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NHK朝ドラ「ちむどんどん」への「総突っ込み」状況と最終回へ向けた動き

篠田博之月刊『創』編集長
「ちむどんどん」ヒロインの黒島結菜さん(写真:2019 TIFF/アフロ)

「ちむどんどん」めぐるイライラは国民的レベル?

 NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」が9月30日の最終回へ向けていろいろな意味で話題になっている。番組の後に放送されているNHK「あさイチ」に9月9日、「ちむどんどん」主役の黒島結菜さんが登場。局をあげて最終回へ向けた盛り上がりを作っていこうというNHKの意思を感じさせた。

 この番組がどんなふうに話題になっているかといえば、例えば『女性自身』9月20日号がこう書いている。

『女性自身』9月20日号(筆者撮影)
『女性自身』9月20日号(筆者撮影)

「毎回、放送終了後にはTwitterで“ちむどんどん反省会”と称する突っ込みが相次ぐなど、朝ドラ史上最も視聴者をザワつかせている本作」「最終回が迫っているが、視聴者の批判が収まることはなさそうだ」

 作家の林真理子さんも『週刊文春』9月8日号のコラムでこう書いていた。

「もはや『ちむどんどん』がまきちらすイライラは、国民的レベルになっているようだ」「私は長年朝ドラを見続けてきたが、こんなのは初めて。わざと視聴者をイラつかせようとしているとしか思えない」

一時は「打ち切り説」も!?

 批判がエスカレートして、一時は週刊誌が「『ちむどん』打ち切り危機!」といった見出しを掲げる(『女性自身』9月6日号)までに至った。特にネットで話題になっているため、「SmartFLASH」や「週刊女性PRIME」など多くの週刊誌のウェブサイトが、この話題をたびたび取り上げている。ネットニュースでは「ちむどんどん」関連の記事が1日に何本もアップされ、反響を呼んでいるのが現状だ。

 当初は視聴者を敢えてザワつかせ、毎日気にして見てもらうという制作側、特に脚本家の戦略もあったのだろうが、「それにしてもありえない」という批判が拡大した。

 最も沸騰したのはニーニーこと主人公・暢子の兄が何度も同じような詐欺に引っかかって家族が困難に陥った時だ。同じパターンが繰り返されることに視聴者が「いくらなんでも、これはないだろう」と声をあげた。

 そのほか、幼なじみの智が交通事故にあいかけた時も、番組の最後に電話を受けた暢子が「瀕死の重体?」と口にするシーンがあって、「瀕死の重傷ならわかるが、瀕死の重体という表現はおかしい」という突っ込みがSNSに吹き荒れた。

「#ちむどんどん反省会」には政治家の書き込みもあって話題になった。元農林水産副大臣の礒崎陽輔さんで、8月14日にこう書きこんだ。

「俳優の皆さんは立派に演じられていますが、脚本の論理性が崩壊しています。私自身沖縄振興の関係者として残念であり、既に手後れかもしれませんがNHKは猛省する必要があります」

 その反響の大きさに意を強くしたのか、磯崎さんは9月3日にもツイートしている。

「#ちむどんどん反省会」ツイートが50万超える勢い

 9月5日にサンスポウェブで配信された記事「NHK朝ドラ『ちむどんどん』で過熱する『#ちむどんどん反省会』の問題点は?」によると「#ちむどんどん反省会」の反響の拡大はこんなふうだったらしい。

《SNSの分析ツール「ソーシャルインサイト」で分析すると、4月11日の放送開始から8月末までに投稿された「ちむどんどん」を含むツイートは226万4360件あった。そのうち、肯定的に応援するハッシュタグの代表格「#ちむどんどんする」は10万2690件だった半面、否定的な見解が多いハッシュタグ「#ちむどんどん反省会」が47万9730件。「~反省会」が4倍以上に上ることが分かった。》

《時を追うごとに「~反省会」の勢いは加速。「ソーシャルインサイト」によると、4月は5710件しかなかったが、5月に6万7810件、6月に8万4500件と増え、7月に入って14万2810件に急増。8月も17万8900件とさらに増えた。まさに過熱する一方なのだ。》

 9月1日のNHK会長の定例会見でもこれについての質問が出たようで、会長は「ドラマの筋を変えろというご意見もいただきましたが、ドラマということでご理解いただきたい」とコメント。これに対しても「ドラマなら何をやってもいいんかい」という批判もツイートされていた。

視聴率の推移をどう評価するか

 さて問題は、この騒動が、制作側の思惑通りなのか、あるいは制作側の思惑を超えて視聴者に不快感を与えているのか、ということだ。演出上の仕掛けといっても、結果的に不快に感じて視聴者が離れていってしまうようでは失敗と言わざるをえない。

 その評価の具合をどう測るかは結構難しいのだが、ひとつの指標はもちろん視聴率だ。確かに一時期、反発が起きて視聴率が落ち込んでいる、というネットニュースの指摘もあった。

 例えば7月5日付の「ビジネスジャーナル」の見出しはこうだ。

「『ちむどんどん』なぜ失敗したのか?低視聴率の裏側&巻き返しが絶望的な理由」

https://biz-journal.jp/2022/07/post_305246.html

 記事ではこう書かれている。

《連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK)の視聴率が上がらない。6月30日放送の第59話は世帯15.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)、個人8.5%となっている。》

《物語がほぼ折り返し地点を迎えるというのに、『ちむどんどん』は『カムカムエヴリバディ』と比べても“ブーム”といえるほど盛り上がっていない。それどころか、いまだに「打ち切り」を求める声も根強いという。》

「ちむどんどん」の視聴率推移を他の朝ドラとグラフで比較というデータを示しているのは「ドラマの噂話 朝ドラ『ちむどんどん』視聴率一覧表&グラフ推移」だ。これを見るとかなりわかりやすい。

https://drama-uwasa.com/chimudondon-shichouritsu/

平均視聴率15・75%は歴代朝ドラでどの位置か

「ちむどんどん」の平均視聴率は15・75%。確かにこれまで好調だった番組と比べると低いという印象を受ける。

 前出の『女性自身』9月6日号は2000年以降の朝ドラの平均視聴率を一覧表にしているが、平均視聴率が16%を割ったのは次の4番組だ。

2007年「ちりとてちん」15・9%

2008年「瞳」15・2%

2009年「つばさ」13・8%

 同  「ウェルカメ」13・5%

 上記番組はいずれも2007~2009年の放送で、2010年にNHKは放送開始時間を15分切り上げて朝8時からにした。その頃から視聴率は復調し、2012年の「梅ちゃん先生」、2013年の「あまちゃん」あたりからは20%超えが当たり前という鉄板の時期が続いた。しかし2021年の「おかえりモネ」「カムカムエヴリバディ」はそれぞれ16・3%と17・1%。この1~2年、朝ドラの視聴率はやや落ち込みを見せている。

 このあたりは、テレビ全体の総世帯視聴率が落ちていることなど、視聴環境の変化が背景にあるので、一概に高い低いと評価をくだすのは簡単ではない。確かに歴代視聴率から見ると、「ちむどんどん」がやや苦戦したとは言えそうだが、それと総突っ込み状況とも言うべき事態とに相関関係があるかは単純に言えない気もしないではない。

 番組を見ながらSNSで呟いて意見を共有しあうとか、終了後「#○○反省会」というハッシュタグで感想を言い合ったり突っ込みを入れたりするというのも、この何年か広がってきた傾向だ。

「ちむどんどん」を猛烈批判する人たちの正体?

 そうした傾向について『女性セブン』9月8日号は「『ちむどんどん』を猛烈批判する人たちの正体」という記事を掲げている。匿名の芸能関係者がこうコメントしている。

『女性セブン』9月8日号(筆者撮影)
『女性セブン』9月8日号(筆者撮影)

「今回の朝ドラの放送以前にも、ドラマや映画の感想をSNSに投稿する際に、《#○○反省会》というタグが使われていました。それが、『ちむどんどん』では、連日トレンド入りするほど投稿が盛んになっているのです」

 そしてそれについて国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さんがこう解説している。

「反省会タグをつけることで一体感が生まれ、ある意味でお祭りのような騒ぎになっているのでしょう。

 タグで検索すると同じように批判的な人がたくさんいるので、『エコーチェンバー』という現象が起こります。こんなにたくさんの人が批判しているのだから、自分の意見も正しいに違いない、どんどん批判しよう、と投稿を重ねます」

 つまり「#ちむどんどん反省会」自体がある種のお祭り状態の中でエスカレートし、それを楽しむという現象がテレビの新しい楽しみ方として拡大しているというわけだ。

 さて9月30日の最終回へ向けて、制作側はこの騒動をどう回収していくのか。『女性自身』9月20日号は驚きのラスト秘話として「衝撃のヒロイン交代『最終週の主役は歌子!』」という見出しを掲げている。ラスト1~2週の展開で、視聴者を騒がせてきたという「ちむどんどん」の評価が定まることになるのは間違いないようだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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