エホバの証人 国内の全信者への通知 元信者らはどうみる?輸血拒否で亡くなる現場の実態も明らかに!
5月10日、エホバの証人は、厚生労働省からの要請を受けて、全信者に向けて「子どものしつけ」「医療上の決定」「排斥された子どもの養育」などに関する通知を出したことを公表しました。
これまでエホバの証人では、鞭を打つ行為や子どもへの輸血拒否の問題、さらには信者をやめると排斥されて(家族から口を利いてもらえなくなる)忌避行為をうけるなど、教義からくる様々な宗教的虐待が問題になってきました。
今回、エホバの証人から信者らに出された通知内容について、元信者、弁護士らはどのように見たのでしょうか。私たちは教団の見解をどのように受け止めればよいのでしょうか。
「エホバの証人は児童虐待を容認していません」
3月31日に厚生労働省は、エホバの証人との会合のなかで「子どもへの輸血を拒否するよう指図(さしず)や強制をしない」「『宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A』(昨年12月に発表)の周知」などを要請しました。それを受けて、エホバの証人は、下記のことを日本のすべての会衆(信者)に伝えたといいます。
「子どものしつけ」については「エホバの証人は児童虐待を容認していません」としています。
「医療上の決定」については「エホバの証人は、輸血を含め、どんな治療を受けるかについては、一人一人が自分で決めるべきことであると考えており、そのように教えています」「誰かから強制されたり、圧力をかけられたりして決めることではありません」としています。
「排斥された子どもの養育」について「未成年の子どもが排斥された場合、親には引き続き子どもを育てる責任がある」などと答えています。そして最後に「エホバの証人の代表者たちは、こども家庭庁に対して、必要であればさらに情報交換を続けることができる旨を伝えました」ということです。
元信者、弁護士らの受け止めは?
5月12日に開かれた立憲民主党を中心とする国対ヒアリングでは、この声明に関する元信者、弁護士らの見解が報告されました。
元エホバの証人3世の夏野ななさん(仮名)は、今回の回答について「これまでに例をみないことである」としながらも、回答自体は「非常に残念なものと言わざるをえない」と話します。
「一見、協力的に見えますが、実態としてまずQ&Aの周知を拒否している」とみています。
たとえば「布教活動を強制する、ハルマゲドンで滅ぼされてしまうと脅すなど、Q&Aにおいて児童虐待であると明記されている多くの問題については、この回答の中で触れられてすらいません」さらに「『血を避ける』とはっきりと述べており、輸血を受けるという判断をした信者への処分に触れられていません」と指摘します。
鞭打ちの問題についても「教団が過去の鞭の推奨の事実を認め、また鞭は虐待であるということを明言し信者に対して徹底的に周知しない限り、鞭はなくならないと思う」と夏野さんは話します。
「これで解決するかといえば、まったく不十分」
続いて、母親がエホバの証人の信者であり、教団への参加を抵抗したところから、日常的に身体的虐待を受けた経験を持つ阿部真広さん(仮名)は「信者に対しての通知が出されたこと自体には、非常に意義があります。しかしこれで解決するかといえば、まったく不十分」との考えを示します。
一つ目に「身体的虐待行為である鞭について触れていない」点をあげ、「子どもへの虐待が、たまたま多かったわけではなく、教義に縛りつけるために、組織的に指示していた。その鞭(打ち)について何ら触れずに『児童虐待を容認していない』という一般論のみを述べている」「今後は鞭をしないと、明確に方針転換がなされたとはいえない」といいます。
二つ目に「輸血拒否について教義として存続させる方針を示している」、三つ目に「子どもに対する忌避の問題が明確に解決されていない」との三点をあげます。阿部さん自身も教団についての意見を述べて以来、母親と5年くらい連絡がとれないということです。
鞭打ちの問題には、一定の評価、しかしその後は、ゼロ回答
田中広太郎弁護士は「エホバの証人は一般社会をサタン(悪魔)の世としており、社会から隔絶された世界になっている。そうしたなかで、エホバの証人の側から、反応があったことは非常に大きい意味がある」と話します。
鞭問題については「エホバの証人は児童虐待を容認していません」「親は子どもに厳しく接してはいけない」などの明記を通じて「過酷な鞭については容認しないとのメッセージと理解でき、今後は鞭がなされないものと期待できる」として、この点においてはエホバの証人側の対応を評価しています。
さらに「こうした声明をしたことで、今後、鞭をされている報告が一件でもあったとすれば、あの声明はなんだったのかと、強い追及をすることができる」としています。
しかしながら、その他の「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&Aの周知」「児童の輸血拒否に関連した厚生労働省の要請」「忌避問題」に対してのエホバの証人の対応は、”ゼロ回答”との見解を示します。
いったい、どれだけの人が輸血拒否により亡くなっているのか?
さらに田中弁護士は、深刻な輸血拒否に関する問題を取り上げます。
「非常に信頼できる医療系の記事では、ドクターにアンケートをとって、輸血拒否や、それに直結したことが原因で亡くなったとされる人が241件あったとしています。しかしこれまでに報道されたものを、私どもが調べても2件しか出てきていません。数多くの(亡くなった)方が埋もれていることになります。今回の調査に答えたのは4000人を超える数のドクターですが、日本には34万人ものドクターがいるとされています。これをもとに考えた時に、全国で子どもさんや妊婦さんなど、どれだけの数の人が輸血拒否で亡くなったのかわかりません。輸血拒否により、どれだけの人たちが命を落としているのか、数字での把握をしてほしい。これは喫緊の問題であり、命の問題です」と国の側に早急な実態把握を求めます。
これは一部の医師に行った調査結果によるものとのことですが、これが事実とすれば、深刻なことです。信仰にもとづく輸血拒否の実態が、少しづつ明らかになってきているといえます。
これを受けて、立憲民主党の柚木道義議員は、自分で判断をつけられない未成年に、エホバの証人側が輸血拒否カードを持たせていることについて「本当に(子供が輸血拒否しているのか)そう思っているのかわからない。カードを持たせることをやめて頂きたいということを、今回の”ゼロ回答”を受けて(エホバの証人側に)お伝えしてほしい」と述べ、輸血拒否で亡くなっている人の数の実態調査も併せて、こども家庭庁などに求めました。
くさびを打ち続けることが何より大事
最後に田中弁護士は「今回の(厚労省からの)要請は、エホバの証人の最大の問題にヒビを入れてくださいました。しかしヒビ一つでは解決できません。今後も、くさびを打ち続けて、問題解決をしていくことが何より必要です」と強く訴えます。
元信者、弁護士の見解を聞くなかで、今回のエホバの証人の回答は、重要な点に関しては答えを濁していることがわかります。他のカルト思想を持つ集団もそうですが、うまく相手の要請・要望に答えたようにみえて、実は論点をずらすなどして、これまで通りの教義にもとづく行動を起こそうとする姿勢にも思えます。
旧統一教会においては、霊感商法や高額献金といった金銭的被害が大きくクローズアップされましたが、エホバの証人においては、鞭打ちや輸血拒否などの宗教2世への深刻な身体的虐待の疑いが出てきています。
旧統一教会において、長年にわたる金銭的被害の実情を把握することで、国が動き、多くの国民の目が教団に向けられることになりましたが、エホバの証人においても、過去に輸血拒否で亡くなった方がどれだけいるのか。その実態把握が、急務といえます。
今も、カルト思想を持つ親のもとで育った、多くの宗教2世の子どもたちが、私たちの見えないところで宗教虐待被害に遭い、苦しんでいるはずです。宗教2世の問題は始まったばかりです。これからも、私たちは教団の見解と行動をしっかりとみて、どのようにして子どもたちに救いの手を差し出すことができるのかを真剣に考えなければなりません。