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「賞味期限切れ」でもすぐ捨てないで 卵の本当の賞味期限とは

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
卵の賞味期限表示(筆者撮影)

先日、英国のスーパーマーケットとして初めて「カーボンニュートラルな卵」が発売されたというニュースが報じられた(1)。

卵は、保存方法や賞味期限に関して、誤解されていることが多い。たとえば、ある料理研究家の方が、卵の賞味期限がせまってきた時の対処法として「複数個まとめてゆでて冷蔵庫に入れておく」と答えていたが、ゆでてしまうと、生より日持ちが短くなってしまう。ゆでると「リゾチーム」と呼ばれる菌を溶かす酵素の働きが失われてしまうので、生の状態で保管する方が日持ちが長いのだ(2)。

卵の賞味期限は「生で食べる場合」

食品の保存に関して長年研究してきた、東京農業大学客員教授の徳江千代子先生は、監修書籍などで、「卵の賞味期限は、生で食べられる期限です」と解説している(2)。

日本卵業協会は

卵の賞味期限は「安心して生食できる」期間です。期限を過ぎた卵は加熱調理して食べて下さい。(70度1分以上、他の食材と混じる場合は75度1分以上」

と述べている(2)。

また、医師や管理栄養士が監修した書籍『まいにちタマゴ』には、

「食中毒を防ぐために大切なのは温度管理です。37度の環境にタマゴを1日置いておくと、生食では危険な状態になりますが、10度で保管すれば50日間置いておいても大丈夫です」

と書かれている(3)。

日本卵業協会の情報を基にYahoo!JAPAN制作
日本卵業協会の情報を基にYahoo!JAPAN制作

賞味期限が過ぎたらどれくらいまで大丈夫なの?

では、はたして、卵の賞味期限が過ぎたら、どれくらいまで大丈夫なのだろうか。これは各家庭の冷蔵庫の状況によって千差万別だろう。

「卵博士」と呼ばれる卵の専門家で京都女子大学家政学部食物栄養学科の八田一(はった・はじめ)教授に、2021年10月に取材したときには、次のように「ひび割れがあるかないかによって全く違う」と説明されていた(2)。

賞味期限を超えてどれくらい安全なのかというのは、卵の殻の表面のひび割れ状態によって、全然違うんです。一個一個の卵をちゃんと調べて、安全な、ひびのない卵であれば、冷蔵庫に置いておけば、賞味期限を超えても、何日もいけるんです。生で食べても大丈夫だし、それを超えたとしても、加熱すれば、あと3ヶ月は大丈夫かと思います。けれども、そういうのは今の流通の中ではできないじゃないですか。

八田先生が監修されたNHK「ガッテン!」では、「賞味期限が切れてから2週間までなら、加熱調理して食べることができる」と説明されていた(4)。万が一のリスクを考慮すれば、それくらい短期間の表現になるのだろう。

卵の食中毒は年間何件くらい?

卵といえば、どうしても食中毒のことが頭に思い浮かぶ。卵の食中毒は、どのくらい発生しているのだろうか。 厚生労働省のデータを見ると、年間で2件発生している(厚生労働省食中毒統計調査、2020年度より)。

出典:厚生労働省食中毒統計資料 2020年度  画像制作:Yahoo! JAPAN
出典:厚生労働省食中毒統計資料 2020年度  画像制作:Yahoo! JAPAN

卵の食中毒発生件数はなぜ激減している?

卵の食中毒発生件数を時系列で見てみると、過去には多く発生しているが、直近では少なくなっている。

出典:厚生労働省食中毒統計資料 2020年度  画像制作:Yahoo! JAPAN
出典:厚生労働省食中毒統計資料 2020年度  画像制作:Yahoo! JAPAN

なぜこれだけ少なくなっているのか。

日本卵業協会は、次のように回答した(2)。

次の要因が考えられます。

・農林水産省の鶏卵のサルモネラ総合対策指針により農場段階の衛生対策の徹底

・厚生労働省の鶏卵選別包装施設の衛生管理要領によりGPセンターの衛生管理の徹底

・サルモネラの鶏腸管への定着を軽減するサルモネラ不活化ワクチンの普及

・生食賞味期限表示により賞味期限表示後加熱調理の必要性周知

・家庭内での正しい衛生管理の普及

また、八田一先生は、次のように答えてくれた(2)。

賞味期限制度が始まった、その制度の中で、生産者が衛生管理をしっかりするようになったのと、サルモネラのワクチンが広まってきたのがあって、サルモネラ食中毒は激減しました。

冒頭に述べたように、卵の賞味期限は「生でおいしく食べられる期限」であることを知り、少し過ぎたら加熱調理して食べ切るようにしよう。

卵の賞味期限や保存方法については、2021年の取材記事、「卵は賞味期限過ぎたら捨てる?意外に知らない、卵の正しい保存方法 Q&A」(2)をぜひ参照していただきたい。

ニワトリは、1個の卵を24時間以上かけてようやく産み出している(5)(6)。命の結晶を無駄にしないようにしたい。

参考情報

1)英スーパーマーケット初!カーボンニュートラルな卵を発売したのは?パル通信(60)(井出留美、パル通信60号、2022/8/4)

2)卵は賞味期限過ぎたら捨てる?意外に知らない、卵の正しい保存方法 Q&A(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/10/26)

3)『まいにちタマゴ 専門家が教える最高の食べ方』著:タマゴ科学研究会、医学監修:近藤和雄、栄養監修:峯木眞知子(池田書店)

4)卵料理の新世界!ふわふわプリプリ自由自在(NHK「ガッテン!」2016/5/18、八田一先生監修)

5)賞味期限切れ卵は生で何日食べられる?ニワトリが24時間かけて産んだ卵を賞味期限で容赦なく捨てる私たち(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/5/17)

6)「卵の賞味期限2週間」実はもっと日持ちする?昔は「乾物」だった卵の知られざる歴史(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/11/5)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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