太平洋高気圧の強化で台風5号は北へ、そして「熱中症警戒アラート」
台風5号が早い速度で北上
台風5号は、台風が発達するかどうかの目安とされている海面水温27度より高い東シナ海を、勢力を保ったまま北上しています(図1)。
台風5号は、中心付近より、その東側や南側に分厚い積乱雲の塊を伴っていますので、台風進路の東側にあたる四国や九州では大雨に警戒が必要です(タイトル画像参照)。
台風5号は、次第に進路を東に変え、8月11日には日本海で温帯低気圧に変わる見込みですが、台風の南側にある雨雲も一緒に北上してきます。
台風5号が通過しても、しばらくは雨に対する警戒が必要です。
台風5号は、強まってきた太平洋高気圧の縁辺の北への流れが強い領域を北上していることから、例年の8月の台風より、かなり早い速度で北上しています。
台風5号のように、東シナ海(北緯25度付近)を8月に北上している台風の進行速度は、毎時14キロ(7.5ノット)くらいですから、台風5号が時速55キロ(29ノット)という北上速度は、この約4倍です(図2)。
図は、少し古い資料ですが、著者が台風の進行速度について調査したものです(進行速度の単位はノット)。
同じ時の調査では、台風の平均速度は時速21キロ(11.4ノット)で、北東から東へ進む台風が一番早く時速30キロ(16.3ノット)、次いで北北東から北北西に進む台風で20キロ(11.0ノット)、北西から西へ進む台風の19キロ(10.2ノット)と続いています。
北上する台風は豊作の兆し?
夏に台風が北上するときは、太平洋高気圧が強まって日本付近を覆い、日本上空にあった偏西風を押し上げているからです。
このため、北から寒気が南下しにくく、台風が直撃する地方以外は、暑い日が続くことになります。
昭和初期に、「台風北上は豊作の兆し」といわれたことがあります。
当時、冷害が深刻な社会問題となっており、台風の被害以上に、暑い日が続くことが望まれていたからです。
令和2年(2020年)は、全く逆で、新型コロナウィルスの流行で、暑くてもマスク着用が新しい日常となっています。
「台風北上は熱中症の兆し」です。
熱中症警戒アラート
令和2年(2020年)は、8月に入ると夏日(最高気温が25度以上の日)や真夏日(最高気温が30度以上の日)、猛暑日(最高気温が35度以上の日)の観測地点が増えています。
8月9日の日曜日は、夏日や真夏日の観測地点数は8月5日に及ばなかったものの、猛暑日は81地点(気温を観測している921地点の約1%)と、今季最多を記録しています(図3)。
台風5号は日本海で温帯低気圧に変わり、日本列島は広く太平洋高気圧におおわれる見込みです(図4)。
このため、今週は各地で気温が上昇し、夏日はあたりまえとなり、猛暑日を観測する地点も急増します。
暑さはしばらく続くことになりますが、太平洋高気圧のまわりを北上してくる暖気は湿っており、湿度の高い暑さ、つまり、熱中症なる危険性が高い暑さとなる見込みです。
気象庁と環境省は8月6日夕方に、東京都、千葉県、茨城県に「熱中症警戒アラート」を発表し、8月7日は、外出はなるべく避け、室内をエアコン等で涼しい環境にして過ごしてくださいと呼び掛けています。
これが、「熱中症警戒情報」の初めての発表です。
その後も、連日「熱中症警戒アラート」を発表となり、8月10日は関東の1都6県に対しての発表となっています(表)。
これだけの広域に対する発表は初めてで、千葉県では4日連続の発表です。
また、気象庁では、特に気をつけていただきたいこととして、次の3点をあげています。
・高齢者は、温度、湿度に対する感覚が弱くなるために、室内でも夜間でも熱中症になることがあります。
・小児は、体温調節機能が十分発達していないために、特に注意が必要です。
・晴れた日は、地面に近いほど気温が高くなるため、車いすの方、幼児等は、より暑い環境になります。
「熱中症警戒アラート」が発表されたら、また、基本的に運動は行わないようにすると共に、身近な場所での「暑さ指数」を確認し、熱中症予防のための行動をとる必要があります。
ただ、「熱中症警戒アラート」は、令和3年度(2021年度)から全国展開を予定していますが、現時点では、関東甲信地方だけを対象とした情報です。
つまり、8月10日は1都6県だけが熱中症に厳重警戒ではありません。
気象庁が高温注意情報を発表している東北地方、北陸地方、東海地方、近畿地方、中国地方、四国地方でも、「熱中症警戒アラート」が発表するような状態になる可能性があります。
環境省熱中症予防情報サイトによると、熱中症警戒レベルは、東海から近畿、中国・四国でも熱中症警戒レベルが「危険」、「極めて危険」となっており、関東だけが危険であるわけではないことを示しています(図5)。
今週は、周囲をみて、こまめにマスクをはずしたり、水分補給をするなど、熱中症対策が必要な一週間です。
防げる熱中症は防がないと、新型コロナウィルス対策で極度に忙しくなっている医療機関に、さらなる負担をかけることになります。
タイトル画像、図1、図5の出典:ウェザーマップ提供。
図2の出典:饒村曜(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計―進行速度―、研究時報、気象庁。
図3の出典:気象庁資料、ウェザーマップ資料をもとに著者作成。
図4の出典:気象庁ホームページ。
表の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。