ミセス炎上の「コロンブス」奴隷制から遠く離れ、米カントリー音楽界で人種融和進行中! #専門家のまとめ
ミセス・グリーンアップルの「コロンブス」MV騒動は、日本ポップ音楽界の「社会常識」の後進性を明らかにした(まるで19世紀の児童むけ「偉人伝」みたいだった)。しかし21世紀の現代アメリカでは、「コロンブスら」欧州起源の白人による凄絶な虐待や搾取の被害にあっていた人々の子孫が「音楽」を手に、新しく力強い文化のなかで躍動している。現在の最前線のひとつが、かつて「白人男性が支配していた」カントリー音楽界だ。
ココがポイント
▼MVの描写からも想起された「奴隷制」の米大陸における起源もコロンブスだった、との観点から映画作品を紹介している
・Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」は何が問題だったのか? 映画で「奴隷制」を理解する(日刊ゲンダイ)
▼ダンス音楽と交雑、SNSで人気を呼んで……カントリーの流行の背景には「人種融和」精神の発露があった
・カントリー音楽が絶賛バズり中...大復活のカギはビヨンセ、「踊ってみた」、コロナ禍、Z世代(ニューズウィーク日本版)
▼ブームの決定打となったR&Bスーパースター・ビヨンセが、いかに昔から「カウボーイ文化が好きだったか」母親が語る
・ビヨンセのカントリー音楽への批判に母ティナが反応「カウボーイ文化は白人のものだけではない」(エル・デジタル)
▼現代最高峰の音楽家/プロデューサーでもあるファレル・ウィリアムスも「カウボーイ」ルックを提唱していた
・今注目の“カウボーイコア”はルイ・ヴィトンのファレルが火付け役! ビヨンセ、黒人女性初の全米カントリー音楽チャート首位も後押し(VOGUE JAPAN)
▼大人気のポスティ、白人男性の「歌えるラッパー」である彼も「初の」カントリー・アルバムに挑戦
・ポスト・マローン、カントリー・デビュー作を引っさげた全米ツアー発表(Billboard JAPAN)
エキスパートの補足・見解
かつては大雑把な歴史観のもと「ブルースは黒人の音楽、カントリー(ヒルビリー)は白人の音楽」とされていた。しかし正確には、両者はつねにお互い影響し合い、いろんな局面で「混淆」し続けていた。だからロックンロール誕生の際に一度部分的に「融合」し、ヒップホップ興隆の時代には白人ラッパーの成功例も生み出した。ゆえに両者の「区分」とは恒久的なものではなく、音楽産業の黎明期、資本家(おもに白人男性)の価値観に寄り添う形で設定されたものにすぎなかった、のかもしれない。この境界線を、いろんな形で無化していく行為の最新形が「カントリーを舞台に」起きているのが現在なのだ。ブームの先鞭をつけた黒人アーティスト、リル・ナズ・Xが不寛容なカントリー・ファンから批判された際にポスト・マローンが擁護発言した一幕もあった。要するに、言うなれば「白人農園主が黒人奴隷を所有していた」ような時代の空気、文化のありかたとすら遠く結びついていた、元来はきわめて保守的だった音楽ジャンルが「突然のルネサンス」に沸き立っているのが現在なのだ。
これを日本に置き直して言うならば、演歌が突如大人気となり、若きラッパーやロック歌手が次々に参入、韓国のトロットやアリランともクロスオーヴァーして、現代的なポップ・ソングとして復活する……ような感じだろうか。現実的には、起こりそうもないのだが。なぜならば、前回の「専門家のまとめ」にも記したとおり、日本人の少なくない層に蔓延するガラパゴス症状、心の中に壁を作る「文化的鎖国」のせいで、現在、深刻な退行現象が起きているからだ。「コロンブスの扮装をして」植民地主義や奴隷制を、さしたる批判的視点も取り入れずにコメディとして演じるような点が、その最たる表象だ。かつて植民地として支配されていた韓国は、視野を大きく広げ、国際的に雄飛していく「文化」を育んだ。つまり「ビヨンセたちと同じ」土俵に立った。しかし「支配していた側」の末裔は……いまのところ「彼我の差」は、目がくらむほど巨大だ。