「ブラック部活」 若手教員が立ち上がる 既存の組織を超えた新たな連携
■若手教員らの挑戦
ついに、先生たちが立ち上がった。
これまで教員の間で長らく不満が蓄積されながらも、有力な突破口が見つからないまま放置されてきた「部活問題」。その改善を目指し、若手の先生たちがインターネット上で画期的な運動を展開し始めたのである。
「部活問題対策プロジェクト」と銘打たれたその活動を運営するのは、全国に散らばる6名の若手教員らである。カリスマ的存在の真由子先生や、このところツイッター上で人気を集めている神原楓先生が、その一員である。
これまで教員の労働に関する部活問題については、教職員組合が音頭を取ってきた。だが、同プロジェクトは、既存の組織の枠組みを超えた、まったく新しいかたちでの連携であり、以下に示すその活動目標もきわめて斬新である。
■「部活問題」とは?
「部活問題対策プロジェクト」のウェブサイト(12月24日公開)によると、「部活問題」とは、「部活動によって引き起こされる、様々な負の側面」を総称するもので、その負の側面が「教師、生徒、保護者、教師の家族などに様々な不幸をもたらしている」とされる。
この「様々な負の側面」を照射しようというのが、プロジェクトの最大の魅力である。従来型の組合の運動は、教員の労働問題が主軸にあった。他方でプロジェクトは、その枠組みを超えた問題提起をおこなっている。教員の労働問題は最重要課題であるものの、それと同時に、生徒、保護者、教員の家族それぞれが直面する課題を取り上げている。
■教員みずからの手による学校文化の変革
とりわけ、生徒が直面する、体罰、強制入部、連日の長時間練習までをも問題視する点は斬新である。なぜならそれらの問題においては、教員は一方的に批判を受ける側に立つのみだったからである。学校の外にいるマスコミや市民が、教員を含む学校内部を批判するという構図である。
だがプロジェクトにおいて若手教員らは、みずから学校のあり方を批判的にとらえ、それを世論に訴えかける。自浄作用をはたらかせて、学校内部から問題を提起しようというのである。既存の学校文化に縛られない、若い先生たちの新しい力を感じ取ることができる。
■ウェブ署名 部活顧問を「する・しないの選択権」
プロジェクトが、活動の第一弾として12月24日に開始したのが、部活顧問の過重負担に関するウェブ署名である。
「部活がブラックすぎて倒れそう… 教師に部活の顧問をする・しないの選択権を下さい!」とタイトルが付されたchange.org上でのウェブ署名は、2日間だけで1300筆を集める勢いで拡がっている。
署名の趣旨は明確である。部活の指導は、教員の本務ではなく、ボランタリーな活動である。しかし現実には、すべての教員が部活指導にあたることが慣例となっている。そして、平日の夕方と朝の時間を無給で指導にあたり、土日祝日も練習や大会参加のために出勤することが求められる(部活「やりたくない」 先生の訴え)。そこに「する・しないの選択権」はない。「部活がブラック」という表現には、そうした実情が反映されている。
■若い先生たちの悲鳴
部活問題対策プロジェクトに、若い先生たちが集まっているのは、ただの偶然ではない。若手教員は一般に、運動部顧問を任せられる傾向がある【注1】。
そして文部科学省の教員勤務実態調査(2006年度実施)によると、中学校において若手教員は、年上の教員に比べて、残業や持ち帰り仕事の時間量が多い。
同様に、運動部顧問の教員は、文化部顧問や顧問なしの教員に比べて、残業や持ち帰り仕事の時間量が多い【注2】。
若手の先生たちが、部活動顧問の勤務状況を問題視するのは、まさにその先生たちに部活問題のしわ寄せが及んでいるからなのである。
■部活問題全体の改善に向けて
今回のウェブ署名の先には、「部活動が子どもも教師も輝くことのできるものになるよう、『生徒の強制入部の廃止の提言』や『部活動の環境整備』などを文科省に要求していく」(署名本文)ことが計画されている。
若手の先生たちは、顧問としての過重な負担に苦しんでいる。その一方で、自分自身のことのみならず、生徒や保護者をも含めた部活に関わる人びと全体の状況改善に向き合おうとしている。その姿勢には、先生たちの並々ならぬ覚悟と意気込みを感じる。
学校内部からの勇気ある問題提起に、私たち市民はしっかりと耳を傾けなければならない。
【注1】
中澤篤史・西島央・矢野博之・熊谷信司、2008、「中学校部活動の指導・運営の現状と次期指導要領に向けた課題に関する教育社会学的研究」『東京大学大学院教育学研究科紀要』48: 317-337.
【注2】
中学校の7月における勤務状況である。グラフについては、ベネッセ「中学校教師の勤務状況」に掲載されているデータをもとに、筆者が作図した。
なお、時間数の読み方には注意が必要である。たとえば、運動部顧問における勤務日の残業+持ち帰り仕事量が約3時間という場合に、それは2時間の運動部顧問もいれば、4時間の運動部顧問もいるということである。同じように、休日の残業+持ち帰り仕事量が約4時間という場合に、土日のうち土曜日だけ8時間で、日曜日は0分ということもありうる。