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米国の対日盗聴、ウィキリークス公表1週間 在京6紙の報道姿勢に大きな差

楊井人文弁護士
ウィキリークスが米国の対日盗聴に関する機密文書の公開を報道発表したページ

【GoHooトピックス8月9日】米国が日本政府中枢や大企業などを盗聴していたとして、内部告発サイト「ウィキリークス」が7月31日、機密文書などを公開した。問題発覚後の1週間、日本の在京6紙がどのように報じたかを日本報道検証機構が調査したところ、記事の分量や扱い方に大きな違いがあることがわかった。分量が最も多かったのは朝日新聞の約5400字で、次いで多かった毎日新聞より2割以上多かった。最も少なかったのは産経新聞の約2000字で、朝刊だけで比較しても朝日の6割弱。読売新聞も朝夕刊で朝日の6割程度にとどまり、地方紙である東京新聞を下回っていた。(詳細はGoHoo特集も参照

ウィキリークスが米国の対日盗聴に関する資料を発表したのは7月31日午後4時ごろ。米国・国家安全保障局(NSA)の盗聴に関連した機密文書5点や盗聴対象の電話番号リストをサイト上に公開した。

当機構が調査したのは、8月1日~7日発行の在京6紙の朝夕刊(東京本社版)で、見出しに米国盗聴疑惑に関する表現を含む記事。社説を除くと、読売6本、産経7本、日経8本、毎日8本、朝日7本、東京8本あり、これらの見出しと本文(図表の文字を除く)の文字数を集計した。(*) その結果、文字数にして朝日の5483字に次いで多かったのは毎日で4433字。後は、東京、日経、読売の順に多く、いずれも3000字台で、最も少なかったのが産経(ただし朝刊のみ)の2018字だった。

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ウィキリークスの発表を報じた第一報記事の扱いも比較した。8月1日付朝刊1面に載せたのは朝日と毎日だけで、日経は2面の左肩、東京は6面(共同通信の原稿)だった。他方、産経は2面の左下に見出し2段と目立たない扱い。読売は1日付朝刊では報じず、夕刊3面、2日付朝刊7面=国際面=(いずれもほぼ同じ内容)に載せていた。第一報の分量(関連記事を含む)は朝日が2629字で、2位の毎日の1178字を引き離して突出。朝日は5つの機密文書のうち2つについて背景事情も含めて詳しく伝えていた。一番少なかったのは読売の543字。6日付朝刊で改めて詳しめに事実関係を伝えていたが、いずれも盗聴対象は「経済産業相ら個人や財務省など政府機関、三菱、三井グループ企業」と伝え、内閣府や官房長官の秘書官、日本銀行が盗聴対象になっていることを報じていなかった(ただし、社説の中で言及した)。次いで少なかったのは産経の638字だった。

東京は2日付朝刊で、盗聴された情報が英語圏5か国で共有されていた問題などを詳しく報道。朝日は5日付朝刊で、米国の盗聴問題でドイツ、フランス、ブラジルは米国大使を呼び出したりオバマ大統領に直接抗議するなどの対応をとったことを紹介し、それに比べて日本が抑制的な対応をとっていると解説した。毎日と東京も6日付朝刊で同様の観点から解説記事を掲載した。読売はバイデン副大統領が陳謝したことを5日付夕刊1面で大きく扱い、6日付朝刊では安倍首相が「深刻な懸念」という「厳しい表現」を用いたのは「対米弱腰」との批判をかわす狙いがあったと指摘し、日米両政府が早期沈静化を図っていると解説した。日経も、米側の陳謝を「異例」と評価し、ドイツやフランスなどと異なり、安倍首相の電話が直接盗聴されたわけではないとも指摘。日本政府も外交問題化を避け、早期収拾を図っていると伝えた。産経は独自の分析や解説記事はなく、5日にバイデン副大統領が陳謝したこともベタ記事扱いだった。

社説は、朝日と日経が4日、毎日が5日、読売が6日に取り上げたが、産経と東京は社説で立場を示していない。朝日は米国の盗聴行為を「国家の主権が侵された疑いが濃い」と指摘し、日本政府の対応については「鈍すぎる」と問題視し、米国に「謝罪と再発防止の確約」を求めるべきだと主張した。毎日も「日米同盟の信頼を揺るがしかねない背信行為」と位置付け、日本政府については「あまりに腰が引けた生ぬるい対応」と批判、米国に対して「真偽をただし、堂々と抗議すべき」と主張した。他方、読売も「同盟関係の信頼性を損なう行為」「違法な諜報活動は看過できない」と厳しく指摘したものの、日本政府の対応は問題視せず、米国に対して全容の説明と誠意ある対応を求めるとともに、「情報収集のあり方について一定のルールを検討してはどうか」と提案した。日経は盗聴行為を直接非難することはせず、「同盟国であっても警戒を怠ってはならない」と指摘するにとどめ、防止体制を改めて点検すべきなどと論じていた。

(*) 産経は大阪版夕刊に4本載せていたが、いずれも翌日の東京版朝刊と内容的に重複しているため、カウントしなかった。国会審議を報じた中で盗聴問題に言及した産経の記事2本は該当部分だけカウントした。読売は1日付夕刊と2日付朝刊の記事の大半が重複していたため、わずかに記述量が多い2日付朝刊の記事に一本化してカウントした。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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