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作家・三浦しをんさんの書店への思いと「BOOK MEETS NEXT」「HONYAL」の取り組み

篠田博之月刊『創』編集長
11月9日のトークイベントで話す三浦しをんさん(筆者撮影。以下も)

三浦しをんさんのトークイベントと「BOOK MEETS NEXT」

 11月9日土曜夜8時半から神田神保町の三省堂書店小川町店(本店移転のため営業中の仮店舗)で開催された作家・三浦しをんさんのトークイベントに足を運んだ。

 三浦しをんさんといえば、著書『舟を編む』には感動したし、「文学と戦争」からBLまで幅広いフィールドをカバーするまさに異能の作家で、これは行かざるをえまいと、事前に取材を申し込んでおいた。

 会場には事前に申し込んでいたお客何十人かが集まり、アットホームな雰囲気でトークが、そしてサイン会が行われた。やや意外だったのは、取材に訪れていたのが私以外ほぼ見当たらなかったことだ。というのも、このトークイベントは10月26日から11月24日まで全国規模で開催される「BOOK MEETS NEXT」というプロジェクトのひとつで、このプロジェクトを盛り上げるにはメディアの報道が大切なのだが、土曜の夜となると新聞社などは勤務時間外ということなのか。

三省堂小川町店でのトークイベント
三省堂小川町店でのトークイベント

「BOOK MEETS NEXT」は、このところ加速する書店の苦境に対して、本屋さんに多くの人の足をむけさせ、出版・書店界全体が盛り上がるようにと企画されたものだ。今年で3年目だが、昨年に増して規模を拡大し、全国各地で様々なイベントなどが繰り広げられる。

 その夜の三浦しをんさんのトークイベントは、本あるいは彼女の著書にまつわるいろいろなことが語られたのだが、書店や神保町の思い出についても話された。三浦さんにとっては、三省堂や紀伊國屋などの大型書店を回り、最後に最寄り駅の街の書店に立ち寄るのが楽しみだったのに、街の書店がどんどんなくなっていくのが哀しい、という話や、学生の頃、神保町はよく訪れ、書泉ブックマートやコミック高岡でマンガを買ったといった思い出を語った。書泉ブックマートもコミック高岡も既に閉店している。

トークイベント後のサイン会
トークイベント後のサイン会

「BOOK MEETS NEXT」のイベントは神保町などを中心に連日のように開催されており、多くの人が「本の街」神保町について語っている。

「BOOK MEETS NEXT」オープンイベント

 一連のイベントに先立つ10月24日の午後7時から新宿紀伊國屋ホールで「BOOK MEETS NEXT」オープンイベントが開かれた。私は昨年も参加したが、今年は子どもたちを対象にしたイベントになっていた。

高井昌史・紀伊國屋書店会長の挨拶
高井昌史・紀伊國屋書店会長の挨拶

 

 運営委員長を務める高井昌史・紀伊國屋書店会長の挨拶に続いて、「地球さんご賞」に入賞した小学生と高校生が受賞作品を朗読した。「地球さんご賞」は「生命」「環境」の大切さを理解し、自助、共助の精神で行動できる子どもの育成をめざしたもので、同賞の実行委員長である作家の安部龍太郎さんのスピーチも行われた。

 そして、次は『絵本 うたうからだのふしぎ』(講談社刊)の著者であるゴスペラーズの北山陽一さんと慶応大言語文化研究所の川原繁人教授の「トーク&ハーモニー」だ。どんな仕組みで人間の息が言葉や歌になるかを子どもたち向けにわかりやすく解説した2人のトークを受けて、北山さんと2つのグループによる合唱。会場につめかけていた子どもたちや親たちと舞台とのかけあいを含め、おおいに盛り上がった。

北山陽一さん(左)と2つのグループの合唱
北山陽一さん(左)と2つのグループの合唱

 

 今年の「BOOK MEETS NEXT」は昨年よりかなり規模を拡大している。例えば、地域連携により本にまつわるイベントを全国9都市で開催する。東京、京都、大阪などに加えて、山梨、名古屋、三重、神戸、広島、福岡など開催地は全国に広がっている。例えば山梨では、11月10日に同県ゆかりのお笑いタレントでいまや漫画家としても知られる矢部太郎さんのトークイベント&サイン会。16日にはこれまた同県出身のお笑いタレント、マキタスポーツさんのトークイベント&サイン会や、作家と一緒に同県の地場産業であるワインを飲みながら本について語るイベントもある。

 神保町でのイベントも、共立女子大学でも11月14日に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者・三宅香帆さんらの講演やセッションが行われる。

 この間、書店をめぐる現状について多くの発言をしてきた作家の今村翔吾さんも、11月5日に朝日新聞東京本社読者ホールで山崎怜奈さんとラジオの公開収録を行ったほか、11月21日にはトーハン特設会場で角川春樹さんと対談する。

 新宿の紀伊國屋ホールでも、11月8日には辻村深月さん、11日には角田光代さんと山本淳子さんの「いまを読む『源氏物語』」という対談など作家の講演会などが目白押しだ。

 10月26日~11月24日の開催期間中、全国の多くの場所で様々な講演やイベントが開かれる。興味ある方は「BOOK MEETS NEXT」のホームページをご覧いただきたい。

 https://book-meets-next.com/

経産省の書店振興プロジェクトチームの報告

 全国に書店がない市町村が増えている。今年春の調査データではそういう市町村がいまや28%に達している。

 そういう市町村に向けて、取次のトーハンでは、移動販売という試みも行っている。専用の車に本を積んで、書店のない地区に運びそこで販売するのだが、車の後部に棚が作られており、そこに本を並べる。あらかじめ何月何日にどこで販売を行うか告知したうえでそこへ車を走らせるのが移動する本屋さんだ。

移動する本屋さん
移動する本屋さん

 

 街の書店が消えてゆく状況を何とかしようという取り組みは、この1年ほど一気に増えつつある。

 この春からそれを積極的に行ってきたひとつが経済産業省だ。省内に「書店振興プロジェクトチーム」を作り、齋藤健・前大臣自ら書店に視察に赴いたり、書店主らと車座ヒアリングを行ってきた。

 そうした経産省の取り組みの中間総括として、10月4日、「書店活性化のための課題(案)」が「経済産業省書店振興プロジェクトチーム」名でホームぺージに公開され、パブリックコメントの募集が行われた。書店の現状や課題を、外国の例なども紹介しながらまとめ、書店経営者向け支援施策として補助金などの活用ガイドも示されている。

 公開されたものとして興味深いのは、「全国書店ヒアリングでの声」と題して、北海道から沖縄まで、各地の経済産業局が地元の書店に聞き取り調査を行ったデータだ。それを見ると、多くの書店が、本や雑誌を売るという書店経営だけでは書店の経営が厳しくなっているという認識を持っていることがわかる。存続のためには様々な施策が必要で、今はそれを多くの書店が模索しているようだ。

 私が編集した『街の書店が消えてゆく』(創出版刊)でも報告したように、街の書店がどんどん姿を消していく一方で、この10年ほど「独立系書店」というものが増えている。この新しい動きも、いま書店界をめぐって大きな構造的変化が起きつつあることを示しているのだが、この動きに関連して、トーハンが大きな取り組みを開始し、反響を呼んでいる。トーハンと並ぶ二大取次のひとつ、日販も、いろいろな取り組みに関わっていることは、以前、下記の記事で紹介した。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b3994b337a36765a00952d6491cfbdd51aeb7b8e

日本では書店の閉店が続いているが、欧米では書店市場が拡大しているという驚くべき違いは何故?

 ここではこの10月からトーハンが取り組み始めた「HONYAL」についてもレポートしよう。

「HONYAL」説明会での展示
「HONYAL」説明会での展示

トーハン本社で「HONYAL」説明会

 10月17日にトーハン本社で行われた説明会会場には、小型書店のイメージを示すコーナーが設けられ、「本屋、やりませんか?」という看板が立てられていた。HONYALは小型書店を開業したいというニーズに応えていくための仕組みだ。

 戦後日本の出版界・書店界の発展に寄与したのが委託販売制度で、取次が書店に雑誌や書籍を送品し、売れ残ったものは返品する。大量送本・大量販売というそのシステムは、市場が拡大している間は大きな働きをしてきたのだが、1990年代半ばから市場が縮小している現状においては、様々な軋みももたらしている。取次が一方的にパターン配本する「見計らい」というやり方への批判的見方も増えている。独立系書店の場合はほとんど見計らい配本に応じず、販売する本を自ら選んで発注していく。自らが売りたい本を売るという考え方だ。雑誌を置かない独立系書店も珍しくない。

 街の書店がどんどん姿を消し、一方で独立系書店が増えていくという現象は、戦後の出版流通が変わりつつあることを示している。トーハンが始めたHONYALは、それに対応したものだ。

 取り扱いは書籍の注文品のみ、配送は週1回。その流通フローの簡略化によってコストを減少させ、従来は取り扱わなかった少額取引に対応するという仕組みだ。これまで個人が書店を開業しようと思っても、大手取次が要求する取引保証金(信認金)が高くて取引ができないという現実があったが、この仕組みでは信認金は原則不要となる。従来は開業時に一括払いとなっていた初期在庫費用も分割払いができるようになった。

 これまでいろいろ指摘されてきた書店開業時のハードルを一気に下げ、小規模の書店開業を支援していこうという仕組みだ。

 10月17日はそのHONYALのサービスが開始された日で、午前と午後に分けてマスコミ向けに説明会が開催された。当日はトーハン書店事業本部の本部長を務める堀内洋一取締役常務執行役員と山口陽洋書店事業本部マネージャーから、書店を取り巻く現在の状況やHONYALについての説明が行われた。そしてその後、HONYAL開発に関わってきた渡辺潤平さんとのクロストークがなされた。

 渡辺さんはもともと博報堂に勤めていたがコピーライターとして2007年に独立。並行して2022年には山梨県北杜市にカフェを併設した書店「のほほんBOOKS & COFEE」を開業。一方、トーハンでは社内プロジェクト「Book Boost Lab.」が中心となってHONYALに至るビジネスモデルを開発しており、渡辺さんも自身の書店経験をもとに協力関係を作っていったらしい。

 その日のクロストークは「街に本屋があることの意味と意義」と題して行われたのだが、なかなか興味深いものだった。ここでその主な部分を紹介しよう。

説明会でのクロストーク
説明会でのクロストーク

クロストーク「街に本屋があることの意味と意義」

渡辺 私は広告のコピーライターが本業なんですが、2年半前に北杜市に書店を開業して、今は二足の草鞋というか兼業本屋的生活をしています。北杜市に移住したのは3年前なんですが、家自体は7年前に作って、週末だけ2拠点居住というのを行っていました。その頃から北杜の豊かな自然とか、美味しい水とか食べ物などに魅了されていたんですが、「ここには本屋ないね」という話をずっと妻ともしていたんです。

 山だから夜が長いんで、のんびり本を読みたいんだけど、「本買えないじゃん」ということで、結局amazonに届けてもらうみたいなことが続いて、「なんだかなー」と。誰かが本屋さんやってくれないかなと話しているうちに、自分でやってみようと思い立って、本屋開業に至りました。

 でも本屋ってどうやって開いたらいいんだろうと、思いっきり行き詰まるところから始まったんですね。悩みに悩んで博報堂時代の大先輩に相談に行ったら、「まず本屋でバイトしてこい」と言われまして、板橋の書店さんで週に2日、2カ月間バイトしたんです。

 その過程でいろんな方に言われたのは、「広告屋に本屋なんかできないよ」と、あとは「トーハンさんが口座作ってくれるわけないですよ」ということでした。

 トーハンってそんなに偉いのか、これはもうなめられちゃいけないなという気持ちもあって、事業計画書を必死に書いてプレゼンしたんですね。結局、口座を開設していただくに至るのですが、口座を開いてもらったのを幸いにいろんなコミュニケーションを取るようになりました。そして「Book Boost Lab.」というトーハンさんの新規事業を切り開くセクションのクリエイティブディレクターを拝命し、協業するに至ったのです。

 その過程で僕が一番感じた違和感は「なんでこんなに本屋は始めにくいんだろう」ということでした。本当は、誰もが始めやすくて、やめた後も次のキャリアが待っているという状態でないと業界として健全にならないんじゃないか。

 よく読書離れとか言われますが、でも本が好きで、本がないと落ち着かないみたいな人の割合って実はあんまり変わってなくて、今は本屋さんのあり方が必需品から嗜好品に変わりつつある節目なんじゃないか。そう考えると、そんなに未来は暗くないんじゃないかと思ったんです。そういう大きな流れの中にHONYALというものの必然性があるんじゃないかと考えています。

山口 私はかつて10年ほど書店で働いていたんですが、その時のことを思い出しました。書店では、お客としてどういう人が来るかわからないから、売れる確率の高いものを並べておこうという考え方をしていました。よく売れてる上位ランキングをデータとして作った本屋、それによって金太郎飴みたいな店ができるんですが、そのうえで前年よりも売り上げが落ちていくという現実がありました。

 自分が読者の立場で考えた時に、書店では読みたい本を探しきれないなという思いが正直ありました。私、わりと本好きな方ですけど、本ってパーソナルなものなので人に薦めることって書店員とはいえあまりやってなかった。やっていたのはPOPレベルです。人に薦めるというポテンシャルが書店業界でそんなに発揮されてないというのは薄々感じていたことです。ただ、それをやるのは難しいなと思ってました。

これから求められる本屋さんとは…

渡辺 店主が自分の売りたいものを並べて自分の意思で売っている本屋さんというのは、買いたくなる空気を宿してると思うんです。そういう本屋さんがこれから求められると思います。

 まだ始めたばかりであまり大きなことは言えないし、大変僭越ながらなんですが、本屋さんが〝衰退〟してると言われるのは、本屋さん側にも責任があったんじゃないかと思ってます。これはユーザーとしても思ってました。

 というのは、本屋ってあまり考えずに営業しようと思うとこんなに楽な仕事はないんですよね。朝、取次からダンボールが届いて、それを開梱して並べ、売れない本をその箱に詰めて返せばいいという、そういう経営もできるんですよ。

 その結果が、金太郎飴書店という話がさきほどありましたが、意思なく入ってきた本を並べて売れない本を返していく書店なんじゃないかと思います。本屋に限らずスーパーでも、多分そういう店は流行らないと思うんです。売る側の努力をしっかりして企業努力を続けないと、その書店が衰退する。本棚が活性化するというか買いたいと思う本を並べることができると、実際に本が売れるんですね。

堀内 私ども取次も、所詮BtoBで、BtoCでなかった、と言い訳するわけじゃないんですけど、書店店主様が何を求めているのか、どういった手法でやりたいのかというお話は、日頃お互いの仕事に忙殺されて伺う機会がありませんでした。これは我々の戒めとしてまだまだやるべきことがあるなと思っています。

渡辺 僕が書店を開業した時、トーハンさんは立地とか周辺環境から逆算して売上予測みたいなものを出してくださったのですけれど、金額がえらい低かったんですよ。「馬鹿にしやがって!」と思うくらい低かった。でも普通にデータ化したらそうなるんだなとも思いました。どこまで努力して伸ばせるかというのは自分の覚悟と才覚だと思ってるんで、絶対見返してやるというつもりで、トーハンさんの売上予測の10倍ぐらいの数字をこの夏は確保できたんです。

 それはトーハンさんに対しての僕なりのアンサーですし、そうなることでトーハンさん側の緊張感も上がってくるという相乗効果もあると思います。こういういい意味での緊張感はすごい大事じゃないかと思っています。

堀内 誤解なきように言うと、弊社が手を抜いてその売り上げ予測を作ったわけではありません。大手の書店様も地域のお客様も同じロジックで公開データの中で作っているんです。結果、10倍ぐらいの売り上げがあったというのは、やっぱりそこに「意思ある書店」ということが体現されているということで、我々としては正直、目から鱗です。

山口 どうしても人口が少ないという理由で、商圏人口いくらで全国でこれぐらい本が売れてる。じゃあこれくらいになるでしょう、というやり方なんですね。私も潤平さんのお店にお伺いさせていただきましたが、遠くからでも来たいなと正直本当に思ったんです。予測とは違う世界なんだなと気づきました。

「目的地になる本屋」というキーワード

渡辺 僕が最初から企んでいたのが「目的地になる本屋」というキーワードだったんです。今まで本屋は中継点というか、どこかに行く途中に立ち寄る場所だったけれど、「このお店に行きたい」というモチベーションを作ることができたら商圏が一気に広がるんじゃないかと思っていました。

 僕の本屋がある北杜市は温泉があってホテルもいっぱいあって、じゃあ本屋に行くついでにここの温泉入って帰ろうかとか、デートでここのレストランに行きたいからその前に本屋でゆっくり過ごして帰ろうと、カップルの方がおしゃれしてくるとか、そういう場所になってきてるんですね。

 あと僕は最初から計算してたんですけど、地方だと車移動ですよね。東京だと本を3~4冊買って電車に乗って帰るの面倒くさいですけど、車だと全部積んで帰れる。お客さんの数が少ないんだったら買ってくれる本の冊数を増やしていけば売り上げ立つじゃんという計算をしたら、今のところ作戦がうまくはまっているという感じです。

 書店を目的地にしていくとか、いっぱい本を買いたくなる空気作りみたいなことをやっていくと、本屋さんってまだ全然、可能性あるじゃんというのが、2年半やってみての実感です。

 もう一つ、本屋を作った時に周りの人に言われて、良いフレーズだなと思ってポスターのコピーにもしたんですけど「本は読まないんだけど本屋は好き」という人って結構いるんですね。本屋さんが持ってる空気感とか、そういう場がある街がもたらす影響はすごくあるし、そういう場所をどんどん増やしていくということも、実現したいことの一つ。その大きなシンボルが、HONYALというサービスになるんじゃないかと期待しています。

 街に本屋がないという市町村が28%もあるというのはかなりまずい状況だと思ってます。本屋がないと子どもも本を選べないんですね。本を選ぶという形で僕らが持ってる原体験が、もう今28%の子どもが毀損されているというのは、文化的にもまずい状況じゃないかなと個人的には危惧しています。

堀内 我々取次の営業として今回この事業に向き合いたいと思ったのが、私も営業歴35年ですが、昔お世話になった書店がどんどんやめていってるわけです。その時に自分たちは何ができたのかな、どうお助けができたのかなということを、改めてこの事業をやるにあたって、私だけじゃなく営業に携わった者は全員感じてると思います。

 今回、HONYALという少額の参入障壁が低いスキームを作ったんですけど、ひょっとするとこのスキームがあれば通常取引のお客様を救えたんじゃないかという戒めもあります。逆に、最初はHONYALのモデルみたいな取引という条件でも、予測を大幅に上回られた場合は通常取引にさせていただくこともあると思います。これはどちらでも使えるよう汎用性を持たせて、何とか私どもは本屋さんを残す、増やすという努力をしていきたい。僭越な言い方ですけど、そんなふうに奮い立っています。

書店界を取り巻く地殻変動

 この1~2年、書店をめぐる様々な動きを取材してきて痛感するのは、今起きている街の書店の閉店の動きは、書店界に大きな構造的変化が起きつつあることの現れだということだ。売れ残った本は返本できるという委託販売制度のもとで、大量の本や雑誌が流通した。市場全体が右肩上がりだった時代には、それは成長を促す大きな要因となった。

 しかし、本屋や雑誌が、スマホやネット書店に押されてかつてほど売れない時代が1990年代半ば以降進むにつれ、以前の流通システムに対するいろいろな見直しが不可避となった。今はまさにその大きな過渡期にあるといえよう。委託販売システムを見直して買い切り主体の流通を考えようという提案や、今回のトーハンのHONYALの取り組みも、書店業界全体の構造的変化を背景にした新たな動きと言えよう。

 次々と街の書店が消えてゆく現状をどういう対応によって変えることができるのか。出版界・書店界は今大きな転換期を迎えているのは確かだろう。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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