ABEMA Primeで死刑囚の獄中結婚特集!オウム元死刑囚とやまゆり園事件・植松死刑囚について議論
「死刑囚の獄中結婚」について「ABEMA Prime」で議論
10月28日夜、「ABEMA Prime」でカンニング竹山さんをMCとして「死刑囚の獄中結婚」についてスタジオトークを行った。オウム幹部だった新實智光元死刑囚(既に執行)の妻である新實由紀さんと私がゲスト出演した。
由紀さんは、2018年のオウム幹部13人死刑執行の時に夫を失い、私の編集する月刊『創』(つくる)に、執行の日の経緯を書いた手記を寄せ、その後2019年にその後の様子についても手記を掲載した。当時はまだ仮名で、顔も伏せていたが、今回はスタジオトークで実名・顔出し。しかも、生番組でトークを行うのは初めてとあって、控室で打ち合わせをしていた時から緊張していた。
その由紀さんが夫の執行後に書いた手記の主要部分は、このヤフーニュースでも当時紹介した。生々しい内容で当時反響を呼んだ。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/2e0d484081653a95dce7ec95b6be4000f19eeed5
元オウム新實智光死刑囚の妻がつづった夫の死刑執行をめぐる衝撃手記!
今回、ABEMA Primeのトークでも語っていたが、由紀さんは今も元夫の遺骨を自分で保管しており、新實姓のままだ。番組でも執行当日の模様を改めて語ったが、やはり本人が顔出しで語るのはかなりリアルで、興味ある人はぜひユーチューブで番組の動画を見ていただきたい。
私は主にやまゆり園障害者殺傷事件の植松聖死刑囚の最近の獄中結婚について話し、そもそも死刑囚の獄中結婚がどんなふうになされ、どういう意味を持っているか語った。これについては10月10日にヤフーニュースにあげた下記記事が大変大きな反響を呼んだ。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/419548cf821381487a39a980b347fc15b11dfa44
衝撃!やまゆり園障害者殺傷事件の植松聖死刑囚が獄中結婚! しかも何と相手は障害を持つ女性
獄中結婚だけでも驚きだが、相手女性が障害を持つ女性だったというのが衝撃だと番組でも話した。
新實さんの結婚における恋愛感情と信仰の関係
先にあげたヤフーニュースの記事では、新實さんのケースは紹介しなかったが、ここで少し説明しておこう。もともと死刑囚との獄中結婚や養子縁組が知られるようになったのは、連続射殺事件の永山則夫さんや、連続企業爆破事件の大道寺将司さんらの事例で、左翼系の獄中者に対する支援の延長というケースが多かった。元オウムの新實さんのケースもその延長と言ってよいかもしれない。
実は「ABEMA Primeのスタジオには新實由紀さんの親友の、元オウム幹部・土谷正実さんの妻も来ていた。その2人の話が出た時、スタジオでは、獄中結婚はオウム教団の意向でなされたのかと誤解する空気もあったが、そうではない。確かに由紀さんは元信者で、新實元死刑囚との関係は、最初は信仰と恋愛感情とがからまったものだったと思うが、土谷さんの妻はオウムとは全く無関係の女性だ。土屋元死刑囚の妻の手記も2019年に『創』に掲載しているから、後で見つかったら閲覧できるようにしよう。
いずれにせよ、前述した左翼獄中者やオウム幹部の獄中結婚は、ある種の背景を前提にしたものだが、この10~20年ほどの獄中結婚のケースはそれと異なる。そのへんは語り出すと長くなるので割愛しよう。
今回の番組で新實由紀さんはオウム幹部だった夫との出会いや執行の日のことなどを語ったが、案の定、「地下鉄サリン事件の被害者のことをあなたはどう考えるのか」といった突っ込みを受けていた。私は隣で聞いていて、由紀さんとオウム幹部の夫とを同列にしてサリン事件の責任を追及するのは違うのではないかと話した。後で考えると、実はそれは大事な問題で、もう少し由紀さんの助け船となるような話をすべきだったと思った。
確かに由紀さんの場合は、かつては自身も一時期オウム信者だったから、世間から批判を受けることはあるわけだが、犯罪を犯した人間とその妻に対して同じように被害者感情をぶつけるのは乱暴だと思う。池田小児童殺傷事件の宅間守元死刑囚と獄中結婚した女性のように、むしろ夫に改悛してほしいという思いから結婚に踏み切る女性もいる。結婚に至る動機は様々だ。
死刑確定者が内面を語り合える貴重な存在
もうひとつ、これもトークで十分に強調できなかったが、獄中結婚が、犯罪を犯した人に与える可能性にも思いを馳せる必要がある。元オウム幹部たちには、自身の死刑に直面して、事件当時心酔していた元教祖からの微妙な距離感が生じていた。新實元幹部はそうした中で、最も麻原元教祖に心酔していたと言われた人物だが、その彼でさえ、最後は元教祖を呼び捨てにし、「一緒には逝かない」と言っていたという。
そのあたりは、獄中結婚が作り出す可能性としてとても重要なことなのだが、スタジオトークでは掘り下げることができなかったのは残念だった。
新實元死刑囚が自身を見つめ、内面を掘り下げていくには、自分の思いを語る相手、由紀さんの存在がとても大きかったと思う。死刑確定後、彼の方から結婚の申し込みがなされたというが、死刑確定者に接見禁止がついて、語り合う相手がいなくなってしまうことを新實元死刑囚も恐れたのだと思う。
夫が死の直前に自身の信仰や事件についてどう考えていたかということは大事な問題で、スタジオでも由紀さんはそれを語ろうとしていたが、『創』2019年9月号の手記では、夫の執行から1年後の心境をこうつづっていた。
《ゴールデンウイークの10連休に改めて日記をじっくりと読んでみて、私はびっくりしました。世間で言われていたのと全く違う、夫の考え方が随所に書かれているのに気がついたからです。
「誰かを崇めるような生き方ではなく、自分を信じる原点に戻るということ……」
「同じような思いを今いる法友達にはしてほしくない」
「教祖をいろんな角度から見て判断してほしい。僕はもう教祖から背を向けている。ついていかない」
「松本家を信仰することがいかに馬鹿げているかを知ってほしい。何の功徳にもならない」
最後まで元教祖への帰依は変わらなかったと言われていた夫ですが、日記にはそれと全く異なる思いが書かれていました。夫の最後の日記を読み、ああそうだったんだ、そうだよね、と、全てがストンと自分の中に入ってきました。》
《今、私は夫と同じ考えです。
元教祖に対しても、オウムの教えに対しても、もちろん松本家に対しても、全く信仰心はありません。
夫は一貫して元教祖のそばにいると言われていましたが、日記を読む限り、そうではありません。夫は、オウムの教えを極めた上で、教えや元教祖、松本家と決別したのです。》
《「僕が教祖と決別したことは公開して欲しい。法友たちのために。でも日記、手紙などの現物を公開しないでほしい。あとは判断に任せる」
それが夫の願いでした。
夫の文章を読んでいると、元教祖に対しても教えに対しても達観して見ているかのような印象を受けます。
今私は、こうしなければならない、ではなく、本当はこうしたい!という心の声を大切にしています。未来はすでに決まっているものではなく、こうしたい!と自ら決めてつくっていくもの。信じる先がいつも自分であることの大切さを、夫は最後に教えてくれました。》
結婚後の2人がたどったのは、オウムから決別の道程だったというわけだ。新實元幹部にとっては、その苦しい道をたどるためにも由紀さんが必要だったのだと思う。
接見禁止がつけられる死刑確定者にとって獄中結婚の目的は、第一に、接見できる相手を確保するということだが、それにとどまらず、自身が死に直面していろいろなことを考えていくうえで、その内面を語りあえる貴重な存在を得ることだ。特に植松死刑囚にとっては、相手が障害を持つ女性ということで、両者の関わりの中でどんなことが生じ得るのか、興味深く見ていこうと思う。
植松死刑囚獄中結婚の相手A子さんの手記
さてABEMA Primeの番組は、植松死刑囚の獄中結婚の相手A子さんも観ており、その感想も含めて、自身が書いた文章を送ってきた。この間、彼女が障害を持つ女性であることがいささか強調され、誤解が生じていないかも心配しているらしい。前号にも書いたが、彼女は時々記憶障害はあるものの、日常生活を送っている分には周囲が障害者と気づかないような存在だ。自分の思いについても自分の言葉で説明したいという気持ちもあるようなので、ここに彼女の手記を紹介したい。自身の署名で植松姓を名乗っているのは彼女自身の意思によるものだ。
以下、10月30日に届いた彼女の手記を掲載する。
《植松聖死刑囚の妻にあたるA子です。
少し誤解が世間に生じているように感じたので、短いですが創出版の篠田編集長にお願いをして、このような文章を書かせていただきました。
私が障害者という説明がなされているため、どうして障害者を多数殺傷した植松聖死刑囚が障害者と結婚するのか、おかしいのじゃないか?という意見がネットなどに多数あったので、そこを説明させていただきたいと思います。
私は高校1年生の頃に知的障害のある男性からレイプという名の性的暴行を受けました。目が覚めた時には記憶が飛んだ状態で裸にされていました。処女だった私は痛みがあったかも忘れていますが、その場所から無我夢中で逃げました。
その知的障害の男性は私の写真を(どんな写真を見せていたかは分かりませんが)周りの男性達に自慢をして見せびらかしていました。
その中で私の入院していた院長先生に言ってくださった患者さんがいて、私は隠し通そうとしていましたが、その性的暴行が病院内で明るみに出ました。けれどもレイプから1週間経っていたこともあり、警察が動いてはくれたものの、彼の否認と証拠不十分で、その彼は逮捕もされませんでした。
事件にはならなかったけれど、その事件の後遺症で私は記憶障害(解離性健忘)という診断を複数の医師から受け、今はたくさんの感情を複雑に組み合わせながら生きています。
知的など障害者というだけで誰かを差別することは間違いだと思い、障害施設(軽度から重度)やそういう方達のグループホームでボランティアやアルバイトをしましたが、恐怖心というものはどうしても拭えませんでした。
世間では、私が植松聖さんに意思疎通のできない障害者を殺してもらって彼がヒーローに見えたハーレクイーンのような女性だなんて声もありますが、そんなことは全くありません。
この事件は、とてつもなく理解し難いものが深く深く闇に包まれています。私がまず彼に会いたいと思ったきっかけは、この事件を風化させたくなかったからです。
『月』という映画を観ましたが、私は終始涙が止まらなかったです。どんな気持ちでどんな位置で観たらいいか分からなくて、嗚咽のように声を押し殺して涙しました。この作品を創り上げてくださった製作陣の方達には感謝しております。そして、彼は美しさを非常に重要視してる方なのできっと世間の考えてるA子(私)は全くの違うものだと思っています。
SNSなどには私の過去に同情してくださる方もいて、私はその方達には少しだけ心をあたためてもらいました。ありがとうございます。
少しでも、相模原市障害者殺傷事件について語り合う時間が今の世の中に増えればいいと思っています。》(植松A子)
死刑囚の獄中結婚の持つ意味と実態については、今後も報告していきたいと思う。