部活対策 教員のオフ会 拡がる
■教育関係者に知ってほしい
「教員人生で最高の研修会だった」――参加者の一人はオフ会をこう絶賛した。
3月下旬、Twitterでやりとりを重ねてきた先生たち10名が、西日本の某所に集結した。東北、関東、中部、関西、九州と、全国各地からの参加である。
中学校の先生が多数派だが、小学校や高校の先生もいる。年齢層も20代から40代までと、まったくのバラバラである。だがそこには唯一、共通する思いがある――「部活動のあり方を変えたい!」だ。
私は、主催者であるS先生とのご縁から、オフ会にオブザーバーとして参加した。今回のオフ会は、新しい大規模な地殻変動の一端を示しており、特筆すべきものである。教員や管理職そして教育行政の関係者には、見えないところで、でもすぐ身近で起きているかもしれないこの事態を、ぜひとも知ってほしいと思う。
■まずは自己情報の開示から
昼下がりに、とある喫茶店の一室で、オフ会は始まった。
先生たちは、お互いをTwitterのハンドルネームで呼ぶ。普段からネット上ではハンドルネームでやりとりをしているから、本名は不要である。
ただしネット上では、身バレを防ぐために、担当教科や勤務地などの情報はもちろんのこと、これまでの経験についてもその詳細までは明かされていない。オフ会は、具体的で詳細な自己情報の開示から始まった。
S先生によると、オフ会全体の目的は2つ。第一が、部活動問題を改善していくための全国的ネットワークの強化であり、第二が、顧問の負担軽減(顧問の辞退を含む)に向けた経験と戦略の共有である。
■ネットワークの強化と情報の共有
第一の目的についていうと、部活動のあり方を問う声が高まるなかで、改革をいっそう推し進めるためには、全国の先生たちのつながりを強化する必要があった。オフ会というリアル社会で顔を付き合わせて、自己開示をしながら信頼関係を築き上げるのだ。
第二の目的については、具体的に顧問としての負担を軽減するために、あるいはそもそも顧問に就くことを辞退するために、管理職とどのように交渉すべきなのか、その経験と戦略について話し合いがなされた。
会場では、口頭で意見が交換されるだけではなく、さまざまな資料が配付されて、情報の共有が図られた。管理職との交渉において有効な文書のひな形や、全国規模での教員間の連携の方法など、これからの闘いのための検討材料が提示された。このオフ会が「研修会」と評されたのも、もっともである。
■全国各地でのオフ会開催
今回のオフ会では、初日の午後(夕刻まで)と夜と、二日目の午前と、計3つの企画が立てられた。そして、じつはそれらの企画以外にも、3月には同時多発的にオフ会が開催されたことを、ここで強調したい。
私が知る限り3月の間に、関西、関東、中部で1回ずつ、3~6名での最小規模のオフ会が、水面下で開かれている(メンバーは一部重複)。なお、公開のオフ会的活動も3月に東京で開催されている[注2]。
これまでの数年間における学校現場からの部活動改革は、ネット上のごく限られた先生たちによって担われていた。すなわち、いまや部活動改革のカリスマ的存在として知られる真由子先生(2013年3月にブログ開設)や、「部活問題対策プロジェクト」(2015年12月に設立)の先生たちによる改革である[注1]。
他方で今回の全国各地におけるオフ会の開催は、教員発の部活動改革が、新たなフェーズに入ったことを示している。
■誕生期から拡大期へ 水面下で新たなフェーズに移行
この3月の同時多発的オフ会は、「誕生期から拡大期へ」と称すべき、部活動改革の拡がりを感じさせる。すなわち、名の知れた「部活問題対策プロジェクト」を超えた、幅広いつながりが形成されつつあるのだ。
いくつかのオフ会には、部活問題対策プロジェクトの先生たちも参加している(真由子先生による報告:「みんなでやろう『部活オフ会』!」)。だが、プロジェクトの先生たちは、主催者ではなく、参加者の一人にすぎない。実際に今回の主催者のS先生は、プロジェクトメンバーではない。
冒頭で述べたとおり、オフ会の参加者は、多様である。全国各地に散らばるTwitter仲間が、一堂に会している。中学校の先生だけでなく小学校や高校の先生も、年齢層もさまざまで、運動部だけでなく文化部の顧問も集っている。
さらにはじつは、教員だけでなくその家族も参加している。教員自身は部活動に夢中なのだが、それに危機感を覚えた配偶者が動いているのだ。
誕生期から拡大期へ。激しい地殻変動が進んでいる。
■「レッドシールキャンペーン」
部活問題対策プロジェクトの先生たちも、拡大期における水面下での連携を進めるべく、新たな活動を展開している。それは、「レッドシールキャンペーン」と呼ばれるもので、職員室にある自分の机の右隅に赤い丸のシールを貼るという活動だ。
これは、部活動のあり方に関心があることを「暗に」示す方法であり、「もし、同じ学校であなた以外に赤いシールを見つけたら声をかけてつながりましょう」とプロジェクトは訴える。
なぜ「暗に」するのかといえば、それは、職員室のなかでは部活動の議論は、いまだもってタブーなことが多いからである。学校現場においては、「連日の部活動をしっかりと指導してこそ一人前の教師」という考え方が根強い。だからこそ、ひっそりと少しずつ仲間を増やしていこうという戦略である。
■改めて管理職と教育行政関係者の皆様に
とある学校では、職員室の4つの机に赤いシールが貼ってあるという。部活動改革のうねりは、水面下で着実に拡がっている。
オフ会の参加者の一人は、会で得た理論と資料を職場の近しい仲間と共有し、さらに負担軽減を目指して管理職との交渉に臨んだという。「校長は私の主張に反論できませんでした」との交渉の成果が、S先生のもとに届いている。新年度が始まる来週からは、さらに多くの先生が交渉に挑み、その成果が届くことだろう。
最後に改めて、教育関係者、とくに管理職そして教育行政職の皆様に、この場を借りてお伝えしたい。草の根の部活動改革は、見えないところで、確実にかつ急速に進んでいる。もしかして、自分の職場にも問題意識をもっている先生がいるかもしれない。
「部活がつらい」と言ってよいことに気づき、先駆者たちの経験と理論を武器にして、先生たちはこの問題に向き合おうとしている。先生たちの嘆きと動きをしっかりと受け止めて、部活動の縮小化や外部化、顧問業務の選択制確保など、早急に手立てを考えていく必要がある。
- 注1:2015年12月における「部活問題対策プロジェクト」の設立自体も、既存の組織(教職員組合)を超えたかたちでの、これまでにない新しい連携であった(拙稿:「ブラック部活」 若手教員が立ち上がる 既存の組織を超えた新たな連携)。
- 注2: 3月26日に、学習院大学の長沼豊教授が「部活動のあり方を考え語り合う研究集会」を主催した。キャッチフレーズは、「空中戦から地上戦へ」。つまり、ネット社会からリアル社会へと、議論の舞台を移そうという試みである。当日は、ネットで発言している多くの現職教員が集結し、ハンドルネームを名乗って意見を交換した。