シリアのクルド民族主義勢力が新型コロナ対策でアサド政権に攻勢…そしてトルコの攻撃
北・東シリア自治局は感染の疑いがあるシリア軍兵士が派遣された村を封鎖
アレッポ県では、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、北・東シリア自治局の危機対策チームが4月10日、自治局とシリア政府の共同統治下にあるタッル・リフアト市近郊のウンム・フーシュ村を一時的に封鎖した。
北・東シリア自治局はPYDが主導する自治政体で、ユーフラテス川以東のハサカ県、ラッカ県、ダイル・ザウル県のほか、アレッポ県北部のタッル・リフアト市一帯地域を実効支配している。
タッル・リフアト市一帯地域は「シャフバー地区」と称され、トルコ軍の侵攻を抑止するため、ロシアが後援するシリア軍が駐留、共同統治が行われている。
ANHAによると、ウンム・フーシュ村の封鎖は、同地に駐留するシリア軍部隊のなかに新型コロナウィルス感染が疑われる兵士が確認されたため。
シリア軍は最近になって、北・東シリア自治局と連携せずに、多数の将兵をタッル・リフアト市一帯に派遣、事態に対処するために自治局の危機対策チームが同地で感染者の有無を確認する対策をとったところ、新型コロナウィルスに感染したと思われる症状を発症していた兵士1人を発見、検査のためにアレッポ市内の病院に搬送したという。
北・東シリア自治局保健委員会(保健省に相当)のジュワーン・ムスタファー共同議長は、次のように述べている。
トルコ軍がシャフバー地区を激しく攻撃
新型コロナウィルスでの連携不足によるシリア政府と北・東シリア自治局の不協和音を尻目に、アレッポ県北部を占領下に置くトルコはにわかに攻撃を激化させた。
ANHAや英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、トルコ軍は4月10日、いわゆる「シャフバー地区」のアキーバ村、バイナ村、ズィヤーラ村、シャワーリガ村、マーリキーヤ村、マルアナーズ村、イルシャーディーヤ村、タナブ村、カシュタアール村、シャフバー国内避難民(IDPs)キャンプ(ダイル・ジャマール村)、スーガーニカ村、カフル・アントゥーン村を砲撃した。
この砲撃で、シリア軍兵士1人が死亡、1人が負傷した。
北・東シリア自治局はカーミシュリー国際空港で初期検査を逃れようとした女性2人を拘束
北・東シリア自治局の内務治安部隊(アサーイシュ)の中央広報センターは4月10日に声明を出し、ハサカ県カーミシュリー市の空港(カーミシュリー国際空港)で新型コロナウィルスに対するPCR検査を受けなかった女性2人を拘束したと発表した。
カーミシュリー市はシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあり、カーミシュリー国際空港はシリア政府が管理している。また、同空港にはロシア軍が司令部を設置している。
拘束された女性2人は、ダマスカス国際空港発の旅客機でカーミシュリー国際空港に到着した乗客。自治局の緊急事態対応チームが行っているPCR検査を受けずに空港を立ち去ったため、シリア民主軍(PYDが創設した人民防衛隊(YPG)を主体とする民兵)が検問所で拘束した。
検問所は隔離施設に転用され、2人を拘束しているという。
北・東シリア自治局の緊急事態対応チームは4月5日からカーミシュリー国際空港で、シリア政府支配地域からの旅行者・帰郷者に対して初期検査と隔離措置を行っている。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)