【アジアカップ予選】「日本に学ぶ必要がある」と姚明会長が語る新生中国。平均24歳の若手で挑む再々出発
W杯29位、アジア競技大会3位
2019年から這い上がれない中国
「世界のバスケットボールは急速に発展している。中国のバスケットボールは世界から脱線してしまい、これからは痛みを伴う改革が必要だ。ワールドカップで日本が(アジア1位になり)五輪切符を獲得した。日本のバスケットボールにそれができるのなら、中国のバスケットボールは彼らの経験から学ぶ必要がある」
昨年10月、中国の杭州で行われたアジア競技大会ですべての試合が終了し、会見の場に現れた姚明(ヤオ・ミン)バスケットボール協会会長が発した言葉だ。
29位に脱落して五輪切符を逃したワールドカップと、自国開催で3位に終わったアジア競技大会を振り返ったそのメッセージは、日本にとっては興味深く、中国にとっては痛切な叫び声のように聞こえた。
アジアの中で日本が迷走していた時代は終わった。
2023年のワールドカップ後、気がつけば日本のアジア内FIBAランキングはオーストラリア、ニュージーランドに次ぐ3番手の26位。オセアニア勢を除けばアジア1位に躍り出た。いつの間にかイラン(27位)と中国(28位)を超え、コロナ禍のために試合を辞退し、W杯予選で失格処分を受けた韓国は51位まで転落。「日本の経験から学ぶ」という姚明会長の言葉は「今まで自分たちより下にいた日本が改革できたのだから我々だって」の思いがあるのだろう。
中国の将来を担う18歳を含め
経験を積むメンバーが東京へ
中国の転落は2019年にホスト国として開催したワールドカップから始まっている。自国開催で意気揚々と戦っていた中国だが、グループラウンドのポーランド戦の終盤にミスを連発し、勝利をみすみす逃してグループラウンド突破に失敗。2勝をあげたものの、イランとの得失点差に敗れてアジア2位の成績となり、五輪切符を逃している。ここから一気に崩れてしまい、再建に時間を要している。
2021年6月に開催されたアジアカップ予選からは、中国人指揮官の杜鋒(ドゥ・フォン)HCのもと再出発。持ち前の高さだけでなく、速い展開のガードを擁し、3ポイントシューターを揃えて新しい戦い方を見出そうとしていた。しかし、2023年ワールドカップの半年前に杜鋒HCが解任され、セルビア代表を率いて2016年のリオ五輪と2014年のワールドカップで銀メダルに導いたアレクサンダー“サーシャ”ジョルジェヴィッチを招聘。
しかし半年に満たない期間ではジョルジェヴィッチの哲学を浸透させることができず、ワールドカップではまったくといっていいほど振るわなかった。ポイントガードには195センチで本来SGの趙睿(Zhao Rui/チャオ・ルイ)を起用し、初となる帰化選手のカイル・アンダーソンを加えた布陣でセルビア流にオールラウンダーを揃えようとしたが、一つのチームになるには時間が足りなかった。
中国記者たちの見解によれば、「ファンによるバッシングが凄まじく選手たちがプレッシャーを受けている」という説も聞くが、私のような外国人記者が外から見ていると低迷の理由は一つではなく、代表を束ねる組織が一枚岩になっていない、主力選手が怪我ばかりで揃わない、指揮官が変わって目指したいバスケスタイルが明確ではない、CBA(中国ブロバスケットボールリーグ)との協力体制ができていない、など様々な背景が見えてくる。これはイランや韓国も同様だ。
選手の顔ぶれや素材でいえば、中国は逸材だらけだ。アメリカでプレーをした経験がある若者も増えており、2メートルを超える選手層はアジア随一といっていい。2019年、自国開催のワールドカップを起点とすれば、現在の立ち位置は再々出発のスタートラインに立ったところ。昨年はワールドカップとアジア競技大会で結果を残せなかったジョルジェヴィッチ体制だが、このたび続投が決定。今こそ、改革に向けて姚明会長がリーダーシップを発揮するときなのだろう。
こうした背景のもとに、アジアカップ予選Window1で日本に送り込まれるのは、平均24歳の若手中心メンバーだ。ジョルジェヴィッチHCはアジアカップ予選のメンバー構成と目的をこのように発言して。
「中国はパリオリンピックに欠場することが決定しているため、今回はチームのラインナップを微調整して若いメンバーを多く選んだ。このグループで1位になってアジアカップ出場権を獲得することが私たちの目標であると同時に、若い選手たちにできるだけ早くチャンスを与え、国際競争の機会を経験させることも重要な目的としている」
チームの柱は2023年W杯で活躍した
210センチのセンター胡金秋
平均24歳の若手中心メンバーとはいえ、代表キャリアのある選手も3名含まれている。
4 趙継偉(Zhao Jiwei/チャオ・ジーウェイ/185センチ/28歳)
ポイントガードでキャプテン。2大会連続でワールドカップに出場。代表歴も2014年からと長い。安定したゲーム運びが持ち味だが、ここ数年は力が発揮できないシーンが多く、長いトンネルを乗り越える時期に来ている。
23 阿不都沙拉木·阿不都熱西提(アブドゥシャラーム・アブドゥルェシーティ/Abdusalam Abdurixit/203センチ/27歳)
爆発力はあるが波のあるシューター。2023年のワールドカップはメンバー入りできなかったが、2019年のワールドカップには出場。2018年アジア競技大会では優勝に貢献。
21 胡金秋(フー・ジンチゥ/Hu Jinqiu/210センチ/26歳)
走力あるセンターで現チームの大黒柱。10代の頃から注目を集めてきたが、数々の負傷に泣かされ欠場した国際大会が多い。代表への復活は3x3のメンバーとして選出された東京五輪。2023年ワールドカップではアンゴラ戦で20得点の活躍を見せて中国に初勝利を呼び込み、低迷の中で気を吐く希望の光となった。
この他、注目したいのは得点力があるコンボガードの 3 胡明軒(HU MingXuan/フー・ミンシュェン/193センチ/25歳)。近年代表に定着してきた期待の選手だが、司令塔としてはまだ波があるため、さらなる成長が求められている。
「中国のヨキッチ」が代表デビュー。20歳コンビにも期待
Window1では中国の将来を担う18歳と20歳の選手が入った。その中でもっとも期待されているのが、Window1で代表デビューを飾った 20 楊瀚森(Yang Hansen/ヤン・ハンセン/216センチ/18歳/C)だろう。
川島悠翔と同じ2005年生まれの18歳。2022年のU18アジア選手権では、川島やイランの新星モハマド・アミニ(201センチ)とともにオールスター5に選ばれているが、中国は準決勝で韓国に敗戦を喫したため、評価はそこまで高くなかった。
彼の評価を上げたのは翌2023年に出場したU19ワールドカップ。一皮むけた姿を見せ、平均12.6得点、10.4リバウンド、4.7アシスト、5ブロックショットという記録を叩き出し、万能型のビッグマとして注目を集めた。サイズは216センチだが、ヤオ・ミンでもジョウ・チーでもイー・ジェンリェンでもなく、万能型という点では「中国のニコラ・ヨキッチ」になれる可能性を秘めている。現在はCBAの青島でルーキーシーズンを送っており、FIBAブレイク前の2月時点でのCBA個人スタッツは、平均15.6得点、11.3リバウンド、3.8アシスト、2.3ブロックだ。
若手でもう一人注目したいのが19 崔永熙(Cui 'Jacky'Yongxi/ツイ(ツェイ)・ヨンシー/201センチ/SG/20歳)。NBAグローバルアカデミー出身。22-23シーズンCBAの新人王で今季はプロ2年目。運動能力を生かしたプレーが持ち味で、最年少20歳で2023年ワールドカップのメンバーに選出された期待の新星だ。また、日本戦ではメンバー外になったが、モンゴル戦には選ばれた 16 余嘉豪/Yu 'Harold'Jiahao/ユー・ジャハオ/221センチ/C/20歳)は221センチのサイズがあるので覚えておきたい選手だ。
ジョルジェヴィッチHCが語るように「できるだけ早くチャンスを与え、国際競争の機会を経験させる」という目的のもとで日本に乗り込んでくる新生・中国代表。こうした若手選手の強化が継続されるのであれば、今後の中国はやはりアジアでは脅威の存在となるだろう。
Window1を欠場する主力メンバー
最後に、Window1に欠場する主なメンバーをあげておきたい。怪我やコンディション不良などによって代表候補を辞退、および欠場を表明している主軸メンバーや期待の若手たちだ。アジアカップ予選のホーム戦ならびにアジアカップ2025では、下記の主力メンバーが登場してくる可能性がある。
■郭艾倫(Guo Ailun/グオ・アイルン/192/PG/30歳)
■王哲林(Wang Zhelin/ワン・ズェリン/214/C/30歳)
■周琦(Zhou Qi/ジョウ・チー/216/C/28歳)
■趙睿(Zhao Rui/チャオ・ルイ/195/G/28歳)
■孫銘徽(Sun Minghui/スン・ミンフイ/188/PG/27歳)
■張鎮麟(Zhang Zhenlin/チャン・ジェンリン/208/SF/25歳)
■斉麟(Qi Lin/チー・リン/199/SG/24歳)
■曾凡博 (Zeng Fanbo/ツォン・ファンボ/207/PF/21歳)
■余嘉豪(Yu Jiahao/ユー・ジャハオ/221/C/20歳)
※余嘉豪はWindow1モンゴル戦は出場したが日本戦は来日せず
※数字は身長