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1年8ヶ月ぶりとなる新生ラグビー日本代表36名発表! ジョセフHCが語る選考基準と近未来予想図

斉藤健仁スポーツライター
19年W杯に続き23年W杯も指揮を執るジョセフHCと、リーチ主将(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 5月24日(月)、5月26日(水)から大分・別府で合宿を行う、ラグビー日本代表36名が発表された。昨年、コロナ禍でまったく活動しなかった影響で、日本代表が発表されるのは2019年ワールドカップ(W杯)以来1年8ヶ月ぶりのことだった。

 海外でプレーする2人を除いた34名は合宿後の6月12日(土)に静岡でサンウルブズと対戦した後に渡英する。そして6月26日(土)にスコットランドでブリティッシュ&アイリッシュライオンズ(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド代表の選抜チーム)と、7月3日(土)には2019年ワールドカップで下したアイルランド代表とアウェイのダブリンで対戦する。

◆「高いレベルの中から代表を選ぶことができた」

 まずジョセフHCは会見の冒頭で下記のように話した。

まずは2019年ワールドカップ(W杯)以来の日本代表の始動ができることに感謝します。私たちコーチ陣もこのように長い休養の後、再び集まることにとてもワクワクしています。大分・別府での合宿も楽しみで仕方がありません。リーダー陣たちとも話しましたが、みんなブリティッシュ&アイリッシュライオンズ とのテストマッチを本当に心待ちにしています

サントリー対パナソニックとなった昨日の決勝戦を見てもわかるように、トップリーグは競争の高い、レベルの高いタイトな試合を繰り広げていました。そうした高いレベルの中から日本代表選手を選ぶことができたと思っています。

非常に短い準備期間の中で、遠征に出る代表選手を選ぶというのは最大のチャレンジではないかと思います。実質10日間という短い別府での合宿を経て、そこから3、4日後に「サンウルブズ」という選抜チームとウォームアップマッチを行って、その後イギリスに渡ります。

そういう意味で、このセレクションは非常に難しいものだと感じています。なので、トップリーグですでに仕上がっている、トップフォームの選手、状態のより良い選手、さらにはこのような事情から、フィットネスレベルの高い選手を選ぶことになります

◆指揮官が語る2つの「選考基準」

 さらにセレクションポリシー(選考基準)についてはこう説明した。

「(選手の選考基準は2019年W杯時と)まったく変わっていないと思います。1つ目の基準はテストマッチ経験が十分な選手で、今もいいプレーができている選手、少なくともそれができると見受けられる選手です。そして2つ目の基準は今季のトップリーグで優れた活躍をしている選手です。

サントリー、パナソニックから多くの選手が選ばれたように、この3~4週間、コーチ陣が見てきたトップリーグのタイトな試合を反映し、強いプレッシャーの中で戦える選手を選びました。2019年W杯組を軸に2023年の戦力となりうる選手です。

そして、2023年に花開く可能性を秘めた若い選手ももちろん入っています。彼らには、この短期間でできる限り成長しようとするメンタリティを持ち、また高い理解力が要求されています」(ジョセフHC)

◆9月からは6週間の強化合宿を敢行し選手を強化

やはり選手選考には悩んだ部分もあったようでジョセフHCは

非常に難しかったことはあります。ご存じのように、今は世界がコロナ禍にあります。54人の日本候補を選びましたが、(映像のような)資料をもとに選考を進めていかなければなりません。日本のトップリーグは多くが企業チームという構造で、トレーニングの環境もその影響下にあるので、私が選手にアプローチするのが簡単ではありません。さらに自分はNZ(ニュージーランド)にいたので、インターネットを通して関係を作っていかなればなりませんでした。

今回は時間がありませんので、すでにコミュニケーションの取れている選手が中心になり、結果的に20名ほど選手が今回は名前が挙がりませんでした。しかし、秋のテストマッチに向けて9月には6週間にわたる合宿ができるので、スコッドは今回とは違ってくるでしょうし、もっと大きなスコッドになるはずです。コーチ陣たちもそれまでにじっくりと選手たちを判断することができます。年間を通じて、2023年W杯に向けた日本代表を作り上げていくつもりです。

(コロナ禍という)普通ではない状況の中、選手と直接コミュニケーションを取ることがなかなかできませんでしたが、これから(候補の)一人ひとりとコミュニケーションを取って進めていきます」と話した。

 ただ、すでに渡英メンバーの中軸は指揮官の頭の中にはあるようで「まず今回スタートする段階の日本代表選手として、大体20人程度の選手は2019年W杯に出た選手を中心にしようと考えていました。ただ、その中でもレメキのようにケガをしていたり、トップリーグで十分なパフォーマンスができていなかったりした選手もいました。

方で、もちろん決勝、準決勝で素晴らしい活躍を見せた選手もいます。2019年W杯を脱却し、次のW杯に向けて、新しい選手を発掘したいという意図もありますが、今回は経験値の高いベテランが多くなったということになります。また、日本代表資格を有する外国出身の選手にテストマッチの経験を積ませるという考えもあります」とも話した。

◆選手たちは「いかにチームに貢献することが重要かわかっている」

 36名中、13名がノンキャップ(=代表経験のない選手)となった。ただ、2016年にジョセフHCが日本代表の指揮官に就任した以降、日本代表だけでなく、サンウルブズやNDS(ナショナルディベロップメントスコッド)などで実際に指導した選手も多い。

 その点に関して聞くと、ジョセフHCは「そうですね。選んだ選手の多くは私たちが彼らを知っていますし、彼らも自分たちのゲームを理解していますし、チームとしてオフザフィールドでもどのようにするべきか、いかにチームに貢献することが重要だということをわかっていると思います。

 NDSも含めて、この数年で呼ばれた選手たちが日本代表を作り上げてきた『ワンチーム』です。彼らがみんな、日本代表が培ってきた経験や価値を共有しています。そこに新しい選手たちを混ぜて、それを伝えていく。

 例えば、サンウルブズなどで戦ってきたラグビー経験値の高い外国出身の選手たちが今回、資格を得ました。彼らにとってはチャンスですし、チームに影響をもたらしてくれるでしょう。

 それから、若い日本人選手たち、WTB江見翔太(サントリー)のような選手はかつて代表に呼ばれたことがあり、その時は、ポテンシャルはあったがまだ十分ではなかった、ケガなどもあった選手で、その後も彼らの成長をずっと注視していました。彼らがどのように成長して、W杯に向かえるようになってきたかを見てみたいと思います」と説明してくれた。

 また外国人選手が日本代表に入ることは、自身が日本代表としてプレーした1999年時と比べて「外国人選手にとってのハードルは上がったように思います。私が(日本代表に)いた当時は、高校や大学から日本でプレーするような外国人選手はいませんでした

 今では日本の生活やマインドも理解することが求められます。なので、外国出身選手に何よりも求めているのは日本と、日本のラグビーに対する情熱です。資格を持つ選手にはスキルだけでなく、まず、日本のラグビーに対して貢献するというマインドセットの部分を重視します。

 もちろん、同じ能力の選手がいれば、外国人選手より日本人選手を選びます。外国人選手には、やはり経験値とフィジカルが今の時点では大きくチームの助けになっていきます」と感じている。

◆別府合宿は10日間の短期間でチームを仕上げていく

 別府合宿では10日間という短い期間でチームを仕上げていくことになる。

 ジョセフHCはそれを十分に承知しており「今回の(別府)合宿では、10日間という時間の中で、どういう準備を我々がするのかはもっとも重要になっています。選手たちにも、(トップリーグの決勝に出場した)リカバリーの選手を除いては、一つ一つのトレーニングに全力で集中して取り組んでいくことが求められます

 そして、選手たちには、コーチの指示を待つことなく、自分から率先してトレーニングに取り組むことが求められます。どういう準備をすべきか、次に何をすべきかは、ミーティングで理解する。トレーニングはとてもシンプルです。この姿勢はセレクションにも反映されます。テストマッチの緊迫した状況の中でそれが必要だからです

 数年前とは違い、日本代表がライオンズと試合することは非常に大きな注目を集めていますし、全く歯が立たない相手だと思われていません。私たちはチームとして、やるべきことはとてもシンプルですが、海外の強豪と戦うには高い強度と強いフィジカル、そしてスピードのあるプレーをする必要があります

 私と(コーチのトニー・)ブラウンはNZにいましたが、選手たちは日本にいて、この14〜15ヶ月、コロナによる制限を受けていたかと思います。慣れてきているとは思いますし、終息を迎えるまで、その制限の中で乗り越えていくだけ」と意気込みを語った。

◆6月12日(土)のサンウルブズ戦の意義

 日本代表に選出されなかった代表候補選手も参加するであろう6月12日(土)のサンウルブズ戦に関してジョセフHCは

もちろん、非常に大切だと考えています。2つの観点があり、1つは強化試合という側面ですが、もう1つはライオンズ戦のメンバー選考の意味合いがあります。ですので、この試合を活用して多くの選手を試したいと思っています。後半はポジションを変えてというのもあると思います。強度の高い試合を期待していて、選手同士の競争力を高められればいいと思います

 WTB/FB松島(幸太朗)はフランスに、NO8姫野(和樹)はダニーデン(NZ)にいます。今選ばれている選手にケガもあるかもしれない。サンウルブズに入った選手にも(日本代表の)チャンスはあります」と話した。

◆キャプテンは継続性を重視しFLリーチが就任

 キャプテンは2019年W杯に引き続き、FLリーチ マイケル(東芝)が務める。

 ジョセフHCは他の選手をキャプテンにすることも考えたようだが「リーダーシップの継続性を今、優先したいと思っています。ありがたいことに、2016年に私が(日本代表の指揮官に)就任して以来、そこで発展してきた若い選手たちのリーダーシップも成長しています。田村(優)がキヤノン、坂手(淳史)がパナソニック、茂野(海人)がトヨタのキャプテンと、日本代表を経験した彼らがトップリーグのリーダーになるのもごく自然の成り行きです。

 彼らの経験が、自分のチームを自信と責任を持って率いていけますし、風通しの良いチームの環境づくりができ、またコーチにとっても本当に心強いサポートになることでしょう。リーチはもう長いこと日本代表のキャプテンを務めていますし、前のW杯ではラピースなど優れたリーダーシップを持つ選手がいました。層を厚くしてチーム内の競争力を上げていくことと、リーダーシップについては別の領域だと考えています」と話した。

 コーチ陣とリーチキャプテンを含めたリーダーグループとはオンラインミーティングを通して、つながりを深めているという。

今回はあまり時間がないので、TLのファイナルに出場していない選手は火曜日に別府に集合し早速フィットネストレーニングに入りますが、決勝に出た選手は数日休みを与えてリカバリーをしてもらいます。私がリーダー陣、特にリーチ マイケルキャプテンと話したのは、チーム全体がしっかりと絆を深めておくことが必要だということです。2019年W杯の成功は、チームがしっかりと団結できていたからこそ達成できました。

 限られた時間の中なので、参加が遅れる選手はオンラインで、別府の選手は対面でとなりますが、リーダー陣がしっかりとメッセージを今から伝え、コミュニケーションを取り、日曜日に(代表選手)全員が集まった段階ではチームの意思疎通ができている状態でないといけません。チームとして、互いの関係がとても重要です」(ジョセフHC)

 新生日本代表が掲げるテーマなどはあるのかという質問に対して、ジョセフHCは「これまでをみてもおわかりのように、時間をかけて、大きなチーム、チームカルチャーを築き上げていかなければなりません。素晴らしいチームというのは長い時間をともにしてチームを作り上げるものです。

 たくさん一緒にラグビーをしてゲームプランを理解して、それぞれの役割を理解し、自分の仕事をすることが大切です。我々が9月に戻ってくると、さらにチームの深みが出ていきます」と話した。

 今回はあくまでも時間の制限がある中で、ブリティッシュ&アイリッシュライオンズとアイルランド代表という世界的強豪と対戦するにあたり経験値を重視したスコッドになったのは当然と言えよう。ラグビー日本代表は6月~7月の遠征が終わった後、秋からは大きなスコッドで2023年W杯に向けて選手たちを鍛えて、層を厚くしていくとともにチームを作り上げていくことになる。

◆2021年ラグビー日本代表候36名

☆2019年W杯スコッド ★0キャップ

FW21名

PR

稲垣啓太(パナソニック、34キャップ)☆

ヴァル アサエリ愛(パナソニック、14キャップ)☆

垣永真之介(サントリー、9キャップ)※サンウルブズ16&2018年NDS

具智元(HONDA 、13キャップ)☆

クレイグ・ミラー(パナソニック、0キャップ)★ ※サンウルブズ18-19

森川由起乙(サントリー、0キャップ)★

HO

坂手淳史 (パナソニック、21キャップ) ☆

中村駿太(サントリー、0キャップ)★ 

堀越康介 (サントリー、2キャップ) ※2019年W杯直前合宿まで参加

LO

マーク・アボット (宗像サニックス、0キャップ)★ ※サンウルブズ19

ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ、16キャップ)☆

ヘル ウヴェ(ヤマハ発動機、16キャップ)☆

ジェームス・ムーア(宗像サニックス、8キャップ)☆

FL

小澤直輝(サントリー、4キャップ)※2017年日本代表

ベン・ガンター(パナソニック、0キャップ)★ ※サンウルブズ19

ジャック・コーネルセン(パナソニック、0キャップ)★

ピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ、8キャップ)☆

リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス、68キャップ)☆ ◎キャプテン

No.8

テビタ・タタフ(サントリー、3キャップ)★

アマナキ・レレイ・マフィ(キヤノン、27キャップ)☆

姫野和樹(トヨタ自動車/ハイランダーズ、17キャップ)☆

BK15名

SH

荒井康植 (キヤノン、0キャップ)★ ※サンウルブズ18練習生&2018年NDS

齋藤直人(サントリー、0キャップ)★ ※サンウルブズ20

茂野海人(トヨタ自動車、10キャップ)☆

SO

田村優 (キヤノン、63キャップ)☆

松田力也(パナソニック、24キャップ)☆

CTB

シェーン・ゲイツ(NTTコミュニケーションズ、0キャップ)★ ※サンウルブズ19

中村亮土(サントリーサンゴリアス、24キャップ)☆

ラファエレ ティモシー(神戸製鋼、23キャップ)☆

WTB

江見翔太(サントリー、0キャップ)★ ※サンウルブズ17&2017年日本代表

シオサイア・フィフィタ(近鉄、0キャップ)★ ※サンウルブズ20

レメキ ロマノ ラヴァ(宗像サニックス、15キャップ)☆

セミシ・マシレワ(近鉄、0キャップ)★ ※サンウルブズ18-19

髙橋汰地(トヨタ自動車、0キャップ) ※ 5/27追加招集

WTB/FB

松島幸太朗(クレルモン、39キャップ)☆

ゲラード・ファンデンヒーファー(クボタ、0キャップ)★ ※サンウルブズ18-19

FB

山中亮平(神戸製鋼、18キャップ)☆

※※2019年W杯メンバーで、55名の日本代表候補に選ばれていたが今回の新たな日本代表から落選したのはPR中島イシレリとWTBアタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼)の2人のみとなった

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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