北海道の大雨と、初めて関東に発表された「熱中症警戒アラート」
台風4号から変わった低気圧
日本海には台風4号から変わった低気圧があって、発達しながら北東進しています(タイトル画像参照)。
気象庁では、早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性について、「高」「中」の2段階で発表しています。
それによると、8月7日は北海道宗谷地方で、8月8日は秋田県と山形県で大雨警報を発表する可能性が「高」です。
また、北日本や北陸地方では「中」のところが多くあります(図1)。
北海道は発達する低気圧の影響により、7日(金)にかけて、非常に強い風が吹き、海上は大しけとなり、北部の宗谷地方では局地的に記録的な大雨となるおそれがあります。
また、東北地方では前線の影響により7日から9日ごろにかけて大雨となる見込みです。
地元気象台の発表する大雨警報などの気象情報の入手に努め、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に厳重に警戒すると共に、暴風や高波に警戒してください。
8月6日は日本海側を中心とした暑さ
令和2年(2020年)は、沖縄地方を除いて、梅雨明けが全国的にかなり遅くなりました。
しかし、7月末からの各地の梅雨明けに伴って、太平洋高気圧に覆われ、気温が高い日が続いています。
南から暖気の北上に加え、強い日射も加わって気温が上昇し、連日、猛暑日(最高気温が35度以上の日)や、真夏日(最高気温が30度以上の日)の観測地点数は、連日、今年最多を更新していました(図2)。
8月5日の最高気温は、山梨県・勝沼と大分県・日田で36.7度など、東日本の太平洋側から西日本の67地点(気温を観測している921地点の約7パーセント)で猛暑日を観測し、日本全国の710地点(約77パーセント)で真夏日を観測しています。
翌6日の最高気温は、富山県・富山で37.5度など、日本海側の地方を中心に61地点(約7パーセント)で猛暑日を、日本全国の660地点(約72パーセント)で真夏日を観測しています(表1)。
6日は5日に比べて、猛暑日や真夏日を観測した地点数が若干減っていますが、全国で一番高い気温は6日に観測しています。
つまり、富山県・富山の37.5度は、今季最高の気温です。
これは、日本海にある台風4号から変わった低気圧に向かって南よりの風が吹き、日本海側の地方でフェーン現象がおきたためです。
初の「熱中症警戒アラート」
8月7日の暑さの中心は太平洋側の見込みです。
太平洋高気圧のまわりを北上してくる暖気は湿っており、湿度の高い暑さ、熱中症になる危険性が高い暑さとなります。
このため、気象庁は8月6日夕方に、東京都、千葉県、茨城県に「熱中症警戒アラート」を発表し、外出はなるべく避け、室内をエアコン等で涼しい環境にして過ごしてくださいと呼び掛けています。
また、気象庁では、特に気をつけていただきたいこととして、次の3点をあげています。
・高齢者は、温度、湿度に対する感覚が弱くなるために、室内でも夜間でも熱中症になることがあります。
・小児は、体温調節機能が十分発達していないために、特に注意が必要です。
・晴れた日は、地面に近いほど気温が高くなるため、車いすの方、幼児等は、より暑い環境になります。
「熱中症警戒アラート」が発表されたら、また、基本的に運動は行わないようにすると共に、身近な場所での「暑さ指数」を確認し、熱中症予防のための行動をとる必要があります。
「熱中症警戒アラート」の発表基準となっているのは、後述しますが「暑さ指数」です。
「暑さ指数」の利用上の目安として、33以上:極めて危険、31以上~33未満:危険、28以上~31未満:厳重警戒、25以上~28未満:警戒、25未満:注意となっています。
「熱中症警戒アラート」が発表になった東京都、千葉県、茨城県では、8月7日の日中は、「極めて危険」の33を超える場所があります(図3)。
ただ、「熱中症警戒アラート」は、令和3年度(2021年度)から全国展開を予定していますが、現時点では、関東甲信地方だけを対象とした情報です。
つまり、東京都、千葉県、茨城県だけが熱中症に厳重警戒ではありません。
高温注意情報が発表となっている東北地方、東海地方、近畿地方、沖縄地方でも、「熱中症警戒アラート」が発表されてもおかしくない状況です。
事実、8月7日の「暑さ指数」の予報をみると、関東から西日本の太平洋側と沖縄地方では、ほとんどが「危険」レベルで、中には「極めて危険」レベルもあります(図4)。
高温注意情報と「熱中症警戒アラート」
気象庁で高温注意情報を発表する切っ掛けは、平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災です。
福島原子力発電所の事故を受け、全国の原子力発電所が一斉に発電を停止したため、全国的に省エネルギーや節電対策がとられました。
このため、気温の上昇による熱中症が問題となり、気象庁では、同年7月から北海道と沖縄を除く45都府県で高温注意情報を発表することにしました。
北海道と沖縄が除かれたのは、電力需給に余裕があったためですが、翌24年(2012年)からは47都道府県に拡大となっています。
高温注意情報の発表基準は、最高気温の予想が35℃以上の猛暑日になったときです。
猛暑日を基準とすることはわかりやすいのですが、熱中症の危険性は、気温だけで決まるのではなく、湿度など含めた体感温度で決まります。
このため、高温注意情報は熱中症対策には利用しづらいものでした。
熱中症対策に使われているのは、昭和32年(1957年)に米国陸軍での訓練の際の熱中症を予防することを目的として提案された「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。
「暑さ指数」は、気温だけでなく、湿度、日射・建物や地面からの照り返し(輻射)などの熱も取り入れた数値であり、湿度7:輻射熱2:気温1の割合で算出されるように、湿度の高さが重要な要素となっています。
具体的には、次の式で表されます。
屋外:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度(気温)
屋内:「暑さ指数(WBGT)」=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
ここで、感部を布でおおって湿らせた湿球温度計で求めた温度が湿球温度です。
空気が乾いていればいるほど蒸発熱を奪われて気温(乾球温度計で求めた温度)との差が大きくなります。
黒球温度は、輻射熱を測るため、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度センサーを入れた黒球温度計で測る温度です。
環境省では、平成18年(2006年)から、熱中症の危険性を示す「暑さ指数」の情報提供をホームページで始めていますが、暑さ指数の単位は度と気温の単位である度と同じであることに加え、基準が分かりにくいこともあって一般への認知度が低く、あまり活用されていませんでした。
そこで、環境省と気象庁は、広く情報を知ってもらい、熱中症で救急搬送される人を減らそうと令和2年(2020年)7月から関東甲信で始めたのが、「熱中症警戒アラート」です。
そして、令和3年(2021年)夏には、全国に広げていく予定です(表2)。
世界的に気温と湿度が高くなっており、日本も例外ではありません。
東京を例にとると、最高気温が35℃以上の日数の増加より、最高「暑さ指数」が33℃以上の日数の増加が目立っています(図5)。
それだけ、「熱中症警戒アラート」の活用が期待されています。
タイトル画像、図1、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。
図2の出典:ウェザーマップ資料をもとに著者作成。
図5の出典:環境省資料と気象庁資料より著者作成。
表1の出典:気象庁ホームページ。
表2の出典:気象庁資料をもとに著者作成。