ロシア・ウクライナ情勢が緊迫化するなかトルコが再びシリア反体制派の傭兵としての派遣を準備か?
ロシア・ウクライナ情勢の緊張
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外務大臣は4月1日、ウクライナ東部ドンバスで軍事衝突を起こそうとする試みが、ウクライナの破壊に繋がると牽制する一方、米国、そして北大西洋条約機構(NATO)は同地でのロシア軍の増強に懸念を示した。
ロイド・オースティン米国防長官は同日、ウクライナのアンドリー・タラン国防大臣と会談、ウクライナ東部でロシアが攻撃的かつ挑発的行為を拡大させていると非難した。また、3日にはジョー・バイデン米大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談を行い、同国への「揺るぎない支援」を約束した。
ウクライナ軍のルスラン・ホムチャク総司令官は3月30日に議会に対して行った報告のなかで、ロシアが国境沿いやクリミアに28個大隊をすでに駐留させ、さらに25個大隊を増強配備する可能性があると説明した。ロシアのタス通信も4月2日、ウクライナ国境地帯を管轄するロシア南部軍管区が、約15,000人の兵力を擁する50個以上の大隊が無人航空機(ドローン)の攻撃などを想定した演習を行うと発表し、部隊集結を認めた。
トルコによる傭兵派遣計画
こうしたなか、レバノンの日刊紙『ナハール』は4月6日、トルコがシリアの反体制派を傭兵としてウクライナに派遣しようとしているとする記事を掲載した。
同紙によると、トルコの諜報機関は、シリア国民軍の複数の司令部に対して、ロシア・ウクライナ情勢の今後の進展に備えて、戦闘員の教練とウクライナへの派遣をはじめとする準備を行うよう指示したというのである。
シリア国民軍は、欧米のメディアでTFSA、すなわち「トルコの支援を受ける自由シリア軍」(Turkish-backed Free Syrian Army)などと呼ばれる武装連合体だ。
トルコは、2015年以降、4度にわたってシリア領内への侵攻作戦を行い、アレッポ県、ラッカ県、ハサカ県の国境地帯を占領下に置いている。シリア国民軍は、これらの侵攻作戦に参加し、その後占領地で軍事・治安維持活動にあたっている。トルコは、彼らに武器、装備を供与し、教練を行っているだけでなく、給与を支払っている。
トルコは2月に入って、理由を告げずにシリア国民軍戦闘員への給与支払いを一方的に停止していた。その背景には、占領地での彼らによる略奪、密輸といった犯罪行為が後を絶たないという事情があった。だが、こうした制裁措置を猶予し、トルコは最近になって、戦闘員に月額550ドルの給与支払いを再開していたという。給与支払い再開は、ロシア・ウクライナ情勢の行方を睨んだ動きだと解釈できる。
シリア国民軍に近い消息筋の情報によると、トルコからの指示は、トルコへの忠誠心が強い一部武装組織の司令官らに対して行われた。これを受け、トルコの司令に応えるための準備が加速、ウクライナ行きを希望する戦闘員の氏名を登録する極秘の登録センターが設置された。極秘任務という性格上、登録はシリア国民軍の特殊部隊の隊員に限定されているが、有事に備えて、7,000人の戦闘員を派遣するための準備が進められているという。
ウクライナとトルコ当局を仲介しているという複数の人物の情報によると、ウクライナに派遣される戦闘員には4,000米ドルもの大金が支給され、ロシア軍との戦闘の可能性もある国境地帯に展開するという。
輸出されるシリア内戦
トルコはこれまでにも、自らの配下にあるシリア国民軍の戦闘員をリビアとアゼルバイジャンに傭兵として派遣してきた。対するロシアも、シリア政府との和解に応じた元反体制派戦闘員などをリビアに派遣した経緯がある。
シリア情勢は、イドリブ県でのシリア・ロシア軍とトルコ軍・シャーム解放機構主導の反体制派との戦闘が収束した2020年3月以降、小康状態にある。だが、隣国レバノンの経済破綻やコロナ禍の影響で、同国の状況は、政府の支配地、シャーム解放機構主導の反体制派の支配地、そしてトルコ占領地においても何ら改善しておらず、経済的な危機は深刻化している。
こうした状況下で、生活の糧を得ようとして、トルコ占領下で活動するシリア国民軍の戦闘員が異国での戦闘に駆り出されるようなことが再び起きれば、それは悲劇以外の何ものでもない。