杉田水脈議員はなぜLGBTを蔑視するのか?
・杉田議員の”LGBTは生産性がない”寄稿が大きな波紋
杉田水脈自民党議員(比例中国選出)が、月刊論壇誌へ「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がないのです」などと記述したことが大きな波紋・物議を醸している。
この問題は7月21日付の毎日新聞で報じられ、LGBT団体(LGBT法連合会)が抗議声明を出すなど、波紋は広がっている。問題となった杉田議員の月刊誌の寄稿内容についての個別の誤謬は、千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏によって詳細な分析・批判がなされているので、ここではあえて再度の点検を試みない。
・LGBTへの蔑視的世界観は杉田議員の十八番的主張
実のところ私は、杉田議員におけるLGBTへの蔑視、差別ともとれるような世界観の開陳には、まったく驚いていない。なぜなら杉田議員は、LGBTへの蔑視、差別ともとれるような世界観の開陳を、自民党衆議院議員になる以前から、盛んに自著の中で発していたからである。
要するに杉田議員のLGBTへの世界観は彼女の中では通常運転であり、彼女を注意深くウォッチしていた人間であれば、このような世界観は突発的に発せられたものでは無く、彼女の世界観を構成する重要な根幹の一つであると認識するのが妥当なのである。
杉田議員は所属していた旧次世代の党(現・日本のこころを大切にする党)が2014年衆議院選挙で壊滅的敗北を喫すると、在野の「保守系活動家」に転身し、下野中から積極的にネット番組やネットブログでの活動を行なっていた。
杉田議員が自民党比例中国ブロックから返り咲いたのは2017年10月の衆議院選挙であるが、それに遡ること約半年前、2017年4月の時点で、株式会社青林堂から出版された著書『なぜ私は左翼と戦うのか』の中で、以下のようにLGBTに対する蔑視・差別的世界観が惜しみなく開陳されているのである。
・「LGBTの権利擁護で地方公務員が忙しくなる」
とした上で、
と断定している。要するにLGBTの権利を認めない理由というのは、LGBTが少子化問題の解決に寄与せず、加えて地方自治体の職員の業務がこうした「優先順位の高くない仕事」によってさらに忙しくなるからだ、と言っているのである。
・「LGBTの背景にあるのは左翼思想」
さらに杉田は、
と主張し、
と締めくくり、LGBTの求める権利を「まやかしの人権主義」と規定し、その背景には「左翼思想がある」と総括しているのである。しかしながら、本来、「左翼思想」とは進歩的世界観を指し示すのであり、人間の理性や進歩に重きを置き、それらに誤謬が無いことを前提とした社会や人間への設計的世界観であるはずだ。
が、杉田議員の中では「反日」「反日左翼」「左翼」「左派思想」「日本を貶めようとする勢力」さらには同書帯には「サヨク」となっていて呼称自体が著しく揺らいでおり、彼女の言う「左翼思想」の定義づけは全く行われて居ない。
この指摘は、私が杉田議員を「主張が"打倒左翼"しかない"オタサーの姫"」と喝破したことの重複である。
繰り返すようにこの本は、杉田議員が自民党代議士として返り咲く約半年前に出版されたものであり、当然自民党は彼女のこの主張を肯定的に承知の上で公認したものと考えるのが自然である。
・杉田議員の世界観は「保守派」の氷山の一角
しかしこの、杉田議員が開陳して憚らないLGBTへの蔑視・差別的世界観、よく解釈しても「軽視」するような世界観は、何も杉田議員に特有の者では無く、いわゆる「保守界隈」一般において、広く普遍的に観られる言説であり、杉田議員のような世界観の開陳はあくまで氷山の一角に過ぎないことも注意しておく必要がある。
2015年3月に東京都渋谷区で、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(以下、渋谷区パートナーシップ条例)が成立すると、いわゆる「保守派」「右派界隈」はこの条例に対する激烈な嫌悪感を示した。中でも「保守系市民団体」である「頑張れ日本!全国行動委員会」が、JR渋谷駅前の広場で”渋谷区「同性パートナーシップ条例」絶対反対緊急行動”と題して、大々的な反対の街頭行動を行なったことは記憶に新しい。
この中で、街頭行動の先頭に立って渋谷区パートナーシップ条例反対の演説を行なった保守系社会運動家の三輪和雄氏のCS番組上での発言。
LGBTのカップルが同居可能なアパートの物件の話題と、人ですら無いペット可のアパートを同列に語るのは些か配慮を欠くと言わざるを得ないが、ともかくこのような例を筆頭に、保守派には理論的根拠よりもまずLGBTへの感情的とも言える拒否感、拒絶意識が鮮明にある。
・儒教と仏教が融合した濃密な家父長制的世界観
この大本は、いわゆる「保守派」の世界観の中に、儒教と仏教が融合した濃密な家父長制的世界観にあることは、すでに渋谷区パートナーシップ条例成立の際、「保守はなぜ同性愛に不寛容なのか?~渋谷区パートナーシップ条例をめぐる怪~」として小分析を試みた。
いみじくも杉田は前掲書の第六章「日本再生の鍵はこれだ!」の最後を、こう締めくくっている。
父性の復権と日本の再生がどう相関するのだろうか。何度読んでも、杉田の主張は私には支離滅裂と映る。彼女の摩訶不思議ともいえる世界観の理解には、もしかするとエニグマ解読班が必要かもしれない。