Yahoo!ニュース

【男子バスケ日韓戦】五輪選考のサバイバル大詰め。韓国は仙台のヤンジェミンを含む平均24歳の若手が来日

小永吉陽子Basketball Writer
左からハユンギ、イジョンヒョン、ピョンジュニョン、ヤンジェミン

日本26位、韓国50位。近年で一気に差がついたランキング


 バスケットボール男子代表の強化試合「SoftBank CUP 2024 東京大会」。7月5日と7日に有明アリーナで対戦するのは韓国代表だ。この日韓戦がパリ五輪の最終選考を兼ねているだけに、試合内容にもこだわった熾烈な選手間のサバイバルが展開されるだろう。


 ただ、近年は大会直前にドイツやスロベニア、ニュージーランド等の強豪国と強化試合を国内で行っていただけに、なぜ五輪目前の対戦相手がアジア勢なのかは疑問に思うところだ。

 この時期、7月2日からはパリ行きをかけた最終予選のOQTが行われているため、OQTに出場する強豪国は招待できず、また、時差と移動を考えた場合、パリ五輪に出る国はコンディションの面から遠方の日本に来ることは避けるだろう。そうした事情から、今回のマッチメイクが難しかった背景がうかがえる。強豪国との対戦は、五輪直前に日本がヨーロッパ入りしてから、ドイツとセルビアとの対戦が予定されている。

 事情はさておき、今回、来日する韓国代表はどんなチームなのか。対戦国の陣容を紹介しよう。

 現在、日本はFIBAランキング26位に上昇し、オセアニアを除くアジアの1位に躍り出たが、対して韓国は急下降の50位に転落。2019年のワールドカップ終了時は日本48位、韓国32位。昨夏の日韓戦では日本36位、韓国38位だっただけに、昨夏のワールドカップを境に一気に差を広げた形だ。

 アジアの強豪だった韓国がここ数年で低迷した理由は、2023年のワールドカップ予選において新型コロナウイルスを理由に4試合連続で辞退したことにより、FIBAから失格処分を受けたことが響いている。また、今回の五輪から新しく導入されたOQTに出るための予選「Olympic Pre-Qualifying Tournaments 2023」(OPQT)への出場に関しても、渡航禁止国であるシリアで開催されたことで辞退している(アジアからは優勝したバーレーンが出場)。試合をしなければランキングは下がる一方。こうした積み重ねが響き、ランキングが急下降しているのだ。

KBLで一番成長している注目株、イジョンヒョン(写真/小永吉陽子)
KBLで一番成長している注目株、イジョンヒョン(写真/小永吉陽子)


平均24歳の期待の若手チームが来日

 今年の韓国は国際大会に出場しないため、若手の強化という位置付けで強化試合に臨む。来日メンバーはヤン ジェミンを除く全員がKBL(韓国プロバスケットボールリーグ)所属で、平均年齢は24歳。代表初選出が4人、この1年内(※)に初選出された選手が6人という代表キャリアの浅い選手たちで構成されている。代表経験は少ないが、アンダーカテゴリーからともに活動してきた世代(1999~2001年生まれ)が集結していることを強みとしている。


※2023年夏の日韓戦・2023年秋のアジア競技大会・2024年2月のアジアカップ予選

 また現在は緩やかに世代交代を始めており、これまで帰化枠として活躍してきたラ ゴナ(リカルド・ラトリフ)は帰化選手としての契約期間が満了したため、2月のアジアカップ予選をもって代表を勇退。当面は帰化選手不在で戦うことになる。それゆえに、今回来日したメンバーは、海外組の2人(大阪エヴェッサで活躍したイ ヒョンジュン:23歳と、ゴンザガ大のヨ ジュンソク:22歳)を除いた世代交代メンバーとして期待がかかっている。

 その中で注目ナンバーワンは 6 イ ジョンヒョン(高陽ソノ/187センチ/25歳)だ。今年プロ4年目を迎えるコンボガードで、昨シーズンは国内選手得点1位(平均22.8点:全体5位)になったプレーヤー。また、アシスト賞(平均6.6本)スティール賞(2.0本)3ポイント成功本数1位(2.9本:確率は37.2%)ベスト5、技量発展賞を受賞。この1年で飛躍的な成長を遂げ、今 KBLで一番 “HOT” な選手として注目が集まっている。

 センターの 0 ハ ユンギ(202センチ/25歳/KT)は昨年代表に初選出され、今後のインサイドを担う選手として期待されている。彼以外のセンターがまだ戦力になっていないため、日韓戦ではハ ユンギにかかる負担はかなり大きくなりそうだ。

 チーム最年長の 5 ピョン ジュニョン(188センチ/28歳/尚武)は、このチームで唯一、代表キャリアがある中堅選手。一昨シーズン(22-23)にEASLで初優勝に大きく貢献した安養KGC(現・安養正官庄)の司令塔で攻撃力が高い。
(現在は兵役中で国軍体育部隊の尚武=サンムに所属しているため、昨季のEASLには出場していない。今年11月に除隊しKBLに復帰する)。

 実際のところ、上記の3人は今年2月のアジアカップ予選でも次世代を睨んで主軸に抜擢されており、現在、A代表を組んだとしても選出される選手たちだ。

 その他の注目選手は、昨シーズン新人王を受賞し、3ポイント成功率1位(42.4%)に輝いた次世代シューターの 1 ユ ギサン(188センチ/23歳/LG)、長身ユーティリティープレーヤーの 11イ ウソク(196センチ/24歳/現代モービス)、昨季、千葉ジェッツが初優勝したEASLの決勝で富樫勇樹に粘り強くマッチアップし、KBLでは最優秀守備賞を受賞した 22 オ ジェヒョン(186センチ/24歳/SK)らがあげられる。また、Bリーグの戦いで粘り強さが出てきた 9 ヤン ジェミン(200センチ/25歳/仙台89ERS)は、日本で開催する日韓戦なだけに特別な思いを持って臨むことだろう。

EASLで活躍したピョンジュニョン(左)とオジェヒョン(右)(写真/EASL 2023)
EASLで活躍したピョンジュニョン(左)とオジェヒョン(右)(写真/EASL 2023)


期待の若手だが練習4日間の即席チームが来日

 今回来日する韓国代表は若手とはいえ、手薄なインサイド以外はKBLでは成長著しいメンバーが集結し、今後を占う意味でもチェックすべき選手たちが来日している……のだが、非常に残念なのが即席チームであることだ。韓国協会からは、代表招集日が6月29日で、来日が7月3日と発表されており、たった4日間のみの練習で来日している。

 またKBLファイナルが5月5日、レギュラーシーズンが3月31日に終了しており、個人的なトレーニングは積んでいても、試合からはかなり遠ざかっている。試合勘がなく、チームディフェンスも構築されていない状態ではないだろうか。日本としては、どんな相手でもやるべきことを試すだけなのだが、五輪本番前に対戦する相手としては、強化という面で温度差があるのが正直なところだ。

 ただ、選手たちはやる気に満ち溢れている。今回の韓国代表は、同世代の選手が多いことから、明るく覇気のあるチームカラーで日韓戦に臨むという。アン ジュノHCは「オリンピック前で強化している日本と対戦することで若い選手たちの技量を点検し、良い経験を積んで発展するきっかけの試合としたい」と抱負を語る。

仙台2年目。Bリーグで成長中のヤンジェミン(写真/小永吉陽子)
仙台2年目。Bリーグで成長中のヤンジェミン(写真/小永吉陽子)


昨年のアジア大会で1勝1敗

 直近の公式戦では、FIBA主催の大会ではないが、昨年秋に開催されたアジア競技大会の予選ラウンドで対戦し、83-77で日本が勝利している。日本は若手代表(B代表)という位置づけの参加に対して、韓国はA代表が参戦。大会直前に負傷などで数人の変更があったものの(オ セグン、ムン ソンゴン、ソン ギョチャンら主力が欠場)格上の立場で臨んだ韓国としては、日本に不覚を取った形だ。

 日本は3ポイントが17/41本(41%)と当たり、この大会で指揮を執ったコーリー・ゲインズHCは「選手たちがやるべきことを完璧に遂行した」と選手たちの健闘を讃えていた。一方の韓国は日本の3ポイント攻勢に対応できず、ディフェンスが散漫でチームが機能しなかった。

 ただ、最終的には7位決定戦で韓国と再戦するのだが、日本は7決で55-74で大敗して大会を終えている。日本はインサイドの平岩玄と佐藤卓磨の2人が負傷で不出場だったが、韓国は負傷者5人を温存。意地を見せて7人の選手だけで勝ち切ったのだから、やはり底力はある。この試合で台頭したのが、アジア大会で初代表となった 6 イ ジョンヒョン12 ムン ジョンヒョンであり、ここで若き2人が信頼を勝ち得た。

 当面の韓国は帰化選手不在とインサイドの育成待ちだが、サイズの面では195センチ超の選手は国内に多く存在し、李相佰盃(日韓学生バスケットボール競技大会)を見てもチームプレーが確立され、優秀なガードは多い。代表チームの活動に力を入れることで、再びアジアの上位に浮上することは可能な相手だけに、今回来日する若手の実力はチェックしておきたい。

 来日メンバーは以下の通り。参考のため近年の主なA代表メンバーも記載。


【2024年 韓国代表ロスター】

ヘッドコーチ/アン・ジュノ

0 ハ ユンギ HA Yungi

(204/C/25歳/水原KT)

1 ユ ギサン YU Kisang

(188/SG/23歳/昌原LG)※初

2 イ ウォンソク LEE Weonseok

(206/C/24歳/ソウルサムソン)※初

3 パク ムビン PARK Moobeen

(184/PG/23歳/蔚山現代モービス)

5 ピョン ジュニョン BYEON Junhyeong

(188/PG/28歳/尚武:兵役中)

6 イ ジョンヒョン LEE Junghyun

(187/G/25歳/高陽ソノ)

9 ヤン ジェミン YANG Jaemin

(200/SF/25歳/仙台89ERS)

11 イ ウソク LEE Woosuk

(196/SG/24歳/蔚山現代モービス)

12 ムン ジョンヒョンMOON Jeonghyeon

(194/SF/22歳/水原KT)

21 イ ドゥウォン LEE Doowon

(204/C /23歳/水原KT)※初

22 オ ジェヒョン OH Jaehyun

(186/G/24歳/ソウルSK)

23 パク イヌン PARK Inung

(190/SF/23歳/原州DB)※初


※年齢は2024年7月5日現在

※身長はセンチ ※初=初選出

※アン・ジュノHCの名前は「ジュンホ」、5ピョン・ジュニョン選手の名前は「ジュンヒョン」23パク イヌン選手の名前は「インウン」と表記するケースあり

今回選外の主な代表選手

【G】

ホ フン(180/28歳/水原KT)

ホ ウン(185/30歳/釜山KCC)

チェ ジュニョン(200/30歳/釜山KCC)

キム ソニョン(187/36歳/ソウルSK)

【F】

ヨ ジュンソク(203/22歳/ゴンザガ大)

イ ヒョンジュン(201/23歳/豪イラワラ)

ヤン ホンソク(195/27歳/尚武:兵役中)

ソン ギョチャン(198/28歳/釜山KCC)

アン ヨンジュン(195/29歳/ソウルSK)

ムン ソンゴン(196/31歳/水原KT)

ハン ヒウォン(195/31歳/水原KT)

チョン ソンヒョン(189/32歳/昌原LG)

【PF・C】

カン サンジェ(202/29歳/原州DB)

イ スンヒョン(197/32歳/釜山KCC)

キム ジョンギュ(207/33歳/原州DB)

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

小永吉陽子の最近の記事