投票日はケーキ食べ放題の国がある
「投票日はケーキがたくさん食べられるよ」
アイスランドの各政党を取材中、この言葉を私は何度も聞いた。
「ケーキやお菓子、おいしいものが食べられる日だよ」「お祝いだから」と。
「何を言っているんだろう」と私は思っていた。
9月、アイスランド国政選挙の取材に来ていた私にとって、滞在中は毎日がカルチャーショックの連続だった。
「投票日はケーキでお祝いする」も、間違いなくそのひとつだ。
各政党が選挙期間中に街中に出す選挙オフィスは、投票日に姿を変える。
まさにカフェやレストランでの「食べ放題」
投票日甘いものをたくさん食べる国ランキングをするなら、北欧の中でアイスランドが間違いなく王者だ。
特に豪華だったのは断トツで社会民主同盟!
現場で目にした大量の食事を皆さんにシェアしたい。
この国では「手作り」に徹底的なこだわりがある。店で購入する人もいるが、忙しい時期にも関わらず政治家も党員も自宅で料理をして持ち運ぶ。
ちなみに私はケーキの取材にきたわけではない。
この後は他の政党の選挙オフィスも取材に行きたかった。だから全部を試食したり、ケーキの名前をひとつひとつメモする余裕はなかった。
北欧のお菓子研究をしたい人には天国だろう。
これが全てではない。出席者はどんどん食べるので、出された食事はすぐになくなる。次々と新しいメニューが運ばれてくる。
テーブルには市民や政治家、党員が自由に座っている。すでに事前投票をしたという市民も、お祝いの共有したくて足を運ぶ。
選挙の話をしたり、関係のない話をしたり、わいわいと楽しそうだ。会場には笑い声が響く。
投票日当日も選挙運動は盛んにおこなわれる国なので、「この後は市民に投票しようと電話するよ。休憩にきたんだ」という党員もいる。
投票日に笑顔の大人を見て育つ
子どもはこうして投票日を笑顔で楽しむ大人を見て育つ。この国の人が自然と投票に行くようになることが不思議ではなくなってきた。
会場の出入りは厳しく管理されているわけでもなく、誰もが自由にこの場所を出入りできる。
現地の国会議員が語る「投票日はお祝い、家族の日」
私が夢中でケーキの写真を撮っていると、話しかけてくれたのはヘルガ・ヴァーラ・ヘルガドッティル国会議員。彼女もケーキを手作りしたという。
あぶみ「ここで何が起きているか教えてくれますか?」
ヘルガドッティル国会議員「みんなのためのカフェを開いているんです。今日は投票日。政党の人たちがケーキをたくさん持ち寄るんです」
あぶみ「政党を支持していない人も出入りして、ケーキを食べられそうですね?」
ヘルガドッティル国会議員「もちろん!オープンハウスですから、全く問題ありません。アイスランドでは投票日に市民がいろいろな政党オフィスを訪問するのが普通ですから。このパーティーに参加するのに、党員である必要はありませんよ」
あぶみ「政治を楽しんでいますか?」
ヘルガドッティル国会議員「ええ!社会が成長する手助けができますから」
あぶみ「アイスランドで投票率が高い理由はなぜだと思いますか」
ヘルガドッティル国会議員「カルチャーだからかもしれません。子どもの頃から、投票日は親におしゃれをさせられていました。今日も会場には私の子どもや孫も来ています。家族みんなで一緒にお祝いする日。人権ですね」
彼女の口から、投票日はカフェであり、パーティーであり、家族の日であり、おしゃれをする日であり、人権だという言葉が次々と飛び出した。
北欧の人々は、選挙を楽しむ天才だなと改めて思う。
Photo&Text: Asaki Abumi