Yahoo!ニュース

ジョーンズHCも認める才能。「荒ぶる」の鍵を握る早稲田大ラグビー部1年SO服部亮太(佐賀工)

斉藤健仁スポーツライター
開幕の立教大戦で初めてアカクロジャージーの袖を通した早稲田大SO服部(1年)

 9月上旬に関東大学ラグビーが開幕して1ヶ月あまり。すでに大きなインパクトを残し、将来性を感じさせたルーキーがいる。それは関東対抗戦の早稲田大1年のSO服部亮太(佐賀工業)だ。

 

 「若い世代の選手を育てていかないといけない」と何度も繰り返し言ってきた日本代表を率いるエディー・ジョーンズHCも、早稲田大対日体大の後、「ワセダの10番(服部)、イイネ! スバラシイ!」と手放しで褒めた選手だ。

◇早稲田大に入学も高校日本代表のケガで出遅れた

 8歳から福岡・帆柱ラグビースクールで競技を始めて、昨季は佐賀工業を「花園」こと全国高校ラグビー大会でベスト4に導いた。ただ服部は大学ラグビーシーンでいきなりつまずいてしまう。3月末、副将として臨んだ高校日本代表遠征で左肩を負傷し、大学入学早々の3~4ヶ月の間、リハビリをせざるを得なかった。

春は悔しい思いして、なかなか思うようにいなかったですし、まだ他の1年生から遅れている部分や、大学生のテンポやフィジカルについていけない部分があるので、練習やウェイトトレーニングを積み重ねて、秋、冬とプレーで出せるように頑張りたい」(服部)

 服部がリハビリをしている一方で、高校日本代表でキャプテンを務めた同級生のNO8城央祐(桐蔭学園)は春からAチームの試合で先発出場を続けていた。「高校ジャパンでいっしょだった同じ1年が先にアカクロを着て試合に出ていたので良い刺激を受けていますし、自分も頑張ろうと思っていました。(城)央祐がいるから今の自分がいます」(服部)

開幕戦では初ゴールも決めた(撮影:斉藤健仁)
開幕戦では初ゴールも決めた(撮影:斉藤健仁)

◇8月に実戦復帰、そして開幕戦から控えに入った

 身長178cmの服部はリハビリとともにフィットネスやフィジカルトレーニングを重ねて、体重は2~3kgほど増えて80kgほどになったという。そして8月中旬、ようやくCチームの練習試合で実践復帰を果たし、すぐにBチームに昇格した。

 その後は高校、大学、そしてSOの先輩でもある元日本代表の大田尾竜彦監督に練習や試合でアピールして、9月14日、開幕の立教大戦から控えに入って、見事にアカクロデビューを飾ったというわけだ。

 

 後半33分からの10分ほどの出場だったが、ロングキックで会場を大いに沸かせて、「裏のスペースが見えていたのでSHに早めにボールを要求した」と「50-22」キックも成功させ、才能の片鱗を見せた。

 昨夏の高校セブンズ大会で優勝しMVPにも輝いた服部はキックだけでなく、ランのスピードにも長けた選手で、SOだけでなくFBとしてもプレーしてきた。ただ大田尾監督は開幕前、「あれだけキックが飛ぶ選手はなかなかいない。15番ではなく10番としての起用を考えている」と10番での起用を明言していた。

 またSOの大先輩である大田尾監督に、練習前に映像を見せられ厳しい指導を受けているという。「高校と大学とのSHと(SO)の距離感が全然違う。もっと広く立て、と大田尾監督に言われて、毎回意識していますが、なかなか上手くいかないですね」と苦笑した。

 それでも初めてアカクロジャージーを着た服部は「初めてのAチームの試合だったので、とても緊張していたが、緊張したらゲームメイクできないので落ち着いてプレーしようとした。キックゲームに勝てたことは自信になった」とホッとした表情を見せた。

SOとしてボールを動かす服部(撮影:斉藤健仁)
SOとしてボールを動かす服部(撮影:斉藤健仁)

◇続く日体大戦では10番を背負ってPOMに輝いた

 続く、9月22日の体大戦では、服部は10番を背負って先発した。12番に大学に入ってから10番を主戦場としていた3年生の野中健吾、15番には春から夏にかけて日本代表で大活躍したFB矢崎由高(2年)が入った。

 スペース感覚とパススキルが長けた選手がBKに並んだ早稲田大はボールを大きく左右に動かし13トライを重ねて83-0で大勝。服部は見事にPOM(プレイヤー・オブ・ザ・マッチ)にも選ばれた。

野中さんがいてくれた方がありがたい。プレーをいろいろと教えてくれて、(自分が)うまくいっていなかったら声掛けてくれるし、(野中さんがいてくれた方が)ボールが上手く回ると思う」(服部)

続く日体大戦では秩父宮デビューを飾り、POMにも選出された(撮影:斉藤健仁)
続く日体大戦では秩父宮デビューを飾り、POMにも選出された(撮影:斉藤健仁)

◇同級生の活躍に焦りは見せず

 9月に鮮烈なアカクロデビューを飾った服部だが、当然、左肩のケガをしていたため、4月、6月に2度開催された、ジョーンズHCが大学生選手を強化のために肝いりで始めた「JTS(ジャパンタレントスコッド)」プログラムには参加することはできなかった。

 高校日本代表でともに戦った1年の帝京大FL福田大和(中部大春日丘)、同じく1年の慶應義塾大のFB小野澤謙真(静岡聖光学院)はすでにJTSに招集されており、明治大1年のWTB/CTB白井瑛人(桐蔭学園)は飛び級でU20日本代表に呼ばれてプレーした。

 服部は「高校日本代表の違う高校の友人には負けないようにしたいし、自分もサイズアップしてJTSに呼ばれるようにならないといけないと思うが、まずは早稲田大のラグビー集中していきたい」と焦りを見せずに、冷静に先を見据えた。

開幕戦後、笑顔を見せるSO服部(撮影:斉藤健仁)
開幕戦後、笑顔を見せるSO服部(撮影:斉藤健仁)

◇早稲田大のラグビーにふさわしい10番になる!

 服部の活躍もあり開幕から連勝した早稲田大は10月12日の青山学院大戦を経て、11月には帝京大戦、筑波大戦、慶應義塾大との「早慶戦」、そして12月には100回目を迎える明治大との「早明戦」、そして大学選手権が控えている。

 

 ルーキイヤーの目標を聞かれて服部は「早稲田のラグビーに必要な10番になること」、そして「できれば10番として定着し、自分が思うようなラグビーをすること」を掲げた。

 今季の活躍次第では来年のU20日本代表、そして近い将来、エディー・ジャパンに呼ばれる可能性も大いにあるだろう。ただ服部は目の前の試合に集中している

 

 服部は「自分のストロングポイントはキックなので、キックを使ってゲームメイクをしていきたいが、もっと視野を広くもって、味方を使えるようになっていきたい。そしてスピードとフィジカルをトレーニングで埋めて、もっとテンポを出して早稲田大の展開ラグビーにふさわしい10番として出られるようにしたい」と意気込んでいる。

 昨シーズンは対抗戦3位、そして大学選手権は準々決勝で敗退した早稲田大。もちろんキャプテンHO佐藤健次(4年)が引っ張るチームの目標は、2019年度以来の大学選手権優勝である。日本一になったときだけに歌うことが許されてる第二部歌「荒ぶる」の鍵を握っているのは、もしかしたら1年生SOかもしれない。

2年時はベスト8,3年時はベスト4に輝いた佐賀工業時代の服部(撮影:斉藤健仁)
2年時はベスト8,3年時はベスト4に輝いた佐賀工業時代の服部(撮影:斉藤健仁)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

斉藤健仁の最近の記事