Yahoo!ニュース

衆院選候補者の「オタク度」を探る―候補者が好きなアニメ・漫画とは?

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
東京おもちゃショー2019、写真はイメージです(写真:つのだよしお/アフロ)

 今次衆院選候補者へのアンケートで面白いのがあった。「エンターテイメント表現の自由の会」が実施した、「第50回衆議院議員総選挙の候補者に向けて実施した表現の自由についてのアンケート結果」というやつである。詳細はこちら。設問は3つあり、主に表現規制に関する考え方を問うたものだが、重要なのが設問3である。

設問(3)

好きなマンガ・アニメ・ゲームがありましたら教えてください(最大3つ、100文字以内)

 これにどう回答するかで、衆院選候補のオタク度が俄然測定できるというものだと筆者は考えるのだ。むろん、衆院選候補の中で誰が当選するかは分からないが、この中の少なくない候補者が国会に送られ、その議員のうち幾ばくかが国家の文化政策にかかわることになるのは必定であろう。

 とりわけ我が国が誇るアニメ、漫画、ゲーム文化は世界的に認知度が高く、クールジャパンの掛け声が久しいなか、クールジャパン機構の失敗はともかくとして、卑しくも国民の代表者である衆議院議員が、我が国のエンタメ文化に対しどの程度のリテラシーを持っているのかを知ることは、有権者にとってきわめて重要な情報であろう。

 もし仮に筆者が候補者であれば、設問3)には、

『気分はもう戦争』(大友克洋画、矢作俊彦作)、『イノセンス』(押井守監督)、『Hearts of Iron 4』(パラドックス)などと回答するであろう。好きなアニメ、漫画、ゲームを公に回答することは、すなわち自身の文化リテラシーを開陳することと同義なので、なまじ慎重にならなくてはならぬ。

 ちなみにこのアンケートの設問3)は、必ずしもアニメ、漫画、ゲームを1作づつ合計3作あげる必要はなく、アニメだけでも漫画だけでも良いし、いずれも複数作でも良いことになっている。回答の公表は原文のままであり、小選挙区と比例単独候補のみが掲載されているが、すべての候補者が回答していないことには留意が必要である。

全日空の鬼滅の刃ジェット
全日空の鬼滅の刃ジェット写真:つのだよしお/アフロ

・『鬼滅』『キングダム』『スラダン』『ワンピース』『ドラゴンボール』がTOP5に

 さてのっけから筆者はこの、設問3)を総覧して驚愕してしまった。今次の衆院選候補のうち、設問3)に対する最も多かった回答TOP5は、以下のとおりである(数字は回答候補者数)。

『鬼滅の刃』50

『キングダム』50

『スラムダンク』50

『ワンピース』49

『ドラゴンボール』23

 …なんというか、初手からゲンナリである。キングダムを除けばすべてが少年ジャンプ系の王道ばかりとなる。しかも『鬼滅』『キングダム』『スラダン』の王道三作が奇しくも1位タイである。

 この現象は、好きな食べ物は何ですか?と聞かれて、「マクドナルド」と答えるのに似ている。もちろん、マクドナルドのハンバーガーはおいしいし、高品質である。王道の少年漫画が駄目だと言っているわけではないが、お世辞にもこの回答では「日本のエンタメ文化に詳しい」とはみなすことはでないし、仮にも国会議員を目指す衆院選の候補者がこの程度のリテラシーでは、クールジャパン政策の先行きには巨大な暗雲が立ち込めていると言えよう。

 しかも設問3)に対する回答として、それが漫画原作を指すのかアニメ版を指すのか、そのどちらなのかを明示していない場合がほとんどなのは致命的である。『ドラゴンボール』ならば、それがアニメ版としても、無印なのか「Z」なのか「GT」なのかも不明である。ドラゴンボールはゲーム版も人気だが、あえてそれを明示していないならば、作品に対する知識は皆無に等しいと判決する以外にない。

 回答の仕方で、「この人、アニメとか漫画のことを何も分かっていない」と一発で判明してしまうこのアンケート結果は本当に面白い。

 これによって候補者のエンタメリテラシーが白日の下に晒されるのは、有権者にとって不幸なのか幸福なのか。

・珍回答―そんな作品は存在しない

 本結果の中から、とりわけ筆者が「珍回答」と考えた候補者を以下紹介する。というか、今回のこのアンケート結果、総覧するにあまりにもエンタメリテラシーが低すぎる候補者が多すぎるのである。王道作品を挙げている、という理由以前に、「作者や作品名を間違えている」という根底から問題があるものがあった(アンケート結果はすべて原文のまま)。例えば、

・山形1区 原田まさひろ(はらだまさひろ) 立憲民主党

設問3)の回答(以下同) 

「転スラ」「ハンター×ハンター」「BLEAGH」

 となっているが、「BLEAGH」とは何のことだろうか?そんな作品は存在しない。ブリーグッ?多分文脈を最大限忖度すると、「BLEACH」と書きたかったのだろう。だが、スペルミスでは通用しない。

 トヨタのLEXUSをREXUSと書く人はいない。そう書く人は車に興味のない人である。漫画・アニメの分野でも同じである。

・東京1区 中野けん(なかのけん) 日本共産党

あしたのジョー、人現交差点、未来少年コナン

 これも看過できない回答。弘兼憲史先生作画の「人間交差点」を指しているのだろうが、「人現交差点」は誤字を通り越しているし、作品の意味が違ってくるではないか。本当に好きで本作を読んでいるのならば、このような間違いはしない。神は細部に宿るとはよく言ったものだ。

 このほかに、栃木5区 岡村けい子(おかむらけいこ)日本共産党、千葉10区 仲ゆきこ(なかゆきこ)日本共産党、の二名が、「手塚治の「火の鳥」が好き」「手塚治氏の「鉄腕アトム」と回答しているが、正確には手塚治ではなく、手塚治虫である。

 むろん、手塚先生の本名は手塚治であるが、そこからもじって治虫(=オサムシ)としたのは有名な話であり、設問の文脈上も本名で回答するべきではない。”津島修治の『人間失格』”、とは普通書かない。太宰治の『人間失格』、と書く。

 作者の名前を正確に書けない時点で、火の鳥も鉄腕アトムにもあまり興味が無いのではないか。

・珍回答―そのガンダムとは、何のガンダムのことですか?

 最も多かった回答が、ただ漠然とした作品タイトルを述べるもの。これが本当に多くてゲンナリした。例えば、

・秋田2区 福原じゅんじ(ふくはらじゅんじ) 自由民主党

さよなら銀河鉄道999、AKIRA、機動戦士ガンダム

・埼玉12区 森田俊和(もりたとしかず) 立憲民主党

『沈黙の艦隊』、『ゼルダの伝説』、『ガンダム』

・東京30区 長島昭久(ながしまあきひさ) 自由民主党

ちはやふる、機動戦士ガンダム、ドカベン

・神奈川10区 田中和德(たなかかずのり) 自由民主党

キングダム、美味しんぼ、機動戦士ガンダム

・大阪8区 うるま譲司(うるまじょうじ) 日本維新の会

ガンダム

・大阪15区  浦野靖人(うらのやすと) 日本維新の会

三国志、ガンダム

・愛知6区 丹羽秀樹(にわひでき) 自由民主党

マンガ・アニメ全般(ガンダム・マクロス)

・香川3区 細川修平(ほそかわしゅうへい) 日本維新の会

ガンダム、へうげもの、信長の野望

 などの回答である。この中には、「機動戦士ガンダム」とか単に「ガンダム」などの回答が記載されているが、一口に”ガンダム”とはくくれないほど本作は大量の作品群を構築していることは良く知られており、いわゆる「1st」から、Z、ZZ、逆シャア、W、X、V、SEED、00、水星の魔女etc…など、その他OVAや漫画版の派生作を含めても山のようにある。

 この回答はあまりにもおかしくないだろうか?「あなたの乗っている車は何ですか?」と質問されたときに、「ガソリン車」と答えているのと同じだ。ふつう、「アルファード」とか「カローラアクシオ」とか「ジムニー」などと、車種を答えるだろう。

 このような問答で、繰り返すようだが、その人のクルマに対する造詣や愛着が即座にわかるのと、漫画・アニメに対するそれは全く同じといってよいと筆者は考える。

 不可思議なのは、秋田2区の福原候補は、『さよなら銀河鉄道999』と個別具体名を挙げているにもかかわらず、『機動戦士ガンダム』と回答していることだ。文脈からそれを「1st」と読み取ってほしいと考えているのならば甘い。それならば、通常『機動戦士ガンダム』(宇宙世紀)などと回答するのがセオリーだからである。回答の仕方ひとつで、銀河鉄道は好きでもガンダムについては今一つなのが、手に取るようにわかるのだ。

・「オタク度」がいちばん高いのは音喜多駿候補(日本維新の会)か?

 その証左として、ガンダムに対しては以下のごとく個別具体に回答している候補者も挙げなくてはならない。

・富山1区 青山了介(あおやまりょうすけ) 日本共産党

ガンダムシリーズ(UC中心)、銀河英雄伝説、漫画Q.E.D

・愛知4区 高橋祐介(たかはしゆうすけ) 日本共産党

機動戦士ガンダムSEED、響け!ユーフォニアム、転生したらスライムだった件

・三重2区 川崎ひでと(かわさきひでと) 自由民主党

機動戦士ガンダムUC、SLAM DUNK、メタルギアソリッドシリーズ

・兵庫2区 阿部けいし(あべけいし) 日本維新の会

『ガンダムSEED』『攻殻機動隊』『銀河英雄伝説』

 この四者は、おおよそ模範的な回答である。なぜなら、ガンダム作品の中の個別具体例を挙げているからだ。富山1区の青山候補と三重2区の川崎候補は、「UC中心」「UC」とした。好きな作品にUCを挙げるということは、すでに1st、逆シャア、Z、ZZなどは網羅していることを前提としてしていることを含意するものである。

 愛知4区の高橋候補と兵庫2区の阿部候補の挙げたSEEDについては賛否別れるが、具体例を挙げているので、単に「ガンダム」という不可思議な回答よりかはずいぶんとよく、しっかりと本作を見ているのだろう。しかもそれがSEED DESTINYではないところは、誠実さを感じさせる。

 極めつけは、

・東京1区 おときた駿(おときたしゅん) 日本維新の会

天元突破グレンラガン、機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY

 の回答であろう。本アンケートで、『0083 STARDUST MEMORY』を挙げたのは音喜多候補のみである。この一点において、少なくとも本アンケート回答者の中では音喜多候補が最もオタク度が高いと筆者は感じた。

 それが『0080 ポケットの中の戦争』ではないところは筆者との好みの違いの問題であろうが、この回答はガンダム作品群の、少なくとも宇宙世紀の広範を、すでに視聴済みであることを含意しているものだ。

 敗者(ジオン軍)の視点、敗者の悲哀を主題とした「0083」を挙げるのは、現在野党である日本維新の会に所属している音喜多候補の「臥薪」という意味でのダブルミーイングとも解釈できよう。

 さらに、「0083」はOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)しかなく、その他の回答者の中には単に『風の谷のナウシカ』とだけ書いて、それが漫画版なのか、劇場アニメ版なのか、良く分からない回答が散見される中、そういった曖昧性をも排除しているのだ。

 一般的には、漫画やアニメが好きであれば、このように回答してしかるべきであるにもかかわらず、音喜多候補の回答水準にすら到達していない候補がほとんどすべてであることが、きわめて歯がゆい。

パリの書店における日本漫画
パリの書店における日本漫画写真:松尾/アフロ

・本当は漫画とかアニメとか、興味ないんでしょ?

 このように、漠然と作品名だけを書いて、具体的には何を指すのかわからない回答は山のようにあった。

・千葉10区 小池まさあき(こいけまさあき) 自由民主党

宇宙戦艦ヤマト

・東京28区 安藤たかお(あんどうたかお) 自由民主党

宇宙戦艦ヤマト

・神奈川19区 横関克弘(よこぜきかつひろ) 日本共産党

ドラえもん サザエさん

・富山1区 あさおか弘彦(あさおかひろひこ) 日本維新の会

サザエさん、ちびまる子ちゃん、ドラえもん

・石川3区 西田昭二(にしだしょうじ) 自由民主党

サザエさん

・兵庫9区 高田良信 (たかた よしのぶ) 日本共産党

ドラえもん

・山口1区 高村正大(こうむらまさひろ) 自由民主党

島耕作シリーズ、宇宙戦艦ヤマト

・愛媛2区 白石洋一(しらいしよういち) 立憲民主党

ドラえもん

・福岡5区 松尾よしみつ(まつおよしみつ) 日本維新の会

エヴァンゲリオン

・比例北関東 大津力(おおつつとむ) 参政党

藤子不二雄作品

 ここまでくると筆者の頭がウニになってくるわけである。まず、「宇宙戦艦ヤマト」というのだが(千葉10区の小池候補、東京28区の安藤候補、山口1区の高村候補)、何度も繰り返して申し訳ないが、『宇宙戦艦ヤマト』の何を指しているのか?

 1974年のテレビシリーズなのか。その後の白色彗星帝国との戦いを指すのか。はてさて劇場版の「さらば」なのか「永遠に」なのか。はてさて「2199」を筆頭とするリメイクなのか。庵野秀明監督も新作を創るようであるし、具体的に書いてもらわないと判断ができない。

 回答だけ見ると、たぶん「宇宙戦艦ヤマト」がどのようなストーリーなのかも良く分かっていないのではないか。良く分かっているのであれば、ガミラスと白色彗星帝国の鑑別がつくのは当然のはずである。

 また、『ドラえもん』『サザエさん』の回答の多いこと多いこと(神奈川19区の横関候補、富山1区のあさおか候補、石川3区の西田候補、兵庫9区の高田候補、愛媛2区の白石候補)。テレビアニメで何十年も放映されている作品を全部視聴したわけでもあるまいに、漠然と好きというのだろうか。

 少なくとも『ドラえもん』を挙げるのであれば、大長編シリーズのいずれか…例えば『小宇宙戦争』『鉄人兵団』『海底鬼岩城』などのいずれかを挙げるべきだが、全部ひっくるめてなんとなく「一個の作品」と思っているのだろう。声優も変わり、原作者も故人となったのに。

 また『サザエさん』ならば、長谷川町子先生の原作漫画か、少なくともテレビアニメが膨大なので、特筆すべき話数を記載するべきだ(父さん発明の母、など)。

 このような人は、「旧ジャニーズとかAKBなどのアイドルの人たちは全員同じ顔に見える」という高齢者とそれほど変わらないと筆者は思う。そのような楽しみ方は自由だが、このような候補者が議員となったときに文化政策を任せてはいけない。

 

 福岡5区の松尾候補の「エヴァンゲリオン」というのもひどい。正式には『新世紀エヴァンゲリオン』であるし、その中でも1995年のテレビシリーズと、1997年からの旧劇場版(いわゆる旧劇)、および2007年からの新劇場版(新劇)の三種に大別されるのは自明だが、この書き方だと何を指すのか良く分からない。正式名称や具体名を書かない時点で、エヴァンゲリオンに対する愛着など無いに等しいのではないか。

 比例北関東の大津候補の「藤子不二雄作品」という回答は最悪を通り越している。いわずもがな、F先生なのかA先生なのかがわからない。もしかすると、共同ペンネーム時代の作品が好きなのかと言いたいのかもしれないが、それならば『笑ゥせぇるすまん』や『まんが道』、『キテレツ大百科』は除外するということになる。本当にそれでいいのですか。回答を見る限り、そのような思慮があるとは思えない。F先生とA先生の区別が本当についているのか疑わしい。

 ことほど左様に、今次アンケート結果は、衆院選候補の「ほとんど」が、

…漫画、アニメ、ゲームに対する知識も愛着もリテラシーも無い。

 ということを示すものである。もちろん冒頭で述べた通り、候補者の全員が回答しているわけではないことに留意されたい。そして本稿で問題にしている、本アンケートの設問3)に対する回答のなかで、かなり多かったのが、

(漫画やアニメに)興味が無い

 というものだった。

 ならば、もし代議士になったのならば、少なくとも彼らが文化政策に携わる資格はないであろう。今次衆院選候補者の多くが、この程度の認識のもと「オタク」どころか「一般ユーザー」レベルの知識にも到達しないまま、政治の世界に羽ばたこうとしている事実は、クールジャパンという掛け声のそら寒さを再認識させるに十分すぎるものであろう。(了)

参考記事(すべて筆者)

クールジャパン機構失敗の考察…日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢

海外で見た酷すぎるクールジャパンの実態~マレーシア編~

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

古谷経衡の最近の記事