。

 ただし、三重大学が意図的に残業代を支払っていなかったわけではない。その理由を、「職員の多くが県の教育委員会から派遣されていた」ためだと同大学は説明している。公立学校の教員と同じだから「残業代を支払う必要はない」、と考えていたのだ。

 公立学校の教員には残業代が支払われない仕組みになっている。その根拠になっているのが、1971年に制定された給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)である。まったく支払われないわけではなく、給料月額の4%が「教職調整額」という名目で支払われている。これが「教員の残業代」で、それ以上の残業代は支払われないことになっている。

 4%の根拠は、給特法が成立した当時の教員の平均残業時間が月8時間だったことから算出された数字である。8時間分の残業代であり、教員の残業時間が現在でも8時間のままなら、妥当な残業代が支払われていることになる。

 しかし現在、厚生労働省が「過労死ライン」としている月80時間を超える残業をこなしている教員は、小学校でも6割近く、中学校では7割以上もいる。給特法成立時の10倍以上も残業している教員が大半にもかかわらず、残業代は8時間分しか支払われていない。給特法が、教員を「定額働かせ放題」の状況にしているのだ。

 三重大も付属校の教員を給特法が適用される公立学校の教員とみなしていたため、4%だけの残業代は支払っていた。これに労働基準監督署は、給特法の対象となる公立学校教員ではなく労基法の対象であると判定し、そうであれば4%の残業代で事足りるような残業実態ではない、つまり定額働かせ放題になっているとして、過去2年間分の勤務実態を確認して適切な残業代を支払うよう勧告したのだ。

 勧告に従う方針を三重大は明らかにしているが、それによって支払われる残業代は「合わせて数億円以上に上る可能性もあります」と『東海テレビ』は報じている。約90人分だけの残業代が2年間分で数億円以上になる、というわけだ。

 三重大の付属校の教員だけが、特別多くの残業をしているわけではない。先述したように、公立校の教員全体が同じような残業を強いられている。にもかかわらず、こちらは給特法の対象になっているために4%だけの残業代しか支払われていない。

 公立学校の教員が給特法ではなく労基法が適用される立場なら、労働基準監督署は三重大の付属校と同様の判断を下すにちがいない。同じように働いていて一方は残業代が認められ、一方は4%だけというのは、そもそもがおかしな話である。

 約90人分で数億円であれば、約72万人いる公立小中学校の教員全員の正当な残業代は、とんでもない金額になるはずだ。その支払いを、給特法があるために国や自治体は逃れられていることになる。そのために、給特法を維持しようとしているのではないだろうか。いくら残業させても残業代は増えないのだから、どんどん残業を強いることにもつながっている。国や自治体にとっては、なんとも便利な法律が給特法なのだ。

 このままでは、教員の労働環境は悪化するばかりである。それが子どもたちの教育に好影響をあたえるはずがない。津労働基準監督署の判断を、三重大付属校だけの問題としてではなく、教員全体の問題として受けとめる必要がある。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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