地方局では異例の10話連続のドラマ制作

名古屋の中京テレビがいよいよ初の本格連ドラに挑戦! 『スーパーのカゴの中身が気になる私』が2023年7月22日スタートし、10話連続で放映されます。

制作費も時間もかかり人材も要するドラマは、地方局にとっては非常にハードルが高いコンテンツ。ましてや10回が目安の連ドラともなると難易度はさらに高くなります。全国的に見ても近年、連ドラをコンスタントに制作・発表している地方局は稀。同じ名古屋のメ～テレ『名古屋行き最終列車』のような10年以上続いている連ドラ企画（2012年～、最大10話連続）はきわめて稀有な存在です。

中京テレビといえば『オモウマい店』（日本テレビ系列）、『PS純金』（ピーエスゴールド／中京テレビ）でグルメンタリー（グルメ+ドキュメンタリー）という新たなジャンルを確立。この大ヒット番組に代表されるように、バラエティー色の強いグルメ情報番組が同局の十八番です。（関連記事：「名古屋ローカルから全国ゴールデンへ！中京テレビ『PS純金』『オモウマい店』はなぜ面白い？」　2021年8月31日）

「確かにうちの制作スタッフの大半はPSシリーズを通っているのですが、“ドラマをつくってみたい”という思いを抱いている者も少なくない。会社としても、名古屋にいても、中京テレビでも、ドラマがつくれるんだ!と夢見る場所があれば素敵だなと思いました」と中京テレビコンテンツ制作局で同番組のチーフプロデューサーである池田京平さん。

配信で地方発でも全国、世界の人に見てもらうチャンスが

さらに配信の重要性が高まっている昨今のテレビ業界事情も、ドラマ制作に乗り出す大きな要因だといいます。「地上波以外で全国および世界の人に見てもらう“横のつながり”、未来の人にも見てもらう“縦のつながり”と考えて、いつまでも色あせず、世界中の人の心に残るコンテンツづくり、そのひとつが連ドラ制作です」（池田さん）

同局では今春、試金石となる4話連続ドラマ『君が、おにぎり好きだから。』を制作・放映。その手ごたえも今作へとつながりました。

「『孤独のグルメ』のチームとの共同制作で、東京の一線でドラマづくりをしているスタッフの本気や熱意はとても勉強になりました。一方で、僕ら中京テレビのテレビマンも負けない熱意をもって番組づくりしてきたことを再認識できた。同じ熱量で、よりよい作品をつくる覚悟ができました。特に食の現場の人を取材する気持ちは、僕らもドラマのスタッフも全く同じで、グルメドラマには視聴者のニーズを含めて可能性を感じました」（池田さん）。（関連記事：「『オモウマい店』の中京テレビが連ドラに挑戦! 名古屋発グルメドラマは「食べたい!」魅力がてんこ盛り」　2023年3月2日）

主演はオードリー・春日役や仮面ライダー出身でも注目度急上昇

主演を務めるのは戸塚純貴さん。お笑い芸人の栄光と挫折を描いて話題になった『だが、情熱はある』でオードリー・春日俊彰役を熱演。イケメン俳優の登竜門、仮面ライダーシリーズ出身でもあり、今が旬のネクストブレイク俳優です。

「連ドラ主演は光栄です。役者をやっていく上でのターニングポイントになる作品にしたい!」と意気込む戸塚さん。主人公は元子役の売れない俳優で、スーパーのアルバイト。お客の買い物カゴの中をのぞいては人間性や生活ぶりを妄想するというちょっとアブないキャラクターには、戸塚さんのアイデアもかなり反映されているそう。

「脚本をつくる段階から参加させてもらって意見を出し合うことができました。アメコミヒーローにあこがれているという設定は僕の提案です。他にも、役者志望の青年がなぜスーパーでバイトをしているか、その整合性をどうとるかなど、細かい設定についても脚本家やスタッフの方たちと一緒につくり上げていきました」（戸塚さん）

さらに戸塚さん自身の性格も、主人公と通じるところが少なくないとか。

「根拠のない自信を持っているところ(笑)。僕もできないことでもつい“できます!”といっちゃうところがある。でも、本当にできるようになればウソじゃなくなるじゃないですか。以前、キャスティングの段階で“魚さばける？”と聞かれて“できます”といっちゃって、そこから猛練習して三枚おろしができるようになりました(笑)」

撮影現場では、中京テレビの作品への思い入れを感じることも多かったといいます。

「チーフプロデューサーの池田さんが毎日現場に来てくれて、それでいて細かく口を出すことはなく、自由にやらせてくれた。ハードな撮影でしたけど、局の方たちの熱意を感じられたので、一体感をもってやり抜くことができました」（戸塚さん）

コメディー、アニメ、ミステリー、ヒューマンドラマの要素がひとつに

物語は“スーパーのカゴの中身をのぞきたい!”という、ちょっと変態的ながらも身近なあるあるネタを入り口にし、それを主人公が妄想し、その妄想がアニメになり、最後に謎が解き明かされるという展開。コメディーでありながらミステリーやヒューマンドラマのエッセンスもあり。さらに、貴島明日香、竹中直人、岡田義徳ら毎回豪華なお客さん役のゲスト俳優が出演し、コメディーが得意なレギュラーメンバーとのお芝居合戦にもワクワクさせられます。

こんな新しいドラマの形に、さらに中京テレビらしさも盛り込まれます。

「“食のテーマパーク＝スーパーマーケット”を舞台にした、大きな意味でのグルメドラマ。これは食を生業にしている人を丁寧に描くという点で、『オモウマい店』や『PS純金』『キャッチ!』（夕方の報道・情報番組）にも通じ、その視聴者層の方にも楽しんでもらえると考えています」（池田さん）

名古屋から世界へ! 地方発ヒットドラマのモデルケースになるか？

そして、今後も中京テレビらしい強みを活かしたドラマをつくっていきたいとのこと。

「今回のようなグルメドラマを中心に、全国の人にも楽しんでもらえる作品をつくっていけたら。今年度は来年１月に次のドラマを構想中です。ご期待ください!」（池田さん）

“せっかくいい作品をつくっても限られた地域でしか見てもらえない”。地方局がドラマ制作に注力しにくかった理由には、予算や人材の問題だけでなく、視聴エリアという逃れられない制約がありました。しかし、全国どころか世界中どこででも見ることができる配信は、その前提を崩してくれました。名古屋から、地方からでも世界へ向けて面白いドラマをつくって発信できる。『スーパーのカゴの中身が気になる私』が、内容的にも楽しまれ方でも、これまでのドラマの常識を打ち破る突破口になることを期待しましょう。

（戸塚純貴さんの写真は筆者撮影、番組関連画像は中京テレビ提供）