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『週刊新潮』が『週刊文春』(文春砲)を大特集で糾弾!そこまでするほどの大事件なのか?

山田順作家、ジャーナリスト
『週刊新潮』の中吊り広告

なんとNHKニュースまでが、次のように報じた。

「出版取り次ぎ大手のトーハンが、「週刊新潮」の中吊り広告を、ライバル誌の「週刊文春」を発行する文藝春秋の社員に事前に見せていたことがわかりました」

NHKばかりではない、新聞はすべて報じた。ワイドショーも報じた。しかし、これがなんでニュースなのかよくわからない。「文春砲」が話題になり、『週刊新潮』が大体的に報じたから、どのメディアも大ニュースだと思ってしまったのだろうか?

発端は、5月18日発売の『週刊新潮』(5月25日号)。その見出しは「『文春砲』汚れた銃弾」。新聞広告や車内吊りなど驚くほど大きな見出しで、グラビアも含めて10ページ以上も割いた大特集だ。しかし、中身はなんともせこい。文春の人間が新潮の中吊り広告をコピーしている写真を、さもすごいことのように報じているのだ。そして、新潮の記事を元にして文春が記事を書いたことを克明に解き明かし、その行為を糾弾している。

具体的に言うと、『週刊文春』編集部は『週刊新潮』の中吊り広告を毎週火曜の校了日午後に入手する。そうして、新潮の記事のラインアップ、タイトルをチェックして、校了までの4、5時間の間に後追い取材をして、場合によっては新潮のスクープ潰しをしているというのである。たとえば、2014年に起こった朝日新聞「慰安婦誤報騒動」のときに、『朝日新聞』が池上彰氏のコラムの掲載を拒否したことがあった。

このことは、『週刊新潮』のスクープで、当然、中吊り広告に載せたが、『週刊文春』はそのときまでこの事実を知らず、新潮の中吊りを見て追い上げ記事を掲載したというのである。

で、私の感想を率直に言えば、新潮は血迷ったとしか言いようがない。たしかに文春の行為はアンフェアだ。しかし、私の経験から言えば、抜きつ抜かれつしているメディアの現場では、テレビ、新聞、雑誌まで、みなライバルがどのような報道、記事をやっているか、情報網を張りめぐらしている。つまり、メディアの「スパイ活動」は日常茶飯事である。

私の週刊誌現役時代を振り返っても、他誌の記事を事前に入手するのは当たり前だった。中吊り広告なんかでは遅い。たとえば、入稿原稿がゲラになる段階で、印刷所に手をまわして手に入れていた。新聞も同じだろう。常に最新版を入手して相手がなにを書いているか見ているのだ。

残念だが、『週刊新潮』は管理が甘いと言うしかない。こんな記事を出すよりも、『週刊文春』にここまでやられ放題になっていることを反省するのが先だ。

このような特集記事をやって、なにが面白いのだろうか? 私には、本当によくわからない。むしろ、こういうことまでやって、スクープ合戦にしのぎをけずっていることを肯定することのほうが、読者にとってはよほどプラスだ。

『週刊新潮』は、私たちの世代にとっては、もっともスマートで洗練された週刊誌である。

したがって、残念だが、新潮がやるべきことはこれではない。私が週刊誌をやっていたころは、ライバルをもっと尊重していた。やられたら、次のスクープでやり返す、それがメディアの流儀だと思っていた。やられた悔しさを、まさか自分の誌面ではらそうなどと考えたことすらなかった。

そう思うと、新潮は、コラム記事で、文春を皮肉るような「大人の対応」をするべきだったのではないだろうか。それが、『週刊新潮』というもっともスマートな週刊誌のやることでは。なんか、本当に哀しい出来事だ。

(もしかしたら、今回のことが“出来レース”(談合のうえに行われた)の可能性もあります。もしそうならば、ここに書いたことはすべて的外れです)

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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