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大相撲初場所12日目は波乱の展開 2敗で並んだ3人の優勝争いから目が離せない

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:長田洋平/アフロスポーツ

何が起こるかわからないのが相撲である。しかし、終盤戦にここまで読めない展開が待ち受けているとは、場所が始まる頃に誰が想像しただろうか。

負けて2敗の御嶽海、勝って2敗の阿炎

初日から絶好調だった御嶽海。自身2度目となる優勝はもちろん、その目の前には「大関」の文字もちらついていることだろう。10日目でついに土がついてしまったものの、翌日には大関・正代に落ち着いた相撲で勝ち、星を二桁に伸ばした。

12日目は阿武咲戦。過去の成績は10勝3敗と大きく勝っていたが、この日勝ち越しのかかった阿武咲は、気迫が違った。

立ち合いで、低く鋭く当たったのは阿武咲だった。数回突いたその刹那、思い切りのよいはたきに御嶽海の脚が流れた。ばったりと前に倒れる御嶽海。一瞬の勝負だった。

一方、勝って2敗を守った者もいる。阿炎だ。7日目・8日目と連敗してしまったものの、その翌日からはまた吹っ切れたように星を伸ばしてきた。

12日目は、実力者・隆の勝との対戦。どちらが勝ってもおかしくなかったが、阿炎が得意の突き押しで相手を圧倒し、腰の重い隆の勝に圧力勝ちしたのだ。これには思わず「おお」と声が出てしまった。

そして結びも波乱の展開に――

結びの一番は、1敗の照ノ富士と、負ければ負け越しが決まってしまう明生との対戦。2場所前に横綱を撃破した明生だが、腰に痛みがあるとのことで、今回はかなり分が悪いと思われた。しかし――。

両者互角に立ち合う。明生ののど輪に耐え、上体を下げたまま横綱が出るが、明生がうまく回り込みながら下がって肩透かしを決めた。横綱はこらえられずあっけなく土俵を割って土俵下に転落。ひざを気にする様子が見られた。

「いまの照ノ富士を倒せるとしたら、2場所前の明生の相撲。とにかく止まらず動き続ける。それしかない」と、場所前に安治川親方(元関脇・安美錦)が語っていた。今回も、まさに動き続けて白星を挙げたのだ。

明生はこれで、1横綱2大関撃破の殊勲の星。腰の心配はあるが、この勢いのまま千秋楽まで勝ち続けて、ぜひ殊勲賞を手にしていただきたい。

こうして、12日目を終えて2敗の力士が3人並んだ。13日目は、そのなかの御嶽海と阿炎が直接対決する。

優勝候補は照ノ富士以外いないと思われていた場所前。横綱本人を含め、この展開は誰も予想できていなかっただろう。今回は、横綱のひざの調子も心配なため、「だから相撲は面白い」とまで言えない複雑な心境ではあるが、千秋楽までもつれ込むことが決定した初場所の行方を、最後まで見守りたいと思う。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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